乙姫の涙
浦島太郎が玉手箱を開けたその後の物語。
玉手箱を開けてお爺さんになった浦島太郎。こんな身体では働くこともできず、生きていけません。
途方にくれながら辺りを見渡すと、のそのそ海へ逃げようとするウミガメを見つけました。
慌てて錆びついた機械のような身体で追いかけます。
何度も転びながらギリギリ海に入る手前でウミガメを捕まえることができました。
「なんで…… どうしてこんな姿になってしまったんだ…… どうなっているんだよ」
「実は…… 乙姫様は玉手箱を開けた人間の寿命を吸い取って若さを保っているのです」
ウミガメはそう言って長い首を引っ込めました。
「なんだって! 僕はもう元の姿に戻ることはできないのか?」
「方法がないわけではありません……」
「じゃあどうすればいい? 早く教えてくれ!」
「乙姫様の頭にある大きな髪飾りを壊せばあなたは元の姿に戻ることができるでしょう。しかし、その力を失った瞬間、乙姫様は生きていないでしょう……」
「僕が元に戻ると乙姫様は死んでしまうのか…… とにかくもう一度龍宮城へ連れて行ってくれ」
「わかりました。ではまたワタシの甲羅へ乗ってください」
こうして、浦島は再び龍宮城へ向かいました。
龍宮城では乙姫がウミガメの帰りを待っていました。
「その方は? まさか!」
乙姫は一目でこの老人が浦島であることに気づきました。
「浦島さんが玉手箱を開けるのを見届け、戻ろうとしたところで捕まってしまいました。浦島さんには事情をすべて話し、一緒に戻ってくることになりました」
「浦島さん、ごめんなさい。もちろん許してもらえるなんて思っていません。こうなってしまっては、この髪飾りを壊して元の姿に戻すしかありません」
「乙姫様! お待ちください!」
髪飾りを壊そうとする乙姫をウミガメが止めました。
「浦島さん、乙姫様は悪くないのです。実は長生きのワタシが乙姫様にずっと一緒にいてほしくて玉手箱を作ってしまったのが原因なのです。乙姫様を何とか許してもらえないでしょうか。ワタシならどうなってもかまいません」
浦島は乙姫とウミガメの話を聞いて決心しました。
「事情はわかった。僕も乙姫様を死なせたくはない。髪飾りを壊さない代わりに一つお願いがある」
「なんでしょう? 何でもおっしゃってください」
「もうこの身体では陸へ戻っても働くことはできず、頼れる人もいない。僕も龍宮城で暮らさせてくれ」
「わかりました。どうぞ好きなだけ、ここにいてください」
乙姫は浦島の優しさに感動しました。そして、再び踊りとご馳走でもてなしました。
その夜、眠っている浦島を見ながら乙姫はある決心をしました。
「やっぱりこのままではいけない」
乙姫はウミガメに最後の言葉を言い残して大きな髪飾りを壊してしまいました。
次の朝、浦島は波打ち際で目を覚ましました。その姿はすっかり元に戻っていました。
「あれ? 僕はなぜここで寝ていたんだ? 龍宮城は? あれはすべて夢だったのか……」
これで物語は終わりです。
ところで乙姫は最後、ウミガメに何と言ったのでしょう。
「私はもうこれ以上、誰かの寿命を奪って生きていくことはできません。あなたは私がいなくても寂しくないように、たくさんの卵を産みなさい」
それ以来、ウミガメは卵を産むときに乙姫のことを思い出して、涙を流すのでした。




