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カラクリの中に棲まう式神

悪口など誹謗中傷は心にダメージを受けますのでおやめください。






放課後の教室には、チャイムの余韻と、数人の足音が残るだけだった。

真白灯は窓際の席に座り、スマホを片手に、ネットのまとめ記事をスクロールしていた。


「また呪われた踏切の噂か…怖いの苦手だけど、ちょっとだけ気になるな」


軽い気持ちでタップしたリンク。

その瞬間、スマホがぶるりと震え、画面が一瞬ノイズまじりに揺れた。


《御祓いの術を司るカラクリ、汝に宿りて守らん》


「な、なにこれ……やばっ!」


驚いて手が滑り、スマホが机から床へカツンと音を立てて落ちた。

灯は椅子を引いて立ち上がると、少し腰を引きながら画面をのぞき込んだ。


床に落ちたスマホの画面には、見たこともない和装の青年が映っていた。


「待たれよ、主! 落とすなれば、このカラクリに損傷が及ぶるゆえ、慎みたまえ!」


男の落ち着いた声と、まるで生きているような反応に、灯の心臓は跳ねる。

恐る恐るスマホを拾い上げ、じっと画面を睨んだ。


「……誰? あんた誰? っていうか、なに?」


「我は――」


青年は涼やかな目でこちらを見ながら、静かに言葉を紡ぐ。


「遥か昔、災いを鎮めるために封ぜられし式神なり。

長き眠りののち、目覚めたこの地にて……そなたの魂が我を呼び起こした」


その言い回しの古めかしさに戸惑いながらも、灯は一歩引いて眉をひそめた。


「え、なにそれ、完全にホラーなんだけど。私、変なアプリ開いただけでしょ?なんでそんな話になるの?」


男はふと、周囲を見回すように目線を泳がせる。

だが、それは教室の景色を見るというより、“気配”を探っているような動きだった。


「時代は大いに変わりたり。人の暮らしも、言葉も、姿も、我には異界のように映る。

されど、禍の気配は変わらず……むしろ、この地には再び、災いが満ちつつある」


「災い……?」


繰り返すように呟いた灯の声は、思いのほか小さかった。

彼の言う“災い”という言葉が、どこか引っかかる。


「かつて我が身を以て封じたモノの名残。すでにいくつかは目覚め始めておる。

だが、この時代にはもはや、“それ”を視る術を持つ者がほとんどおらぬ……」


灯は口を閉ざす。

心の奥にある、誰にも話せなかった違和感がざわめいた。

近ごろ、あの踏切で感じた“何か”の視線。無視したはずなのに、胸に残っていた。


「そなたには才がある。血か、魂か、縁か……いずれにせよ、我と契を結べば、

その才を以て災いを祓う力が目覚めるであろう」


男の声は落ち着いていたが、どこか必死さも滲んでいた。


「……いや、ちょっと待って。私、そういうの関わりたくないんだけど」


思わず一歩後ずさる。

教室の誰もいない静けさが、急に異様に思えてくる。


「無理強いはせぬ。されど、災いは待たぬ。

見て見ぬふりを選ぶのも人の自由。されど、そなたが動けば救われる命もあるやもしれぬ」


その言葉に、再び静寂が降りた。

灯はスマホを持ったまま立ち尽くし、息をついた。


「……ほんとに、変な日だな。でも、話は……まあ、ちょっと筋が通ってる。

あと、たぶん、私が無視してもこいつ勝手に動きそうだし……」


小さくつぶやくように言った声に、画面の中の男がふっと微笑んだ気がした。


「では、契を。名を以て結ぶが習わしなり」


静かな提案に、灯は軽く肩をすくめ、スマホを持ち直す。


「真白灯。……あんたの名前は?」


「ハク。そう呼ばれておった」


「……よろしく、ハク」


こうして、少女と古の式神との奇妙な契約が結ばれた。

それが、日常の境界がほんの少しずつ、揺らぎはじめる最初の一歩だった――。



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読んでくれてありがとうございます。

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