一話 隠れた狂人
「それじゃあ、五時にブラスト広場に集合な」
そう約束してエドマンドから別れてから、およそ四時間が経とうとしていた。手元の時計を見ると、待ち合わせ時間はとうに過ぎている。少女はその歳に似合わない、ひどく疲労を帯びたため息をついた。
少女――レベッカ・ホームズは今年で十七を迎える、父親育ちの活発な娘だ。『迷うならやめろ』という十年前に失踪した母親の教えの影響か、いつも直感で動いている。その後先考えない行動はもはや癖と言っても過言ではない。癖というのは厄介で、自分で意識してやめようとしてやめられるものではない。たとえその行動の所為で後々面倒なことに巻き込まれるとわかっていてもだ。
そして今、彼女は再びその癖に悩まされていた。
見てしまったのだ。雑踏に紛れて婦人のブランドものの鞄から、男が財布を抜き取りだした瞬間を。
ほんの一瞬だけ、レベッカは躊躇した。しかしそれは本当に一瞬の出来事。すぐに頭を切り替えると、彼女は人々の流れに逆らって男を追いかけた。その少し後で財布がないことに気付いたであろう婦人の甲高い悲鳴が背中を押す。
「こら待て!」
賑やかな通りの騒音に掻き消されたかと思った声は、しかしどうやら男の耳に届いたようだった。レベッカから見える男の体がぶるっと震え、緊張からなのか大粒の汗をいくつも浮かべた顔が声の主を捉えようと背後を振り向く。目が合う。鬼の形相で睨みつけてくる少女に男の体は再度びくりと大きく震え、それから今までとは比にならない程の速さで雑踏の向こうへと駆けて行った。姿が見えなくなったことに彼女はその整った顔立ちには似合わない表情で舌打ちする。さっきまで遠慮がちに人々を押し退けていた彼女だったが、それを機に人などお構いなしに強引に人々の隙間を縫って行くことに決めた。
「邪魔よ! そこどいて!」
苛立ちの声を上げながら、歩くのでさえ困難な雑踏を駆ける。ときどき怒号が飛んで来たが、彼女は全てを無視してただ前方に目を見張らせながら疾走を続けた。長身の男の側を通り抜けたとき、ついにその姿を確認することができた。
「こんの!」
襟に向かって思い切り手を伸ばす。幸運にも相手が低身長ということもあり、レベッカの手は易々とその襟を掴んだ。ぐへぇ、と男がみっともない声を上げ、その場で歩みを止める。それからレベッカの方を振り向くと一息つき、白々しく眺めてきた。
「……何ですか?」
「何ですかじゃないわよ! 盗んだのあんたでしょ? さっさと出しなさい。じゃないと役人に突き出すわよ」
「う……そこをなんとか……」
「駄目。ほら、早く出しなさい。あの人が通報してたらもう役人来てるかもよ。逃げる時間欲しくないの?」
「…………」
言い逃れようとする男にズバズバと言い寄ると、彼は観念したのか一度だけ苦虫を噛み潰したような渋面になると、名残惜しそうにポケットからブランドものの高そうな財布を取り出し、レベッカの手に載せた。それから肩を落とし、暗い顔で雑踏をのろのろと歩いて行く。その力無い後ろ姿に同情しそうになったが、レベッカは頭を振るとその気持ちを隅に追いやり、遠く離れた後ろで事情聴取されているであろう婦人の下へと踵を返した。
そのときだった。
「それは君の財布かね?」
振り向いた先にいた人物の格好にレベッカは驚愕と同時に恐怖を抱いた。
そこにいたいかにも神経質そうな彼は、役人の服装をしていた。
「いや、違うけど」
「なら君は今ここで異常者の仲間入りという訳だ。異常者デビューおめでとう。さぞかし嬉しいだろうね」
瞬時にそう言い返され、レベッカの思考は硬直した。
「ちょっと待て……待ってください! 私はただこの財布を持ち主の下へ返そうと思っただけで……」
「下手な言い訳はやめてくれないか。吐気がする」
「言い訳なんかじゃありません。私は本当に……あなたにだって情報が来ているはずよ。この通りでさっきスリがあったっていう……」
「あぁ、もちろん知ってるよ。そしてその犯人は君なんだろう?」
「だから違うって言ってるじゃないですか! 私はスリの現場を目撃して、この財布をさっき犯人から奪い取ったんです! 持ち主に返すために!」
「証拠は?」
そこでぐっと言葉を詰まらせる。高級な服に身を包んだ婦人の姿が脳裏に浮かんだ。
「そうだ。きっとあの婦人なら知ってるはずです。あの人に確認を取ってみてください! 財布を取ったのは男なんです! 私じゃ……」
「私ならここよ」
声に振り返ると、そこには例の婦人が屹然とした様で立っていた。なぜここに? という疑問が先出る。役人から知らせを受けたのだろうか。だったら話は早い。
レベッカは彼女に声をかけようとしたが、その前に婦人がその落ち着いた姿とはかけ離れた、ズカズカと毅然とした態度で歩み寄ってきた。そしてその様子を凝視するレベッカの前で止まったかと思うと、いきなり気品のある白い手を振り上げた。
雑踏に一際大きく乾いた音が響く。頬につんとした痛みが走り、じんわりと広がって行く。
叩かれた。
「今更そんな顔して渡されたって騙されないわよ! この盗っ人! よくも私の財布を取ったわね!」
婦人が雰囲気にそぐわない金切り声をあげながらレベッカを睨みつけてくる。薄い化粧を施された顔は紅潮し、日傘に添えられた手は怒りで小刻みに震えている。普段おしとやかな人が激昂しているのにはそれなりの迫力があり、レベッカの全身には自然と鳥肌が立っていた。どわっと体から冷汗が噴き出る。
「違う。私はただ……」
「ただ何よ。言い訳しないで。あなたが大急ぎで逃げて行くのを私は見たんだから!」
「それは犯人を追い掛けようと……」
「どうして赤の他人のあなたが犯人を追い掛ける必要があるの? 犯人を追いかけた所であなたに得なんてないじゃない」
「確かにそうだけど……」
「わかったわ……あなた、私に財布を返すフリをして、その財布を自分の物にしようとしたんでしょ。そうなんでしょ? ねぇ」
「…………」
婦人が憤怒の形相で顔を覗き込んでくる。こちらの言葉を何一つ聞こうとしない彼女の態度にレベッカは沈黙するしかない。彼女達の周囲にはいつの間にか人だかりができており、人々が何事かと覗き込んできていた。
「まったく、汚らわしい。……返して! それは私の財布よ」
呆然とするレベッカの手に力無く握られていた財布が婦人に強引に奪い取られる。彼女はすっかり会話から外れていた青い制服の男にずんと近寄るとレベッカを指差して不機嫌に言う。
「役人さん、早くこの異常者を逮捕してください。それと首輪のランクも上げて……?」
そこで何かに気付いたようにレベッカを凝視し、大層ふしぎそうに首を傾げた。
「……あら? あなた首輪は?」
「…………」
その問いにレベッカは彼女を睨みつけた。すると婦人はやっと今気が付いたように目を丸くした。
「……え、もしかしてあなた、正常者だったの? 嘘。どうして? こんな異常なのに。最近警備が甘過ぎなのかしら?」
心外な言葉の数々にふつふつと怒りが湧いてくる。彼女は本当に意外そうな目でレベッカを頭から爪先までじろじろと眺めた。
「紛らわしいわね。駄目じゃない、ちゃんと首輪付けてなきゃ。……もう、さっきあなたの手触っちゃったじゃない。どうしてくれるの」
そう言うとすぐに婦人は高級そうな鞄からハンカチを取り出し、真っ白な右手を念入りに拭き始めた。
「さっきから言わせておけば……」
意思とは別に口が動く。出てきた言葉には自分でもよくわかるほど白熱した怒りが込められていた。
「な、なによ。逆らおうっていうの? 正常者であるこの私に?」
動揺した声色で婦人が彼女を見る。その瞳はレベッカという人間ではなく、異常者という存在を蔑んでいるように思えた。
「…………」
集まっていた野次馬が案外な展開にざわつき始める。何があった、どうなってるんだ。そんな声がどこからともなく発せられる。雑踏の中に人だかりができてしまったせいで前に進めなくなった人達の怒号がここまで聞こえてきた。
「ちょっと君。まさか僕達に反抗しようなんて馬鹿なこと考えてないよね?」
男がどこまでも平淡な声で訊いてくる。緊張と怒りで渇いた喉からレベッカは意思を吐き出す。
「私は何も悪いことなんてしてない。全部この人の勝手な妄想よ。もしあなたがこの人の話を信じて私を逮捕するって言うなら、私は全力で反抗するわ」
婦人を睥睨し、男の言葉を待つ。野次馬の声の大きさが少しだけ増し、騒音に似た多くの声ががやがやと鼓膜を打ってくる。見るとほんの少し暗くなり始めた夏の夕方にしては野次馬の数は多いように思えた。
男の決断は早かった。
「残念ながら僕は容疑者の言葉を信じるほどお人好しじゃないのでね。ちゃんと君には付けて貰うよ」
当たり前と言うような、案の定な男の答えは周囲の人間をあまり驚かせなかった。彼は身構えるレベッカにまるで見せつけるように、腰のポーチからそれを取り出し胸の前へと移動させた。黒い革手袋を着た手で持ち、空いた片手でとんとそれを弾く。
「死の首輪を、ね」
不意にずっと平淡だった彼の顔に、ぐしゃりと引き裂くような獰猛な笑みが生まれ、レベッカは息を呑んだ。さっきとはまた別の理由で鳥肌がたつ。
(この人……)
確かに役人の中には稀に発狂した人間がいるという噂は知っていたが、目の前で見るとやはり違う。ぶるりと体が震える。先程まで紳士な顔付きだったはすが、今ではその仮面は思い切り剥がれているのだ。それに恐怖を感じないはずがなかった。
「お前らみてぇな異常者にとっては必需品だろ? 首輪は。それを今から俺が付けてやろうってんだ。まったく感謝してほしいね」
白い革製の首輪を指に引っかけて回しながら、男は一変した口調で険悪に言い捨てる。役人とはいわば常に正常者の味方だ。人々にとっては真面目な印象が強い。だがその役人の態度が目の前で一瞬にしてまるで町のチンピラのようなものに変貌したのだ。周囲の野次馬が何か異端なものを見るような瞳で彼から後ずさって行く。その様子を見て、男は腑に落ちないという表情で呆れの籠ったため息をついた。
「ったく……いっつも俺達に守ってもらってるってのに少しは感謝とかねぇのかてめぇらは。冷たい野郎だな。たかがこれくらいでビビってんじゃねぇよクソ。一般人は一般人らしく事の成り行きを突っ立って見てればいいんだよ。……ったくもう」
苛立った声を上げる男の周囲の野次馬、側にいた婦人も再び彼から遠退いた。男は彼らの反応に舌打ちするとレベッカと向き直った。彼と視線を交わす。胸の辺りに冷たいものが落ちた。
「んじゃまぁ始めっか。おにごっこ」
不意に男が軽い声色でそう言った。思わず顔をしかめる。
「おにごっこ?」
「ああ。ルールは普通のおにごっこと同じ。お前は俺が十五数えるまで逃げろ。場所は限らない。時間もな。いいか、これは無限おにごっこだ。お前が俺に捕まるまで永遠に終わらない。んで鬼である俺に捕まったら、お前はこの首輪を着けられる。それがこのおにごっこのルールだ。ああそれと、仲間を呼んだらそいつにも首輪着けるからな。それが嫌だったら仲間なんて呼ぶな。これは一対一のゲームだ。反則やったらその時点でゲームオーバー。そういうことだ」
言い終わると彼はポケットから煙草を取り出し、それを口にくわえると火を付けた。それからゆっくりと紫煙を吐き出す。風に乗って流れてきた煙を顔面に受け、レベッカは眉をひそめた。
「なんでそんな面倒なことするのよ。今私を捕まえればそれで終わりじゃない。どうして……」
「どうして? 楽しいからに決まってんだろ。馬鹿かお前は」
「…………」
「準備はいいな? 行くぞ」
有無を訊かずに男が唐突にカウントダウンを始める。抗議しようかとも思ったが、そうした所で結果は見えている。するかしないか。結局どちらを選んだ所でレベッカの辿る道は決まっているのだ。
死の首輪の装着。
それが死と同等の意味をなすことをレベッカは知っている。いや、レベッカだけではない。この国の人間なら誰でも知っている常識なのだ。
だからレベッカは彼に背を向け、走り出した。大勢の野次馬の間を縫い、人混みを抜け、あてもなくただ走った。走り続けた。
走り続けることこそが今この命を引き延ばす唯一の手段なのだ。
だから走る。
人の多い大通りを抜け、狭く曲がりくねった路地裏を駆ける。暗がりの中、水たまりを踏む二つの足音が木霊する。もう十五秒の差を縮まれた。だが振り返って確認する余裕はない。ひたすら前を向いて走る。
走る、走る、走る。
旅をしているということもあって体力にはそれなりの自信があったが、その自信は今崩れようとしていた。息が荒い。初夏の熱気が顔にへばり付いてくる。それを振り払おうにも頭を振る動作も惜しい。もやもやとした空気に胸の周辺が不快感を示す。喉が渇く。汗で髪が乱れる。腕に砂塵が付く。だけどそれらに構ってはいられなかった。
通りに出る。突然路地裏から猛スピードで出てきた少女に人々から驚きの声があがる。先程の大通りよりは人は少なく、レベッカは速さを緩めずに歩道を疾走していく。人々の好奇の目がときどき背に突き刺さったが、レベッカは無視してそのまま駆ける。町の中心へ進んでいるのか、やがてまばらだった人の数も増えてきて、走り辛くなってきた。仕方なく入り組んだ路地裏に再び入る。入ってから間も置かずにもう一つの足音が路地裏へと忍び込んできた。
(駄目だ……全然差を開けない……)
もうレベッカの体力は底をつこうとしていた。それは全速力でここまで逃げてきたことを考えると当然の話だった。しかし、だからといってこのおにごっこに待ったは通用しないだろうことは分かり切っている。なら走り続けるしかないのだ。永遠に。レベッカの体力が本当に底をつくそのときまで。
「くそっ……!」
体力の無駄遣いだとわかっていても呟かずにはいられなかった。命の危機が迫っているというのに、自分には走るという選択肢しか残されていない。なんと惨めなことだろうか。いや、今は自己嫌悪に浸っている場合ではない。一刻も早く男から逃げなければならないのだ。余計な考えなどしていられない。
しかし、次の瞬間にはレベッカの足は止まってしまっていた。
止まらざるおえなかった。
道の角を曲がった先にあったのは、巨大な壁だった。
「え……?」
肩で息をしながら遥か上を見上げる。駄目だ。完全な行き止まりだ。
「う、そ……でしょ? そんな……」
「あーあ、行き止まりか」
陽気な声が背後から飛んで来る。振り向くとそこにはやはり男がいた。
「残念だったな。まぁここまで俺から逃げられたんだから大したもんだ。褒めてやるよ。俺的にはもうちょっと楽しみたかったんだけど……まぁ仕方ない。これがルールだし」
「…………」
「おいおいそんな怖い顔すんなよ。こうなったのは全部自分の責任だろ? いい加減現実逃避すんのやめなって。言っとくけど現実逃避した所で何も生まれないよ?」
悔しさに奥歯を噛み締め、ぎっと男を睥睨する。素直に従わない少女に彼はやれやれといった感じで肩をすくめると呆れたため息をついた。
「まぁいいや。んじゃまあとりあえず着けさせて貰うよ。はい、異常者デビューおめでとう」
軽快な声色で男は目の前の少女に死を宣告する。声の割にその顔には狂喜も罪悪感も何もなく、ただ無表情が広がっているばかりだ。瞳にさえも何も映らず、そこには冷酷さを極めた軍人がいた。
全身に鳥肌が立ち、鼓動が速くなる。その姿に戦慄した。彼を見て心の底から怖いと感じる。体が恐怖で満たされる。小刻みな震えが止まらない。背を向けて逃げようと思ったが、男から目を離せばその瞬間に襲われるような気がした。仕方なく諦め、後ずさろうとして尻餅をついた。その間にも男はゆっくりと近づいてくる。鳥肌も震えも収まる気配を見せない。
恐怖。
まるでその感情が体の中で暴れ回っているような感じだ。今にも爆発してしまいそうな程に激しく、速く、強く……。
白い悪魔が近づいてくる。首輪の姿をした悪魔が。
その身に爆弾を宿した悪魔が。
(嫌よ……)
死の首輪――その正体は爆弾とGPS機能がついた小型監視システム。
そして首輪は軍の持つ鍵を使わないと絶対に外せない。
つまり着けられれば一生、いつ爆発するかもわからない爆弾と共に過ごすことになるのだ。
(そんなの……そんな人生嫌よ……)
男が近づいてくる。その手に悪魔を握って。
「やめて……」
声にもはや男は反応しない。ただまっすぐにゆっくりと近づいてくる。ゆっくりと。ゆっくりと。ゆっくりと……。
男が消えた。
どこへ? どうして? 何のために?
一瞬にして疑問が頭を支配する。目まぐるしく多くの思考が発生し、発展していく。その様々な憶測が飛ぶ中で、記憶が一心に訴えかけてくる。
何かが横切り、そのすぐ後で男が消えたのだと。
ガシャンと派手な音が高く路地裏に轟いた。レベッカはふらふらとおぼつかない足取りで立ち上がると、角で見えないそちらへと歩み寄る。角を曲がろうとした所で不意に現れた手にがしっと腕を掴まれた。驚きで体が大きく震える。
「おい」
恐怖にきつく目を瞑りうつむいていると声が降ってきた。そこでわずかに首を傾げる。声は彼のものよりも高いように思える。あの男ではないのだろうか? 彼ではないのなら、この人物は一体……。
恐る恐る顔を上げる。少年がいた。フードから覗く顔からして、恐らくレベッカと同じくらいかいつくか上だろうか。
「何ぼけっとしてんだ。行くぞ」
そう言って腕を引っ張って来る。今にも走りだそうとする彼に訳がわからずレベッカは困惑して尋ねた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。行くってどこに?」
「逃げるに決まってんだろ。それともお前、あいつに捕まりたいのか」
振り向いた少年がくいと顎で背後を示す。見るとそこにはパンパンに膨らんだゴミ袋が積み上げられており、その側面に男がゴミ箱の青い蓋を被って埋もれていた。動かない所を見ると、どうやら気絶しているらしい。
「こ、これって……」
「説明は後だ。いいから行くぞ。他の奴らが来ちまう」
状況が全く掴めないことに不快感を覚えたが、確かにそれもそうだ。こんな所に止まっていてはその内騒ぎを聞きつけた役人が来てしまう。そうならったらもう逃げるチャンスなどない。
「う、うん。わかった」
慌てて頷く。少年が腕を引き、路地の奥へと走って行く。置いて行かれないよう、レベッカは力を振り絞って足を動かした。