動く人体模型だなんて聞いてない!
七不思議探検、だってさ。
誰が言い出したのかは知らないけど、
まさか本当に行くとは思ってなかったんだよね。夜の学校に。
しかも、「動く人体模型」って、オプションつき。
……行かせるしかない、止められない、
でもこのまま何か起こったら――ってことで、こっそり見張ってきました。
そう、“こっそり”だけで済めばよかったんだけど。
夜の校舎裏、人気のない非常階段の陰。
灯は制服の袖をぎゅっと握り、じっと前を見つめていた。
「ほんとに来るの……?」
「来るよ。ほら」
柚がスマホをスッと見せてくる。チャットアプリの画面が開かれていた。
【図書室の七不思議探検しようぜ!】
【動く人体模型とかマジで見たい】
【今夜、集まれるやつ!】
そこには、見知ったクラスメイトの名前もいくつか並んでいた。
「な、なんで柚ちゃんがそれ知ってるの……?」
「幽霊部員だった。七不思議調査チームの」
「えっ……」
「もう辞めたけど。幽霊だけに、ね」
「そんなうまいこと言わなくていいから!」
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程なくして、探検チームの面々がぞろぞろと現れた。
制服のまま、スマホのライトを照らしながら。
「うわ、本当に来ちゃったよ……」
「まぁ、止めたら目立つし。行かせとくしかないね」
「で、私たちはこっそり様子見……」
「うん。……で済めばいいけどね」
柚の言い方がなんとなく気になって、灯は不安になった。
(“で済めば”って……何か起こるってこと!?)
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図書室に入ったクラスメイトたちが、はしゃぐ声が廊下に漏れてきた。
「マジで模型あるじゃん!でかっ!」
「動くんかな〜?」「いやさすがに動かんやろw」
「……あれ?……今、向き変わった……?」
次の瞬間――
「ぎゃーーーー!!!??」
ばたばたと逃げ出してくる探検チームの生徒たち!
その背後からは、スーッとスライドするように進んでくる、人体模型!!
「ええええええええ!?ほんとに動いてるじゃん!!!」
灯が半泣きで叫ぶ。
「うん。ガチのやつ、だね」
柚が驚くどころか、やや退屈そうに言った。
「落ち着いてる場合!?今まさに“模型”がスタイリッシュに滑ってきてるけど!?!?」
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灯がスマホを取り出すと、画面がうっすら赤く光る。
「主よ。術式展開の準備完了。被害最小限を心がけよう」
(お願いハク!今回はマジで派手にしないで!)
空気がぐっと張りつめた。
次の瞬間、人体模型がピタリと動きを止め、ガクリと崩れ落ちる。
「……止まった?」
「とどめ刺す? いや、模型にとどめって何?」
「こっちも混乱してるの!!」
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その後、図書室の前には結界が張られ、人体模型は完全に“封印”された。
誰も気づかないうちに処理完了。
こっそり部隊、ミッション完了である。
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帰り道。二人並んで歩きながら。
「……ありがとね、柚ちゃん。つき合わせちゃって……」
「別に。あんたが放っとけないだけ」
「えっ」
「……なんでもない」
そのまま、柚はフードをかぶって歩いていく。
灯はその背中をぽかんと見送った。
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夜、スマホの画面の中でハクがぼそりと呟いた。
「主よ……次の七不思議の気配、早くも感じ取れる。これは、余の出番ぞ」
(まだ続くの!?うそでしょ!?)
七不思議、ひとつ消化完了!
でも、まさか本当に“動く人体模型”がくるとは……!
封印の難易度は低かったものの、あのツルッとした滑り方は妙にリアルでトラウマです。
あと、柚ちゃんが思った以上に頼りになるし、
「放っとけない」発言に灯がキュンとする前兆があったとかないとか。
今後もふたりの関係、ちょっとずつ進めていきたいな〜って思ってます