第92話 黒
「……傷はもう大丈夫なの?」
重い空気の中、母さんがそう溢した。
「うん、魔王を倒したら治ったから」
セレスは俺の肩を抱き、言葉を続けた。
「話はまだ続くのです」
「続くって言うのは?」
「物語のように魔王を倒して終わり、ではなかったのです」
◇
魔王討伐を成し遂げた親衛隊の帰路はとても険しいものだった。
通常の魔物に加え、魔王軍の魔物、それに魔族。
魔王を討伐したことにより、統率が取れなくなったのか、その攻撃に一貫性が無くなり、対応は困難を極めた。
やっとの思いで帰還した和也は、凱旋もほどほどに皇帝に謁見した。
「魔王討伐、ご苦労であった」
「はい、皇帝陛下」
「……本当に魔王を討伐したのか?」
「俺がこの手で確かに切り伏せました」
その言葉に貴族たちの間にどよめきが起こる。
「それはこのケインが保証いたします。隊長は確かに魔王を切り伏せ、魔王は灰塵と化しました」
「副隊長と同じく、セレスティーナ・ヴィ・ユグドミレニアが保証します」
「そうか……」
皇帝は深く玉座に座り込み、ホッと息をついた。
「そうか、魔王が倒れたか……」
「今後魔物の動きが活発になるやもしれません。急ぎ対策をとらねば」
貴族たちがまた慌ただしく動来始めた時、皇帝が声を発した。
「改めて、魔王討伐ご苦労であった。して、何か望みはないか?」
「元の世界への帰還を、お願いします」
その声にまた貴族たちは響めく。
「……で、あるか。そうよな……」
「皇帝陛下?」
「……まこと、心苦しい限りだが、勇者の帰還魔術は魔王軍によって奪われてしまったようなのだ」
その言葉に息が詰まった。
「それではカズヤ様はどうなるのですか!?」
皇帝は重い口で言った。
帰れない、と。
血の気がサーっと引いていくのが肌感でわかる。
視界が段々とノイズ混じりになり、耳もキーンと聞こえなくなる。
次の瞬間、俺の視界は真っ暗になった。
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