表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/23

08:香水は波乱の香り



 パーティーへの誘いは唐突だったけれど、知らされた日時はもっと唐突だった。

 なんと五日後。とりあえず無謀よね。

 アンバーも侍女たちも、平然としているもんだから私だけが焦るわけにもいかずに時は進み……。


「どうすんのよ?」


 あっという間に当日だわ。私って馬鹿なのかも。

 一応ドレスとかはあるけれど、色々準備がいるものじゃないの? そもそも、私たちのお披露目も兼ねているというのなら、主役になる私が直前まで知らせれないってありなの!?


「心配ありません! 万事ぬかりなく、奥さまに感づかれる事なきようにひっそりと準備は進めておりました故に、確かに唐突ではありますが、対応できないわけでもありませんよ」


 そう言ったのはアンバー。そしてその言葉通り、完璧とは言えないけれど、ほぼ完璧(ほぼよ、あくまでも)に準備は整っていた。


「足りないところは、奥さまの美しさをより引き立たせる美容とメイク、ヘアセットで補えます!!!」


 そう意気込むのはアンナを中心とする、どこか殺気だったように目をぎらぎらさせた侍女数名。

 なんとなく意図はわかるけれどもしり込みしちゃう。……だって怖いのよ! 何なのよ、あの気迫

 完全に気迫負けしている私は、侍女たちの勢いに押されるがまま風呂に放り込まれて全身をこれでもかと磨かれて、今度は鏡の自分とにらめっこ。ドレスはこれ、髪型はメイクは装飾は。あーでもないこーでもないと着せ替え状態。


(これは確実に準備段階で私の体力はゼロになるわそうにきまってる!)


 そんな私の心境なんかお構いなしで、いつの間にか鏡の前には結婚式の時顔負けに作りこまれた私が微妙な笑顔で突っ立っていた。自分で言うのはむなしいけれど、結構な化けっぷりなのよ。

 コルセットで締め付けられた身体と重たいドレスをまとい、げんなりとしている私を前に侍女たちはご満悦。

 「完璧ですわ」「美しいですわ」とか口々に呟きながら押されるように連れ出されて、慇懃に頭を下げるアンバーの横を素通りし、休む間もなく迎えの馬車に乗せられた。

 しかし、しかしよ。

 本来なら私をしっかりとエスコートするはずの旦那様が不在なのよ。何? 何なのこの状況。てっきり一緒に行くものと思ってたのよ、最初は。


「なんで旦那様はいないのかしら?」

「王太子殿下より、ニコラウス様は直接会場に向かうとのご連絡がありまして……」

「そうなの。……なんとなくわかっていたわ」


 ちょっとがっかりした気がするのは気のせいよ。コルセットが急にきつくなったの。きっと。

 パーティーとか舞踏会って、女にとっては戦場なんだから。気をしっかりと持たないと。

 コルセットとドレスは鎧、アクセサリーや化粧は剣。

 祖国にいたころから慣れ親しんだ緊張感。今回は結婚後初めての公式の場になる。

 ひっそりと、私は覚悟を固めた。



*****



 なぜかアンナにエスコートされながら入城する。会場へは行かず、エルヴィン様の私室に通されて、疑問に思っていると、エルヴィン様と一緒にニコラウスが入ってきた。


「お久しぶりです。奥さん、一人にしてしまってすみません」

「……お仕事ですもの。仕方がありませんわ」


 そっと笑った。

 久しぶりに見るニコラウスは騎士の格好ではなく、貴族としてエルヴィン様の側近としてふさわしい格好で、私の完全武装した姿にぴったりと似合っている。……こうしてみると、旦那様は結構整った顔をしている事がわかる。王子様っぽくはないけど、端正な、無骨な騎士、という感じかしら。私はかっこいいと思うわ。

 けれど、そのかっこいい顔には隠しきれない疲労が見えた。


(きっと、仕事が大変なんだわ……)


「よし、そろそろ行こうか」


 ぼんやりと旦那様を見ている私に、ちらりと目配せをしたエルヴィン様が不自然なほど明るい声を出して歩き出した。

 エスコートしようとニコラウスが差し出した手にそっと私も手を重ねる。自然と二人の距離が縮まり。


「……会いたかった……」


 そっと、私にしか聞こえない、というか私に聞かせるつもりもなかったかのような小さな囁き。そしてふわりと香る――――。

 そこで私は顔をしかめた。

 だって。


「……私も会いたかったですわよ? だ・ん・な・さ・ま?」

「……!?」


 私の声には隠しきれない不快感がにじみ出てしまったわ。……鉄壁を誇るポーカーフェイス(むしろポーカーヴォイス?)が初めて崩れ去ってしまったわ。自分の旦那様ごときのせいで!

 突然不機嫌になった私に、ニコラウスってばちょっと動揺してるわ。けど理由がわかってない。

 理由?

 だってね!

 香水が香ったのよ。いや、それはべつにいいの。身だしなみで男性だってつけたりするわ。

 問題なのは。

 それが女物、しかも娼婦が好んで使うような、あまったるーい香り!!!

 旦那様、あなた、娼館に行ったのね!?



ちょっと見直ししきれていない部分がありますが、今日を逃すと恐らく今月中の更新は厳しそうなので、無理やり……中途半端で申し訳ありません。



一話目からちょっとずつ文章に修正も加えたいので、最初から見直しもしていく予定です。



もしかしたら年内最後の更新かもです。

皆さま、よいお年をお迎えください。


それから、最近お気に入り登録をしてくださる方が増えているようで……すごく嬉しいです。更新は遅めで申し訳ないですが、今後もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ