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ちょっとだけ、普通の学校生活がしたかった


日常は、ちょっとした風の音でさえ、いつもとは違って聞こえるものだ。

あの突風の夜から、街には見えない何かが漂い始めた。

式神と、普通の女子高生がスマホ片手に巻き起こす、ちょっと不思議で笑える日常。

さあ、今日もまた小さな事件が教室で起こる――あなたも一緒に覗いてみない?



朝の教室。

スマホの小さな画面から流れるニュース映像を、数人のクラスメイトが囲んでいた。


「突風、記録的な強さで洗濯物が飛びまくり…各地で被害が続出している模様です」

「近隣住民の証言によると、『風が急に強くなり、洗濯物はもちろん、屋根のトタンまで飛ばされた』そうです」

「学校の周囲でも、飛ばされた猫柄エプロンが電柱に引っかかっているのが確認されています」

「……やめて!!よりによって雑巾はやめて!!一番ショックがでかいのよ!!」


教室には笑い声とざわめきが交じる。


(……昨日の御祓いの影響だよね、やっぱり)


灯はスマホをポケットにしまい、小さくため息をつく。


「騒がせてしまったようで、すまぬ」


スマホの中でハクの声が、申し訳なさそうに響く。


「だが、あの柴犬が異様に吠えておったのは……式の残滓に反応したのでは……?ふむ、犬、優秀……」


(今は犬どうこうじゃないから!もう少し目立たぬように祓ってくれ!!)


「うぬ、努力する……努力するが……」


教室のざわめきの中、朝の会が始まる直前。

ゆるゆるとした猫背で、担任の古井先生が教室に入ってきた。


「おーはよー……今日も風強いらしいからなー、洗濯物、飛ばすなよー……って言っても、もう手遅れの子もいるか〜……」


教室がどっと笑いに包まれる。


灯は笑いながらも、窓の外をチラリと見て気を抜けない様子。

スマホの中でハクがこっそりささやいた。


「この“教師”という者、話しぶりは寝言の如し……が、心に翳りなし。よき人物なり」


(それ、褒めてるんだよね……?)



---


灯は隣の席の柚が、ぼそっとスマホの画面を見せてきた。

無表情に見えるけど、どこか鋭い目つきだ。


「これ、昨日のやつ……だよね?」


灯はふと教室のざわめきの中で誰かの視線を感じて振り返りかけたけれど、柚の問いにハッと我に返る。


「えっ……あ、いや、あれはたまたま……かも……?」


「ふうん」


柚は短く返すと、スマホを閉じた。


「……変なことあったら、ちゃんと教えて。私、聞くだけなら得意だから」


その言葉に灯は思わず黙り込んだ。

なにか、気づいてるような、気づいてないような。


(まさか……バレてる……?)


柚の横顔は、無言のまま。

でもその視線は、優しくどこかあたたかかった。



---


1時間目の現代文は、漢文。

黒板にびっしり書かれた古文の一節を前に、先生が熱弁をふるう。


「――この“もののあはれ”という表現、現代語にするなら……そう、“やべえエモい”です!」


(何その訳!!)


灯がノートを取りつつも心の中でツッコむ横で、柚はなぜかぷいっと窓の外を見ていた。

教科書には、先生の絵で隠された小さな式の符号が落書きされている。


「主よ。これは“風結界の基礎符”では?」


(しーっ!!声出さないで!!今は授業中なんだからっ)


「うぬ、されど主の線、うむ……実に惜しい。そこは“転”ではなく“廻”――」


(だからそういうの後でやって!!)


柚が、また横目で灯を見ている。

(やっぱり気づいてるのかな……)



---


2時間目は理科で、移動教室。


灯がプリントを片手に理科室へ向かっていた、その時だった。


「ぎゃあああああああああああっ!!やめろぉおおおおお!!!目がああああ!!!目が見てるううううううう!!!」


突如、階段の踊り場から響いた絶叫。

西田くんがロッカーに背中をぶつけ、暴れながら叫んでいる。


「き、来るなぁああ!!なにあれ!おれの頭の中に……!!」


周囲の生徒たちが騒然とする中――


「主」


「わかってる!!こっちでやる!」


灯は周囲の視線をかわすように走り、踊り場横の非常階段の陰に飛び込んだ。


「御祓いアプリ、起動」


スマホが光り、薄い霧のような式の気配が灯の周囲に広がる。


「式展開。目縛結界、術式起動」


空気が一瞬、ぴんと張りつめた。

スマホの画面に浮かぶ印が、西田の頭上にふわりと光をともす。


「やめろぉお……うぅ……あれ……?」


西田ががくりと膝をついた瞬間、光が消える。

叫び声も、霧のように消えた。


「収束、完了」


ハクの声に、灯はこっそり息を吐いた。


(ふぅ……誰にも見られてないよね?)


――でも、その時。


理科室の入り口で待っていた柚が、じっとこちらを見ていた。

灯と目が合うと、柚はゆっくりと視線をそらした。


そして、すれ違いざまに小さく言った。


「……隠すなら、もうちょっと上手くやりなよ」


「えっ……?」


「大丈夫。誰にも言わない」


それだけ言って、柚は理科室に入っていった。


灯は呆然と立ち尽くしながら、そっとスマホに向かってつぶやいた。


「……ハク。私、バレてたかも」


「ぬ……それは、いささか……よろしくない」


「でも……ちょっと、安心したかも」


「ふむ……主よ。余も、力となろうぞ。たとえそれが――すまほ、なるものを用いたカラクリであってもな!」


灯は、くすっと笑った。


「……それ、スマホって言いたかったんでしょ」



---



見ていただきありがとうございました!


柚「あんた、気づいてるんでしょ。私が見てるってこと」

灯「えっ、そ、そんなことないよ!見られてるの、なんか恥ずかしいし!」

柚「ふん、変に誤魔化すなよ。でもまあ、心配してるだけ」

灯「そ、それはありがとう……かな?」

柚「変なやつ。でも、まあ、悪くない」

灯「柚って、本当は優しいんだね」

柚「べ、別に。あんたが困ってるの見てられないだけだし」


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