驚かせたら、呆然とさせられた
「ねえ、結婚するつもりがないなら、別れたいんだけど」
大学生の頃から付き合い始め、かれこれ五年目になる今日。
目の前で注文した料理が来るのを待っていた彼氏が、水を飲む瞬間を見計らい、私はそう口にした。
彼が一切の動揺も見せなかったら、このまま自宅に帰ろうと思っていたけれど。
普段はどんなに驚くできごとがあっても、冷静な表情を崩さない彼が、目を丸くして置物のようになってしまったから、なんだか、結婚のけの字も出してくれない、目の前の男を許してしまいそうになった。
「勘弁してくれ」
「どうして?」
社会人になってもう四年。仕事は一年で慣れたはずだし、結婚するつもりがあれば、匂わせくらいはしてくれるものでは?
「遅くなってごめん。結婚してください」
頬を薄らと染めながら、彼は懐から小さな箱を取り出し、蓋を開けて私に差し出した。
今度は私が呆然とさせられてしまった。