純粋な君は、エンディングにはもういない。
これは少し最近の話だった。
静かな小雨の中。水滴が『僕』の黒いパーカーから垂れている。
前にはある人の墓が立つ。『僕』はそれに純白なギプソフィラの花束を捧げた。
息を吐き捨てる。いなくなった人が恋しくなった。
「ごめん、ごめん……」
だけど、『僕』は君を思うと、自分のことを嫌になってしまう。
僕が住むこの街の特徴といえば長く続く盛夏と、映画の聖地である。有名な映画がモチーフにしている地だから、という理由ではなく、かの有名な映画の脚本家の生まれの地であるから。
僕――渚要介は高校一年生だ。今日は遠足で地方のテーマパークにきた。晴れやかな空に、葉桜が風に散る姿を眺めていた。
みんなで集まって休憩スポットで雑談をする。僕は端の席に座り、くつろいでいた。
あるとき、向かい合った席の子が僕のそばに近づく――。
「ねぇねぇ……『未来人』っていうゲームをやっているでしょ?」
簡素な白いシャツ姿で、スマホを抱える少女。
清らかな瞳に、揃えられた前髪。雪のような肌で少し痩せている。背中まで伸びる髪を束ねている。軽い薔薇の匂いが彼女から漂う。
「あ、初めまして……やっていますけど……?」
話題に出た『未来人』は僕の好きなゲームの名前だ。未来を舞台にして、世界的にも有名だ。
しかし僕が嬉しいのは別の理由がある。
(女の子が、話しかけてきた!)
「へぇー。よければさ! フレンド追加しない? 私と」
「あ、はい。いっしょにやりましょ!」
僕は自分の欲に従った。
その後、僕たちはお互いの連絡用のメールを追加し、チャットの初トークは遠足帰りの電車の中だ。
『よろしくー! ゼンゼーン未来人は始めたばっかだけどね』
かすみ、と書かれている名前。漠然とその名前を耳にしたことがある。
『じゃあ、なにかわからないことあったら聞いてね』
電車の壁に体をもたせて、慎重に文字を打つ。
『僕、渚要介といいます。よろしくお願いします!』
『私は芽咲花純っていうの』
そのメールに続きがあった。
『明日、私の席まで来てみて!』
メールにリアクションをつけ、僕は気持ちを抑えられない。
家に戻った僕は、自分の部屋に入り、ベッドに寝転がる。さきほどのメールのやり取りが脳から離れられない。
(僕は、かすみさんと付き合いたいな……)
寝転がる僕の目線は、隣の机に留まる。普段は僕の教科書やペンが置かれている。
「なに、これ?」
表紙が剥がれたカプセル。二つも、並んでいた。
(父さんは病にかかって薬を飲んでいたわ……でもなんで僕の部屋に……?)
僕はあまり気にせず、ベッドで眠りにつく。その日はよく眠れた。
次の日の登校中の電車の中。僕のシャツは半袖に変わっている。今までよりも瞼が軽く、寝ぼけを感じないほど元気だ。
「あの……スミマセン」
ある少女の声が割り込む。馴染みのある声だが、最近にしては久しぶりだ。
「おひさしぶりで、す。ナギサくん」
僕の顔を仰望する少女は、中学のときのクラスメイト。同じ高校でもクラスは違うため、彼女の声は旧友のように感じる。
(あれ……この子の名前はなんて言うんだっけ……)
「おぼえて、いますか?」
「ご、ごめん、名前忘れちゃった」
僕の記憶では、彼女は世界の東方にある大国からの留学生。目はいつも、長い前髪と厚いメガネに覆われ、黒いマスクを着用。神秘的というよりも孤独感が伝わる。
「えーと、何かご用ですか?」
「あの……えー、ナンダッケ……」
彼女は何かしらのワードを思い返そうとする。言葉を溜めた末に――。
「カク、もの? 長い、縦の……」
「えーと、シャーペンですか?」
僕はバッグの中から筆箱を探し、一本のシャーペンを取り出す。
「あ、イエス! 忘れてしまいました……貸してください」
(シャーペンを忘れてしまったのか。確かに今家に帰って取ろうとしても遅刻するしな)
僕はシャーペンを彼女に渡した。
「ありがとうございます!」
「帰りの電車で返してくださいね!」
そして駅に着く。僕と彼女は一緒に学校へ向かった。彼女とはクラスの前で別れる。僕は教室の中に足を踏み込む。
「渚くん、おはよう」
「あ、かすみさん! おはよう」
「ねぇ! これを、あげるよ!」
かすみさんは両手で二枚のチケットを僕の目の前に見せる。
「こ、これは!?」
「『未来人』の映画だよー。たまたま二枚買っちゃったからいっしょに行かない?」
(えー! な、なにこの展開!?)
大手ゲーム『未来人』のアニメ映画だ。世界的に人気であるうえ、チケットを獲得するのは難しい。
「あ、嫌だったらゼンゼーン断っていいよー」
「あ、いや行きます! 行きたいです! お金は後で渡します!」
しかし彼女は納得の表情ではなく、ドヤ顔で一枚のチケットを僕の胸元に押し付けた。
「いいよー! 奢ってあげる、放映は土曜、明日の夜だからね」
(これってまさか両思いの展開……)
僕は体の力が抜けるような気持ちになる。
この少女――芽咲花純はクラスの中でも飛び抜ける美貌を持つ。少なくとも僕にはそう見えている。
「あ、ありがとうございます!」
チケットを受け取り、自分の席へ戻る。それを重宝のようにファイルに入れる。
僕の席はかなり後ろで窓側だ。前方の様子や窓の景色も視界の中。
「それでは、自画像の続きを描いてください」
この一日の始まりは美術。僕にとっての一週間に一度の楽しみだ。若手の男性の先生で、親しみやすい人。
さらに複雑な計算や暗記よりも、僕はクリエイティブな活動が大好きだ。
「おお! 渚くん上手いねぇー。美大目指しているの?」
「あ、いや……美大いくつもりはない、です……」
僕は自画像も普通の実力だと自負しているが、先生はいつも笑顔で褒めてくれる。
すると先生の足はかすみさんの机の前に止まる。
「芽咲さんも上手いね! 学年一位の絵のセンスあるよ!」
前方から騒つく声が伝わる。かすみさんの画力の話ではなく、彼女の成績の話だ。
「芽咲ちゃん……成績もよかったんだよね? テストの順位はなんだっけ?」
かすみさんは誇りのある顔で、一本の指を出す。
「一応、これだけどね」
「え!? 学年一位?」
話し声が僕の耳にも伝わり、かすみさんの凄さに驚く。憧れというよりも、僕の負けず嫌いで、かすみさんを超えてみせたい。
授業の隙間時間。僕は彼女の机へ近づく。チラッと彼女の自画像を見ると、僕の足が固まる。
(う、上手い!)
顔の輪郭が鮮明に見え、余分な加筆がない。写真のように彼女の整った顔が写し出されている。
「どう?」
かすみさんの声が、僕を絵画の夢中から引き戻した。
「……あ」
「私の絵、上手いほうかな」
突如な質問に僕の思考が遅れる。
「はい、とても……上手いです」
「ふーん。渚くんってなんでいつも敬語なの?」
敬語は、距離感を遠ざけてしまうのは存じている。妙に僕は彼女と距離を感じる。
「いや……敬語で話すのを慣れちゃって……」
「ふーん。でも私のことは好きに呼んでいいよー」
「わ、わかった……」
一日の授業が終わると、暖かい夕日を見届け、僕は帰りの電車に乗る。ガタン、ゴトンと騒音が走る中、背後から小さな声が届く。
「ナギサくん」
「おお、君か……」
今朝シャーペンを貸した子だ。半袖の白シャツを着る低身長の彼女は僕の顔を眺める。彼女は両手を差し伸べ、シャーペンを僕に渡す。
「ありがとう、ございました」
「大丈夫。君の名前を聞いてもいいかな? 今朝聞くの忘れてしまって」
その子はマスクを外し、厚いメガネを丁寧にケースの中に入れる。
「……!?」
整った顔立ちに雪に近い色の肌。繊細な流し前髪。パチパチ煌めく瞳が僕を見つめる。ぷっくりな唇のルージュが輝く。
「『江雪白』……と言います」
可憐な声と驚く容姿に、僕の動きが止まる。
「あの! ナギサくん――」
すると彼女は突如僕のシャツの袖を掴む。ギュッと力が込められていて、彼女は瞳を上げた。
「ナギサくんへのお礼として……手伝わせてください!」
(え?)
体が固まっている隙に彼女は言葉を続ける。
「芽咲さんを、ナギサくんの彼女にさせます!」
「えぇー!?」
一駅着いた後、僕は無理やり彼女を連れて駅から降りた。この子に聞きたいことが多すぎる。
「なんで僕と……かすみさんのことを、知ってるの?」
「いえ、緊張しないでくだ、さい。私、人間を観察するのが好きで……」
「いや怖っ! 人間観察!?」
「貴方は私にシャーペンを貸してくれた。そのお礼に……」
今朝よりも日本語が流暢だ。この子が言いたいことも理解できた。
「だから……僕の好きな人を、僕と付き合わせるってこと? それを手伝ってくれるの?」
「はい。芽咲さんをそうさせます!」
「おい! 駅の中で人の名を叫ぶなよ!」
ずっと僕の顔を見上げる彼女は、電車の方に指をさす。
「とりあえず電車に、乗りましょう?」
「うわ、ごめん! 勝手に連れ出しちゃって……」
電車に戻った僕たちは連絡先を交換して、メールで会話できるようにした。
「では今日はこんなところで。またね、江さん」
「はい!」
駅から離れ、自宅に戻る。部屋の扉をあけ、ベッドに体を置かせて、スマホを開く。
『江さん。かすみさんを惚れさせる方法ってなんですか?』
しばらくした後、彼女からの返信が来た。
『ちょっと待ってください!』
直後、ビデオ通話がかかってきた。画面の向こうの彼女は今でも眼鏡とマスクは着用中。
「もしもし」
「ナギサくん……これを見てください」
彼女は自分の部屋の中に座る。一冊の分厚い本が木製の勉強机の上に置かれていた。
「え、これは……?」
「『兵法集』です!」
「なんで兵法の本があるの!?」
辞書並みに厚い本。表紙は黒の革で、金字で『兵法集』と明朝体で書かれている。
「恋は戦。戦法を知る者、恋愛に勝る! この言葉、ずっと練習、してました」
あの本以外、デスクの上には可愛いウサギ模様の筆箱、綺麗な参考書が並べてある。
(この本だけ部屋の雰囲気と違うんだよな……)
「えーと……この本に、よると……」
彼女は重たそうな本持ち上げ、ページを捲る。
江さんはある場所に目が留まった。
「なにか思い当たりました?」
「ナギサくん! 明日ここに来て――」
翌日の土曜。突如な誘いに対し、僕はある場所につく。太陽が道路を照らし、汗が僕の日常着に滲む。
「江さん……なんで本屋に……?」
目の前は視界に収まらない壮大なビル。うちの近くでは一番の本屋さんだ。高校受験のために参考書を買いに来た経験がある。
「とりあえず、来てください」
店内に入ると、程よい涼しい風が吹いている。新品の本の匂いが漂い、江さんは僕の袖を掴む。
「こちらへ!」
「……これは……!?」
目の前にある本は、僕にとって初めて見るものばかりだった。
「『必見!! 高嶺の花をもぎとるためには!?』『女の子が好きになっちゃう秘密十選!』……」
「どうでしょう? ナギサくん、気になる本はある?」
「いやー特にないかな……」
彼女は本棚の端にある本を取り出し、表紙を僕に見せた。
「……『私が思う――ステキな子とは?』著者は匿名か」
「芽咲さんを惚れさせるには相手を知ることが必要! 読んでみたら?」
「あの兵法集にはそう書いてあったのか……」
僕は購入し、江さんの自宅で読むことにした。よく見るアパートの一階、彼女の家に足を踏み入れる。
「お邪魔します」
「本のお金はワリカンでもよかったのに……」
「いえいえ、自分のためですから」
僕は彼女と部屋の中に入る。通話で見た環境だ。
「私のベッドに、座っていいですよ」
「はい、じゃ失礼します……」
ふわっと江さんのベッドに座ったが、柔らかくて心地よい。
(てか女の子のベッドに座るのって……)
江さんの綺麗な顔立ちと、可愛らしい振る舞いを思い出すと頬が熱くなる。素顔の彼女はかすみさんと似ている気がする。
「ナギサくん、さっき買った本、貸してもらえないかな?」
「ああ、おっけー」
江さんはあるページに指を差し、僕に見せる。
「ナギサくん! これ見て」
「プロローグ? えーと『私、最近好きな人ができました……』」
僕は文章を黙読し始めた。
『相手は素敵な人なの。私の友達(本書のアシスタント)からの評判もすごく良い。そんな相手の特徴を、皆様にお届けしたいです!』
「ナギサくん?」
「この本、アテになりますかね」
どう考えても主観に過ぎない情報。それに新書であり、参考にするほどの信頼はない。
「そうかな……もっと読んでみましょう?」
僕は『第一章』を開き、内容を再びざっと読み進む。
『必読! 私の好きな人はゼンゼーン告白して来ないし、ホントに告白待ちの子が多いの(タブン)!』
「なにが『タブン』だよ。これアテになりません。江さん」
面白い語り口で程よいサイズの文字。フォントも丸くて可愛らしい。ただ参考にはなれない。
「私のおすすめのセンスが、足りてませんでした」
「でも面白そうですし……家に帰ったら読んでみます」
僕は江さんに挨拶して、彼女の家から出た。収穫は得られなかったが、僕はすぐに切り替えた。
(そうだ、今日の夜はかすみさんと映画館の日だ)
家に戻り、かすみさんとの映画館の準備をし始めた。クローゼットの中を見つめ、深く思考する。
(なるべくかっこよく……オシャレがいいなぁ)
黒の帽子。無彩色縛りの灰色の服に、黒のパーカーを着て、小さめなショルダーバッグを肩にかける。
(中身は何も入ってないけど、オシャレであればいいや)
扉を開けて外に出る。すでに日が暮れて空が暗い。急ぎで電車に乗って映画館に向かう。
「ごめんなさい! 遅れましたか?」
「ううん。あと数分あるから早くはいろー」
僕は少し遅刻をしてしまったが、彼女は不機嫌な様子を見せなかった。
「かすみさん……衣装、綺麗ですね」
黒のベレー帽に、ホワイトスノーのワンピース。決めるのに時間がかかりそうだ。
「ありがとー。でも渚くんのはちょっとダサいかもなー」
「えっ!? ほんとですか?」
「でもそんな気にしないで」
(このためだけにあれだけ衣装にこだわったのに……!)
彼女は落ち込む僕の姿を見て、映画館のドアの方に指をさす。
「渚くん、もうすぐ始まっちゃうよ!」
「あ、早くいかなきゃ!」
映画館の中に入り、チケット確認後、僕たちはシアターに向かう。
広大なスクリーンの前に座り、僕とかすみさんの間はポップコーンで隔たれている。
「かすみさん……ポップコーン、あとチケット……ありがとうございます」
「いいよーせっかくだから楽しも!」
映画が始まる。スクリーンの光が真っ暗な場を照らす。未来に転生される主人公は、前世の怠惰な生活から物語が動く。
『ああ、今の生活ってだるい。未来に行ってみたいなー』
引きこもりの主人公のもとに、スーツ姿の女性が現れる。
『未来なんて、期待してはいけませんよ。君が祈り続けたその願望――いずれ呪いになるよ……』
『えぇ?』
『いいや、私についてきてみてください』
いきいきとした作画に、有名声優のボイス。どれも驚くべきポイントだ――。
「……!?」
ギュッと僕の手から握られる感覚が体内に響く。
「か、かすみさん!?」
手のひらから伝わる体温。あたたかい。
血管が見える小さな手。指が細くて、白い。
近づくほど濃くなる薔薇の香り。甘い。
彼女は唇をゆっくりと僕の耳に近づける。
「――渚くんの衣装、私は嫌いじゃないよ」
言葉だけでも。軽々なボディタッチだけでも、僕は声の発し方を忘れる。
「あちゃー、かっこつけちゃった。ごめーん映画見よ」
しばらくすると映画が終わり、館から離れた。三日月が綺麗に空にかかっている。夏とはいえ、夜は肌寒い気もする。
「ありがとー映画に付き合ってくれて」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
いまだに彼女の手の感触が響き回る。普段の些細なタッチとは違い、優しくて温かった。
僕は家に帰り、服を脱ぎ、風呂に入る。柔らかい湯に包まれ、息を吐く。
(映画のときに告白しとけばよかったのに。あれは脈アリでしょ!?)
風呂上がりの僕はすぐに部屋に戻り、作業机の前に座った。シャーペンを握り、一枚の純白の紙を取る。
「よし! かすみさんに、『絵の恩返し』をしよう」
映画のとき、彼女はふと『未来人』の主人公が好きだと言っていた。
「かすみさんは絵が上手いからなー。笑われてしまうかな……」
輪郭を描き、一本ずつ髪の手を描く。整った顔をペンで描く。心配はあったが、過程は夢中していた。
「よし……これでどうかな」
スマホの時間を見ると、すでに何時間も描いていた。
(あっという間だったけど、絵を描くって楽しい)
すると僕は絵の端に、一文を付け加えた。
(いやー! これは攻めすぎたかなー)
『かすみさん、好きになりました』と。
そして描き終えた僕はゆっくりと眠りにつく――――。
「――芽咲ちゃん……成績もよかったんだよね? テストの順位はなんだっけ?」
視界に映るのは一枚の半成品の素描画。僕は見慣れた教室の中にいる。リアルな感覚も伝わりながら、視界が模糊としている。
「一応、これだけどね」
僕の意識は、一人の女性の視線と結ばれていた。女性は、一本の人差し指を出す。
「え!? 学年一位?」
(かすみさんの目線? 僕は夢をしているのか?)
夢の時間はすぐに終わった。
僕は朦朧な意識でスマホを開くと、かすみさんから一通のメールが来ていた。
『今日ひまかな? また遊びにいかない?』
静まろうとする心が――再び疾る。
『もちろん!!』
頭で考える前に、メールがもう送信していた。
『おっけー! じゃ十二時に駅前のカフェで会おー』
僕は昨夜の絵を思い出す。本来なら週明けに贈るつもりだったが、今日にした。
家から出たのはすでに集合まで十分弱。急ぎ足で僕は駅に向かった。蝉の音が響き、真夏の汗で背後が濡れる。
「ご、ごめんなさい……また遅れました」
「いいよーお腹ペコペコだからカフェでご飯だべよー」
彼女はナチュラルな白いドレスと、小型のバッグを背負う。
「ほら、ぼーっとしないでよー」
「ご、ごめんなさいぃ!」
店内に入ると爽風が体に当たり、まろやかなコーヒーの匂いが漂う。僕らは窓側の対面座席に座り、メニューを見渡した。
「私は……パスタにしよっかな……」
「かすみさん……パスタが好きなんですね」
「うん、特にこれ! キノコ風味のパスタが大好きなの」
そう返された僕も、頬が熱くなる。
「僕も、ここのキノコ風味パスタが好きです!」
「ほんとおいしいよね」
時が経ち、店員さんがテーブルの上に料理を並べた。鏡のように、僕らの注文はドリンクまで一致している。
(かすみさんの好み、僕と似ている……)
「いただきまーす! ほら渚くんも食べてー」
「あ、いただきます……」
フォークでパスタを口の中に送る。キノコの風味と微かに甘いソースが味蕾を刺激する。
(そういえば……ここで絵をあげよっかな)
僕はカバンから一枚の絵を取り出す。決して上手とは言えないが、僕は冷や汗をかく。
「かすみさん! これどうぞ」
僕は絵を彼女に渡す。かすみさんの目は光った。
「えー! ありがとー」
彼女は大切そうに絵を小型のバッグに入れた。
「絵うまいね、さすがっ! 最近映画のほうはどう?」
(え……『映画』?)
僕は聞き間違いをしたかと思った。
「ほら、この前『僕は実力者の脚本家だ』って言ってたよね?」
「え……僕そんなの言ってましたっけ?」
「映画の脚本家が趣味で、現場でアシストしてたって聞いたけど」
僕の手の動きが止まる。彼女の目には疑問を抱えて、また口を開く。
「言ってなかった? ごめん勘違いをしたかもー。ご飯食べよ?」
(彼女はよく人と関わっているから、記憶が勘違いをしたのかな)
料理を食べ終え、僕らはある場所に足を運ぶ。日はまだ明るくて熱い。僕の視界に現れたのは壮大な建物――。
「え? 観覧車?」
市で最も有名であり、デートスポットの観覧車だった。
「ほら今日休日でしょ? 夜になると混んでしまうし、今乗ろうよー」
「な、なんで!?」
僕の心の声がどんどん脳に喚く。
(えー!? グイグイ来すぎなのでは!?)
「もしかして観覧車に乗りたくなかった?」
「い……いえ、乗りたいです!」
彼女の言う通り、観覧車の受付は空いている。僕とかすみさんは、同時に中に入った。
(あれ……ここに来たことないのに、慣れな感じがある)
対面に座る彼女の瞳は僕を見つめる。しかし別の名が僕の口から発する。
「江さん?」
「…………え?」
戸惑う彼女の姿が瞳に映り、僕は焦る。
「ごめんなさい! 間違えました」
「ふーん、まあいいよー。ほら景色みよ?」
窓から見える視界が広がり、昼の明るさで僕の故郷がよく見える。
「ねえ、渚くん」
「え?」
景色を見渡す僕の耳に、彼女の声が届く。
「もしさ、私がいなくなったら渚くんはどうなるの?」
「え……なにを?」
微かな薔薇の匂いが漂い、嗅ぎたくなるほど心地よい。彼女は勉強も良く、性格もやさしい。
いつのまにか、彼女は僕にとっての完璧人間になっていた。
「僕――かすみさんのことが好きです!」
「…………!?」
言葉を発した僕の目に涙が滲む。
「いなくなるなんて考えもしなかった……僕のことなんて好きにならなくていいです、嫌いになってもいいです……でも急に消えたりはしないで……」
ただそばにいるだけ、目に見える限りの関係でもいい。
「だから幸せになってください! 僕はその姿のかすみさんが見たいです!」
この気持ちは本当の好きだ。
決して一時の欲ではない、清らかで澄んだ気持ち。
「ふふ、ありがとう。今日は、ここまでにしよっか」
気づけば扉のドアが開いていた。彼女は安心させる笑顔を見せ、大きく手を振る。
「渚くん、バイバイ」
「うん、じゃーねー」
この日のセリフは深く自分の脳に響いた。次の日の学校。好きという気持ちを好きだと言う勇気はあったが、気まずい空気が続くと僕は不安だった。
すると僕のそばに一人の姿が近づく。
「江さん?」
「ナギサくん、いいかな? 話したいことがある」
僕は教室の外の端に寄せられた。江さんの表情は少し暗く小声だ。
「急遽でごめん……私、じつは来週、帰国してしまうの」
「…………え? まだ戻ってこれる?」
脳が危機感を覚えているよりも、心の奥の本能から嫌だ、と喚いている。
「ごめんね」
「い、嫌だ! なんで?」
僕の口は思っている以上に、彼女を求めている。
「……僕たち、まだ会えるよね?」
「どうかな……でもありがとう! 嬉しいよ」
少女は純粋な笑みが浮かぶ。
一人で重たい足を運び、賑やかな教室に戻った。僕に向かって、制服姿のかすみさんが近づく。
「かすみさん、おはよう。昨日楽しかったです」
彼女の純粋な笑みに、かたくなる瞬間があった。
「渚くんって一人称『僕』なんだね。俺とかは言わないんだ」
「うん、そうだよ」
「めずらしいよねー」
かすみさんの表情に遊び心が湧く。
「私もいつか一人称、僕にしちゃおっかなー」
(かすみさんが『僕』か。想像しにくいかも……)
僕がボーッとするうちに、かすみさんは自分のスマホを出す。
「『未来人』ずっと一緒にやらなかったね、やろうよ」
彼女はトントン、と軽く僕の肩を叩く。
(『未来人』……あれ? ストーリーが思い出せない)
僕もスマホを取り出し、『未来人』のアイコンを押す。
(え……?)
前回のログインは、もう三年前の話だったと言っている。僕はなにをしていたのだろう。
(いや、以前の記憶も……思い出せない……)
冗談だと自分に言い聞かせたいが、無力感があるほど思い出せない。
「かすみ、さん?」
頭を上げると、目の前が虚無になっていた。一瞬、とてつもない孤独感が身に纏う。
(かすみさん……どこに行ったの?)
キーンコーンカーン……と授業チャイムの音が響き、僕はスマホを閉じた。
彼女の席を見ても、その姿はいなかった。
「…………かすみ、さん」
授業が退屈だからなのか、好きな人が急に目線から消えたからなのか、僕の視界がぼやける。
意識が柔らかくなり、瞼が重い。
暖かいなにかに抱きしめられ、僕は徐々に眠りにつく――――。
「はじめ、まして、江雪白、といいます」
(また夢か。これって……江さんが留学してきた日?)
懐かしみのある教室の中、周りの人も記憶の奥底から現れる。江さんは今と似ていて、弱気な子だ。
「ねえ、要介。あいつの筆箱、ダサくね?」
隣の席から幼い男の子が僕に声をかける。男の子の指がさしたのは、江さんが持つ小型のウサギ型の筆箱。
「いや……僕はそう思わないけど」
「まあオレは、そいつのを隠しちゃおっかな」
(え……なんで?)
休み時間、僕は密かに男の子の行動を見ていた。
江さんがいない間、男は彼女の筆箱を取り出し、段ボールが積んだ教室の端に隠した。
「あ、あなた! なに、しているの?」
幸い、戻ってきた江さんは男の振る舞いを目撃した。
「バレちゃった……お前の筆箱がダサすぎて目障りだよ」
「やめて、ください、返してください」
江さんは声を張るが、成長期の男に敵う威圧はなかった。
「やーだね! オレにケンカ勝ったら返すわ」
「嫌だ……返して、ください」
彼女は手を伸ばし筆箱を奪い返そうとする。
「近づくな! クソメガネ!」
男は勢いよく両手で江さんを押す。彼女のバランスが崩れ、地面にパタっと倒れる。
「や、やめて……」
男を仰望する江さんの目に涙が回る。
「チェッ、弱ぇ、泣き虫。先生にチクるなよー」
事件の全貌を目に映した僕は、立ち上がる。
「おい、江さんに返して!」
言葉を発した僕の心臓がドグっと響く。
(江さんが留学してきた日、僕はこうやって彼女を助けていたんだ)
「よ、要介……なんでだよ、チェッ、ほらよ」
男は不服そうに筆箱を江さんに返し、この場から離れた。
「ありがとう、ございます」
「大丈夫、僕、渚要介っていうんだ! よろしくな」
涙が滲んだ少女の眼差しが輝いた。
「……うん!」
(これが、僕と江さんの始まりか?)
僕は瞬きをする。突如、目の前の光景が一瞬にして変わった。成長した江さんが一枚の紙を見せてきた。
「今回も私が、学年一位をもらったねー」
「クゥッ! なんで僕また二位……絶対超えてみせるから!」
(僕の過去記憶か……? 僕ってそんな江さんと話してたっけ?)
彼女は小柄で可愛らしい面でいたずらな笑みをつくる。
「江さんほんと完璧人間だわ」
「それは褒めすぎだよー」
彼女といると、懐かしさや、慣れた感覚が伝わり、最近もよく感じる気がする。
『渚くん! 渚くん!』
心の奥から、誰かの叫び声が響く。
僕の目が覚ます。授業はもう終わっていた。デスクの教科書は閉じたまま。僕は約一時間を寝ていた。
気づけばあと数分で次の授業が始まる。僕は自分の机の上にある一通の手紙を目に映った。
「これは……」
丸いフォントで可愛く書かれた文字が並ぶ。
『家に帰ってきてから開けてね』
一日の授業が終わると、僕は手紙を慎重にポケットに入れ、すぐに帰り道に足を運ぶ。
僕の鼻に、優しいコーヒーの香りが漂う。
(あ、この前かすみさんと行ったカフェだ)
一回しか行ったことのないカフェなのに、体は慣れた感覚がある。
(はやく家に帰らないと……)
僕はより駆け足で家に向かう。扉の鍵を開けて、部屋に入り、カバンから手紙を取り出す。
『渚くんへ――』
(かすみさんの、手紙か?)
『この前遊びに付き合ってくれてありがとー。明日、またあの駅前のカフェに来てくれないかな?』
僕は手紙をそっとデスクの上に置いた。同時に目に入ったのは隣の二つのカプセル。
かすみさんに対する思いもあるが、もう一つ気になっていることが脳に纏う。
「僕は、きっとなにかを忘れているはずだ」
椅子に座り、表紙が剥がれた二つのカプセルを眺める。
比較的に錠剤が少ない方を持つと、表紙の字跡が微かに残っていた。
『記憶……忘……一日五錠……』
これは記憶に関する薬だ。家にこれを飲む人を思い当たらない。
「それに……『これ』はなんだろう?」
もう片方の錠剤は減っていない割には、表紙が綺麗に消失している。
「きっと昔、江さんとよく関わっているのに、僕は忘れている」
僕は忘れた内容をいつか江さんに直接聞くことにした。僕は再び手紙を手にして眺める。
「……そうだ、この前の本、もっかい読んでみよ」
デスクの角にある本を取り出した。『私が思う――ステキな子とは?』数日も開けていないため、少し埃が積もっている。
「どれどれ……この前あんま読んでなかったんだよな」
ページを捲る指は『第二章』と書かれた場所に留まる。文字はこう言っていた。
「私の好きな人について紹介するよー! 相手は勉強が優秀なんだ! でも全てが優秀でなくてもいい。なにかに打ち込んで、『特化型の人間』になることが大事!」
(『特化型の人間』か……僕にはないかもな)
人生でなにかに全力で打ち込み、なにかの十八番を持っていないはず。
「やっぱこの本、アテにならないかも……そろそろ寝よ」
不意に僕の手が離れ、ページが走る。指を突き出して止めると、出版社のページが目に映る。
「あ…………この本の著者は匿名か…………」
チラッと眺める僕の目線は、あるところにピン留められた。
著者の下の欄――『著者の友達(アシスタント)』の枠。
隣の名前が、ゾッと僕の心を震えさせる。
「え……? なんで、ここに?」
驚愕の目先に立つのは、見慣れた名前だった。
『江雪白』
僕は驚きに追いつかない。
「つまり……あのとき江さんがこの本を、お勧めしてくれたのは……」
本の著者は不明。さらに江さんが書かれている理由。それは何を意味をするのか。
「もー! 記憶喪失だの、本の関係者は江さんだの、頭がパンクしそうだよ……」
深く息を吐き、天井を見上げて放心状態になる。
「いいや、早く寝よ……」
ベッドに向かって体を動かせ、柔らかい布団に身を沈ませる。僕は深い眠りにつく――――。
夢の中の僕は、一枚のチケットを持っている。
(あれ……また夢か、最近頻繁なんだな)
意識がはっきりとした夢が連発するなんて初めてだ。
(このチケットは……映画のチケット?)
よく見れば、『アニメーション映画――未来人』と書かれている。
視線は映画館の前だが、僕はかすみさんと行く前までは、一人で映画館に踏み入れたことは一度もない。
「あ、早くいかなきゃ!」
沈黙していた体が喋り出す。映画館に入ると、一人の作業服姿の男が現れる。
「渚様、来ていただいたっすね。今回は本当にありがとうございました!」
若い顔の男、作業服も新めではあるが、なにか共に携わった記憶が微かに浮かぶ。
(でも……思い出せない……)
「渚様、それではこちらに」
僕はスクリーンの前の席に向かう。驚くことに周りには誰もいない。
「…………」
トン、トン、トン。やさしい足音が背後から伝わる。
「……?」
「渚くん……『僕』は存在する意味がありましたか?」
謎の声が響き、僕は振り返るが、誰もいない。
(誰……!?)
「でもありがとう、渚くんのおかけで、『僕』はこの世にいるんだ!」
ゾッと体が固まる。しかし僕の意識よりも前に、自分の声が出た。
「かすみ……さん?」
意識がぼやけ、ハッと僕は目を覚ます。暗い天井が目に映り、背後から汗が満身に広がる。
「なんていう夢なんだよ……」
時計を見れば深夜の二時。僕は手で頭をトントンと叩く。
眠れない夜が続き、次の日になる。早めに朝ごはんを済まし、家に出た頃は集合まで時間がたっぷりある。
日差しが強く、眩しい太陽が道を照らす。歩く隙に僕は昨日の悩みを思い出す。
いよいよ駅の前。交差点の向こうに、一人の少女が立っていた。しかし僕は不穏な空気を感じた。
彼女の服装は全身を覆うような黒のパーカー。かすみさんにしては珍しい。
「かすみさん……!」
彼女も反応をしたのか、顔を振り返る。駆け足で僕の方に交差点を渡った――一歩目。
「…………!!」
横から一台の軽トラックが走ってきた。周囲の人からの叫び声も響く。僕は脚部に力を入れた。
「かすみさん! 危ない!!」
僕は足をはねらせ――彼女を歩道へ押し返した。
ボン、と体に当たる音が響く。僕は一瞬の眩暈で頭が回り、鉛に圧倒される感覚が走る。
「…………」
周囲の人がなにかを呟いている。気づけば腕がひどく出血しているが、動こうとしても骨が言うことを聞かない。
(……かすみ、さん……!)
意識の最後は彼女のほうへ向けた。しかし芽咲花純であるはずの面は――別人なのであった。
「…………!」
瞼が重くなり、目に映る光景が暗くなる。
瞼を閉じ、僕の意識が少しずつ消失する。『彼女』について解き明かすことができなくなり――渚要介は安らかに眠った。
今日より遥か昔の観覧車の中。明るい昼間なのに、一人の少年と、一人の少女が座っていた。
「ナギサくん……なにを書いているの?」
男はペンを持ち、何枚かの原稿用紙に字を書いていた。
「ああ、これね。最近作家デビューもしよっかなって思ってんの、アシスタントしてくれる?」
「いいよー。すごいね。脚本以外にも手につけるんだ」
男は厚いメガネをかける少女を見つめ、微笑ましく原稿用紙をカバンにいれる。
「ほら『未来人』の制作会社が僕を後援してくれるって。この本は『恋愛のコツ』についてなんだ!」
「すごいなぁー。頭もいいし、脚本家で……本も書いている。私なんか勉強しかないもん」
男はふふ、と笑い一本の人差し指を立てる。
「僕なんて雪白ちゃんに敵わないよ。学年一位で、完璧人間だし」
少女は乙女のように口を手で隠す。
「だから『完璧人間』ってなに!? 大手ゲーム映画の脚本家のほうがすごいし……」
「僕ね、クリエイティブな活動が大好きだ――」
男は窓の外の明るい景色を見つめ、陽光が顔に当たるのを感受する。
「だから次ね、小説家も目指しているんだ」
「そうなの!? 無茶はしないでね、疲れたら休むんだよ」
男は笑いが吹く。
「知っているさ、雪白ちゃん。君みたいな優しい人間を、書いてみたいな」
「そうか……う、嬉しい……どういうキャラなの?」
男はあごに手を当て、深く考え込む。
「まず名前から決めよう。純白で、清らかな名前がいいな…………よし!」
男はアイデアが決まり、ドヤ顔で少女のほうに目を寄せる。
「僕の小説のヒロインの名前は――」
彼が言った名前は、この物語の始まりとなった。
「――『芽咲花純』に決まりだ」
あれから数年後。もの寂しい小さな墓場の中、ポタポタと小雨が降り、一人の姿がやってきた。黒いパーカーで身を包み、顔を隠している。
一束のギプソフィラを墓の前に置き、息を吐き捨て、膝を地面につけた。
「ごめん、ごめん……」
フードを外すと、清秀な顔の少女であった。
『私もいつか一人称、僕にしちゃおっかなー』
このセリフは彼女の脳に纏う。
厚いメガネをケースに入れ、顔を墓に近づける。目の前に墓の相手がいるかのように、コソコソと声を出す。
「『芽咲花純』は――最初から存在していないんだよ」
かつて少年が辿り着けなかった真相が、明かされる。
「君は無茶な仕事を重ね、二つの病いが芽生えたの」
少女はタイトル『私が思う――ステキな子とは?』という本を取り出す。
「君が成し遂げた出来事の記憶を取り戻すために、『僕』は計画をしはじめたの」
江雪白は手を差し伸べ、墓を撫でる。
「『僕』は君を驚かさないように、君との出会いからゆっくり始めようとしていたのに……」
渚要介の二つ目の病。江雪白をモチーフにした二人目の姿――芽咲花純が生まれた。
「君は周りの人に褒められても、芽咲花純のことだと思ったり、一人で映画に行ってもそばに彼女がいると思い込んで……」
江雪白は頭を下げて、溢れる涙を手で拭き取る。
「中国に帰ると伝えた日、『僕』は君の教室に入ったのに…………芽咲花純だと思われて……」
彼女はポケットから一枚の紙を墓の上に置く。
「ごめん、私が君になにかすれば………………ごめん、なさい……」
『定期テスト成績――渚要介(学年一位)』
少女はずっと、言いたかったセリフを吐いた。
「君はとっくに、私を超えていたよ」
勉強だけではなく、渚要介が力を尽くした功績も、すべて芽咲花純という物語として成就したでしょう。
少女は墓を抱きしめ、ずっと祈り続けた。
君の心が、君の瞳のように、いつまでも澄んでいますように。
読んでくださりありがとうございました。




