婚約者は第2王子殿下
「君を愛することはない」
そう私に告げたのは、先日婚約者になったばかりのエヴァルド・フォン・ユスターニア様。我が国の第二王子殿下に他ならない。
王宮に招かれ茶会の席での出来事だ。
私は手にしていたティーカップをソーサーへと戻す。
「承知しました」
「・・・いいのか?」
自分自身で言っておきながらあまりに即答で承諾されだからか戸惑っているのだろうか。
いや、形だけでも反対しないのは失礼だったのだろうか。
「エヴァルド殿下のご意向のままに」
「・・・そうか」
納得したのかわからないがそこから茶会はつつがなく終わる。
最低限取り決めはしたが私にとっては問題のないものだけだけで安心した。
会話ができる相手なら問題ないだろう。
アイビー・セヴィニエ公爵令嬢とエヴァルド・フォン・ユスターニア第二王子殿下の婚約は瞬く間に社交界へと広まった。
しかしそれは祝福などではなく嘲笑するため。
アイビー嬢の見た目を地味と馬鹿にする輩は多いがエヴァルド殿下も別の意味でその見た目を奇異の目にさらされ続けていた。
ユスターニア王家の汚点。
そう揶揄されることも少なくない。
彼の母親は南方にあるパルフ共和国出身の踊り子だった。
この国にない小麦色の肌と美しい銀髪。妖艶なその踊りにお忍びで町を訪れていた当時王太子であった現国王は魅了された。
身分は隠していたが格好や連れから高貴な身の上なのは明白だった。
そのため彼女は断ることも出来ず、無理矢理に近い形でその身を穢された。
当時王太子は妻である王太子妃が懐妊しており、ただの火遊びのつもりであった。
まさかその数度で女が孕むなどと思いもせず。
女が子に気付いたときには既に王太子は飽きて訪れなくなった。
男の素性など調べるすべもなく女は子を産むしかなかった。
まさかその子が王族の血を引くなどと思いもせず。
産まれたのは男の子。己に良く似た肌と髪の。
唯一違ったのは金に混じった紫の瞳。
運が良かったのか悪かったのか。
パルフ生まれの母親も産んだ場所が貧しい者ばかりのスラムに近い場所だったからか。
その瞳の価値に気付く者はいなかった。
父親にあたる男は金目。
恐らくその血なのだろうが珍しいだけで特別なものとは思わなかった。
ユスターニア王家のみに現れる金目。さらにその直系のみに稀に現れる神の瞳とも呼ばれる紫。
幼い頃は、貧しくも親子慎ましく生活していた。
妊娠したことにより踊り子として所属していた流れの一座からはクビになり、パルフに帰る伝手もお金もない。
帰ったところで元々孤児だった母に身寄りはないのだが。
幸い、男から気前よくもらった金貨数枚。
なんとか暮らせていた。
もちろん騙そうとしてきたり、美しい母を狙う輩はいたがそれまでも様々な場数を踏んできた母は上手く躱していた。
酒場で働き出した母を同じく酒場の裏方で下働きしながらよく見ていた。
チップをもらっては時折かつての舞を見せる。
その時ばかりは母も無邪気な笑みを見せていた気がする。
数日前突然倒れなんとかベットに運んだが高熱にうなされ、意識も朦朧としていた。
水を飲ませ、近所の婆さんからもらった気休め程度の熱冷ましの薬草を飲ませたが効果はなく。
徐々に衰弱していく母に周りは諦めの目を向ける。
それも仕方ない。
貧しい俺たちは医者なんかかかれない。出来ることは森で手に入る薬草を煎じる程度。
それも薬効があっているかなんて分からない。
伝えてきた民間療法。
だから大怪我や重病は諦めるしかないのだ。
いやだ。
唯一の家族が亡くなる恐怖で俺は門前払いされると分かっていても医者に頼った。
それが俺の瞳の意味を知るものに出会う事になるともしれず。
最初は怪訝に断られたが医院の玄関前に土下座して動かない俺を医者がつまみ出そうと腕を掴み身体を起こした。
やっぱりだめかと諦めたときだ。
俺の顔を見た医者は「見てやる、案内しなさい」と言った。
何故かと考える余裕は俺になく急いで家に連れて行った。
「これを日に三度飲ませなさい」
家に着いた医者は最初なんとか雨風がしのげる程度のボロ小屋に驚いたのか怯んでいたが俺が母の元に案内すると診察してくれた。
薬を飲ませると呼吸の荒かった母は落ち着いたようで久々に穏やかそうに寝ていた。
「ありがとう・・・あ、けどお金」
呼んだはいいが医者に払える金なんてない。
「とりあえずはいい、また薬がきれる頃にくる」
そう言って医者は帰っていった。
俺は母が助かったと喜んだ。
数日後騎士を連れた医者を見るまでは。
「はなせ!!」
騎士に身動きを押さえるように抱きかかえられた。
「息子を離せ!!」
母が俺を押さえていた騎士につかみかかろうとしたが先日薬をもらい多少マシになったとはいえ、今だ体調優れずやっと身体を起こせる程度の状態で出来ることはなく。
軽く払いのけられその場に倒れた。
「母さん!!」
必死に母へと手をのばすが騎士は無視して外の馬車へと俺を積み込む。
それでも俺は暴れたが医者が騎士に渡した布きれを口に押しつけられ気を失った。
医者はニヤニヤと笑っていた。




