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04:不快指数は約60


 エルヴィン様と変な友情のようなものを築いた日の夜。

 三日ぶりに旦那様がご帰還あそばせたわ。正直、帰っても帰ってこなくてもどっちでもいいと思ってたけどさ。初日にあんなにはっきり拒絶しちゃったけどさ。でもやっぱり一応結婚してニコラウスは私の夫だし。なんというか、心配してたわけじゃないけどさ、何してたんだろうっていうか。ほら、ニコラウスよりも先にエルヴィン様と仲良くなっちゃったし。

 ……って、私、何に言い訳してるのかしら。


「顔が百面相をしていますよ。奥さん」


 ニコラウスが苦笑しながら、ソファにごろりと寝そべる私に近づいた。そこで気付く。お姫様な私だったら、こんな態度で旦那様を迎えたりしないってこと。この国に来て初めて素をさらした反動か、ちょっと気が抜けてたわ。やっちゃった。


「おかえりなさいませ旦那様。はしたない格好で申し訳ありません」


 あわてて立ち上がって夜着の裾を整える。さすがに祖国にいた時ほど豪華ではないけど、貴族の娘が着てそうな気品というか金がかかってるというか、そういう夜着。結構しわになっちゃったわ。高価な服のしわって、それを取るほうからするとものすごい神経使うのよねー。悪いことしちゃったかも。


「三日間も帰れずにお一人にしてしまってすみませんでした。……実は」

「別にご説明いただかなくても結構ですわ。気にしてませんから。それに、ずうっと一人きり、というわけではございませんでしたし」


 ニコラウスが苦笑した。いつもと同じような表情だけど、なんとなく寂しそうに見えたのは私が彼に罪悪感を持ってるから。

 あぁ、私の馬鹿。実はちょっぴり気になってたくせに。お姫様態度を取ろうとするとこうなっちゃうのよ。仕方がないじゃない。血筋を重んじるお国の第一王女なんですから。

 でもそれなりの常識も道徳心も持ち合わせているのよ? わがままで選民意識? みたいなのも高い方だけど。

 そりゃ相手が変わった当初とかはやっぱり頭に血が上るじゃない? そうすると色々と暴言も出ちゃったりするものでしょ? だけどさ、やっぱり三日もたつとだいぶ心も落ち着いてくるし、そうなると今度は自分の暴言に罪悪感が生まれるものなの。


「そうですか。……そう言えば今日の昼間に殿下がお見えになったそうですね」

「エルヴィン様ですか?」


 そうだった。エルヴィン様と仲良くなっちゃったわ。あの人、意外と私と食べ物の趣味も似てるみたい。あのとき食べたケーキって結構好みが分かれるのよね。

 あら、ニコラウスったらなんでそんな変な顔してるのかしら?


「式も終わりましたし、私の所用も今日で終わりましたから。明日にでも私の屋敷へ帰りましょう。……私の奥さん?」

「え、ええ。わかりましたわ、旦那様」


 いやだわ、私ったら。王族ともあろうものがニコラウスごときの有無を言わさぬ雰囲気に飲まれかけちゃうなんて。気をしっかり持たないと!

 って、ちょっと。

 ニコラウス、貴方顔が近いんじゃない?

 え。

 ちょっ……!!


「……っん、……なっ……いきなり何をなさるのですか!」

「何って、口づけですよ?」


 セカンドキスまで奪われたわ!

 しかも口づけって。キスって言うよりもちょっとエロっぽく聞こえるわ。やーめーてー!


「おやめください。…いやで」

「嫌とは言わせません」

「んっ」


 のしかかるように迫ってきた体に押されて、ソファに押し戻される。

 そしてまた唇が触れ合うって……。何これ!? 私、襲われてる!? 貞操の危機ってやつ??


「身体を許さないのは別にかまいません。……けれど、唇は許していただきます。私たちは結婚しているのですから」


 私ってば、さっき気合いを入れなおしたばっかりなのに、もうニコラウスの作り出す雰囲気に呑まれちゃってる。

 しかもちょっと腰砕け。やだわぁ、もぉ。しょうがないじゃない。こういう経験は皆無なんだから!

 微妙な酸欠と恥ずかしさで思わず涙目。

 それを見たニコラウスがそっと身体を引いて離れてくれた。けれど立てないわ! 腰が砕けてるんですから!!


「ですが、今はいきなりすぎた事を謝りましょう。……奥さん?」


 一向に動こうとしない私に不審そうな声がかかる。

 うぅ、白状したくない。キスで腰が砕けたとか!

 私が悶絶しているのを見て、ニコラウスが「立てないのですか?」といいながら私をいとも簡単に抱き上げた。向かうは寝室。

 私はなんとお姫様だっこで運ばれている。

 人生初だわ。憧れていたお姫様だっこ!!

 実際されるとこうも恥ずかしくて逃げ出したい気持ちになるものなのね。

 いやぁぁーっ、降ろしてぇぇ!


「明日は少し早めに出ましょう。私は汗を流してきます。……ゆっくりお休みください、私の奥さん」


 そっとベッドに降ろされて、ニコラウスは寝室を出て行った。

 抱きあげられている間は気付かなかったけれど、私、決して体重は軽くないの。自分で言うのもなんだけど、結構いい身体してるから、その分まぁ重さもあるわけで。

 そこまで考えて赤面した。

 さっきまでとは違う意味で。……だって、男の人に抱き上げられるなんて初めてだわ……。

 はずかしぃぃぃっ!!!





 私はニコラウスが戻るまでずっとだだっ広いベッドの上でゴロゴロと悶えて、入浴を終えたニコラウスを不審がらせた。

 そして私は気付いてなかった。

 私たち夫婦はお互いに、一度も相手の名前を呼んだ事が無い事に。


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