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01:結婚式は上の空

『……婚姻、ですか?』


 この話が持ち上がった時ののんきな私をぶん殴ってやりたい!

 あぁ、なんでこんな事になっているのよ!

 私は今、なんでこの男と式を挙げているのかしら。


「汝、ニコラウス・ヴァーグナー。死が二人を別つまで変わらぬ愛を誓いますか?」

「誓います」


 私の横で、にこやかに誓う男。

 ニコラウス・ヴァーグナー。小国アルガセルの騎士で、王族からの覚えもめでたい有能な男。今は騎士団の一つの隊の副隊長をしているらしい。

 けれど、その出身は貧民街の中でもスリや窃盗は当たり前の最下層の出だ。それを現在の騎士団長に才能を見いだされ、王都へとやってきたらしい。

 騎士団長の計らいで貴族の子息しか入れなかった騎士を養成するための学校へ入り、メキメキと頭角を現した。今でこそヴァーグナー家の養子として、一応貴族の体裁はとっているが、それでも実力でここまで駆け上がった異例の存在。


「汝、シャルロット―――……」


 これは、アルガセルに入国してから今日までの短い期間で私が調べ上げたのよ。

 私の旦那様の事をね!

 本来私の旦那様になるはずだった王子の事ならある程度下調べしていたけれど。まっさかこんな事になるなって思わないからね! 超焦ったわよ!


「私の未来の奥さん?……誓ってください」


 なによ?

 数時間後の未来の旦那様が表情を崩さないままぼそりと呟く。

 ヴェール越しに胡乱な眼を向けた後、前を見れば神父が困ったような顔をしてこちらに微笑みかける。

 いっけない。忘れてたわ!

 いまは式の最中だった。

 不本意すぎて脳みそが理解するのを拒否してしまったみたい!


「誓いますわ」

「では、指輪の交換と誓いのキスを」


 明らかにほっとした神父の前で、未来の旦那様がもったいぶった仕草でヴェールを外す。

 柄にもなく緊張してきた……。

 でも、仕方がないと思わない? いくら大国の第一王女だって言っても、不本意な相手との結婚だって言っても、結婚式は女の子の憧れだわ。そうでしょう? 好きな人と永遠の愛を誓うのよ。もしくは政略結婚という名で結ばれた同志とね!

 あぁ、残念でならないわ。相手がこんな男だなんて。


「これから、末永くよろしくお願いします」


 今までのずっと穏やかな声音と穏やかな表情で紳士そのものだった男の声とは明らかに違う響き。

 伏せていた瞼をそっと目の前の男に向ける。

 その瞬間を待っていたかのように、ふさがれた。

 何って……唇を。唇で。



 いいいいぃぃやぁああああああ!!



 内心の私は大絶叫よ!

 だってファーストキスよ!!!

 いやややややあああああああ。

 ……。

 ……。


 って結婚といい、キスといい、乙女な発言を繰り返してるけど。

 実際、本当に王子と結婚しても私の気持ち的にはほとんど変化が無いのだけれどね? 未来の……いや、誓いのキスしたからもう旦那様ね。ニコラウスへの対抗心というか、反抗心というか、な心境が同じ境遇同士の連帯感というか親近感に変わる以外は!



 ゆっくりと唇が離れる。

 ニコラウスは獰猛な猛禽類のような目をして、そのくせ表情は今までのにこやかな仮面。けれど、その口元は今にも舌舐めずりをしそうに見える。

 知らずにふるりと震えた私を彼は目を細めてみた。


「……夫に対してそんなに怯える必要はないと思いますよ」


 また。

 肉食獣を前にした草食動物はこんな心境なのね。

 これで夫婦となったからなのか、ニコラウスの今までつけていた仮面がひとつ剥がれたみたい。


 私は仮面をはがさないわよ! 絶対に負けないんだから!!


 そういう気持ちでギッとニコラウスを見た。彼は面白そうな顔でこちらを見てるわ。

 負けない、と意気込んだそばからなんとなく負けた気分になって、視線をそらす。

 その先には国賓である、私の父。大国グレンツィアの国王と私の弟二人、そして宰相。王妃はいない。

 末の弟の第四王子は私が向ける視線に純粋な笑みを向けて見返してくれる。けれども他の三人はずっと冷めた目をして、機械的に手を動かし、周りと同様に拍手を送る。

 その様子を見て、私は思い出した。

 私の結婚が、祖国ではなんと呼ばれているかを。



『王家の穢れの厄介払い』



 自分で思い出したその言葉に少しへこむ。

 その直後に、私の腰に手が回り、ゆっくりとけれど有無を言わせない形で私を歩かせる。

 その手の相手はもちろんニコラウス。

 彼はしっかりと前を見据えて、この会場の出口へと向かっていた。

 私が物思いにふける間に、式はさっさと進んでしまっていたんだわ。もったいない! 結婚は女の子の憧れとか自分で言っておきながら、肝心の私が上の空だなんて!!!





 ……。

 内心で散々ニコラウスとの結婚を嘆いたけれど、本当はちょっぴりだけよかったとも思っているの。

 だって、穢れだなんて呼ばれる私がいくら小国といえど、王位継承者の王子と結婚とか、笑っちゃうでしょ?

 あ、一応言っておくけど、第一王女で、大国グレンツィアの国王の第一子である事には変わりないのよ? ただ、私にちょっとした秘密があるだけ。

 それに、きっと境遇を嘆く私よりも可哀そうなのはニコラウスだわ。

 私の旦那様。


 でも、絶対に負けないけどね!!!

 何に負けたくないのかもうよくわからないけれど! 独り相撲な気もしないでもないけど!!


 全面戦争なんだから!!!

ちょこっとだけ修正しました。

ニコラウスの口調の部分です。敬語に戻してます。

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