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09:ダンスフロアの薔薇


 会場に入室する前にちょっとしたことが――――香水の事よ。もちろん――――あったけれども、とりあえず表面上はにこやかかつ和やかにパーティーは進んでいる。

 椅子に座る国王夫妻と王子たちへ挨拶、もちろんその中にエルヴィン様もいる。その後、この国の重鎮たちや招待されたお貴族さまたちへ挨拶に回る。……というよりもドンドンと周りが挨拶にやってくる。まぁ、今夜の主役だし。私の祖国とこの国の力量差とかも関係しているのかもしれないけどさ。尻尾を振りに来る、犬っていうより狐と狸よね。おこぼれにあずかろうとか長いものには巻かれろみたいな。

 それと、気になっていたのがその狐と狸たちの視線。


「おめでとうございます」

「美しい奥方ですな。うらやましいですよ」

「流石は我が国の有名人」


 表面上はお祝いの言葉。声音も表情も二人の幸せを願っているように見える。

 けれど、その目は。

 目は口ほどにものをいう。これは的を射た言葉だとつくづく思うのよ。彼らの視線は時々、舐めるようにニコラウスを見る。そして忌々しいというように、恐ろしいものを見るように、穢らしいとでもいうように目を細める。

 ニコラウスは確かに有名で、認められてはいるけれど彼の立つ世界では決して好意的にみられていない事がわかる。

 平民達にとってはヒーローなのにね。裕福な生活に慣れ切ったお貴族サマには邪魔な存在なのよ。

 どの国にもある事。身分の差はたやすく人を高慢にする。軽蔑するような視線を簡単に人に向ける事が出来る。

 その様子に私は眉間にしわを寄せたくなるの。寄せないけれど。感情は綺麗にかくして、表面上はにこやかに。これは腹の探り合いが多い政治の世界や貴族同士のつながりとかには大切なスキル。


「ありがとうございます。皆様に祝ってもらえるなんて私には光栄なことですよ」


 相手の自尊心を多少は満足させるだろう言葉。

 ニコラウスは絶対に彼らの視線の意味に気付いている。気付いているのに気付かないふりをして、彼らのつまらない話ににこやかに相槌を打つ。

 私の旦那様はこういう世界にたった一人で立っていたのね。ものすごく不本意だけど、やり切れないようなおなかにたまるような嫌な気持ちになった。


「気にしなくていいのです。彼らの言葉に私や貴女が傷つくほどの力などない」


 腰を引き寄せられた。こめかみにニコラウスの唇。私にだけ聞こえるような小さな囁き。低俗な周りの男たちにバカップルぶりを見せつけるように。

 けれど、それは私の沈んだ気持ちを察したニコラウスの心遣い。

 不覚だったし、これまた不本意だけれど、ちょっと気持ちが浮上した。私ってばお手軽な女。

 そっとニコラウスを見上げた。

 気付いた彼は優しい微笑みで私をみかえす。

 私も笑みを浮かべようとした時に、ちらりと真っ赤なドレスの後ろ姿が視界に入った。色とりどりの衣装をまとう貴婦人やご令嬢たち。その中でも、そのドレスは際立っていた。

 私の視線に気がついたのか、ちらりとその女性が振り返る。


「っ!?」


 息をのんだ。


「? どうしました? 私の奥さん?」


 ニコラウスの不審そうな声にも答えられない。

 彼女の唇がゆっくりと動く。

 音楽が流れる。

 フロアにあふれる男女が踊り始めた。

 ニコラウスが背後を自身の背後を振り返った。私の腰に添えていた手が離れて、いつでも隠し持った武器が取れるように身構える。

 真っ赤なドレスは人ごみに消えていた。


「本当にどうしたのですか?」

「……申し訳ありませんわ。ちょっと、人の多さに酔ったみたいで」


 信じない事はわかっていたけれど、適当な嘘をついてしまった。

 不審そうな顔を隠してはいなかったが、周りの人々から話しかけられてしぶしぶと彼らに向き直る。ニコラウスがこの場から離れられなくなったすきにそっとダンスフロアへ向かった。

 彼女と話がしたい。





『お久しぶりです』






 私は彼女を知っている。

 グレンツィアの王妃の侍女。

 私をもっとも憎く思っている女性の、腹心の部下。



今更ですが、新年最初の更新です。


明けましておめでとうございます。今年もどうぞ美姫と騎士をよろしくお願いします。

話の流れがちょっと不穏な方向なので、次話を早めにアップできるように頑張ります!

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