第85話 文化祭そのさん
『勇者がイスガルドにやってきて半年が過ぎた。彼の活躍あってか、国内の魔族は概ね一掃され、勇者一行はエルフの国、ユグドミアへ向かうことになった』
「勇者よ、其方の活躍は聞いている。其方の力、我が王国にも貸して欲しい」
「仰せのままに、王よ」
「エルフの軍の長としてアリスをつける。よろしく頼むぞ」
「ユグドミア王国第二王女、アリス・ウォン・ユグドミアです。よろしくお願いしますね勇者殿」
被服部の底力というべき美麗なドレスを纏ったセレス……いやアリスが優雅にカーテシーを披露する。
「失礼ながら王よ、戦場はとても危険です。どうかご再考を」
「大丈夫です。戦地視察なら何度も行ったことがありますし、実際に戦ってきました。足手纏いにはなりませんよ」
「その通りだ勇者よ。アリスの実力を鑑みれば問題はない。よろしく頼むぞ」
「……御意に」
エルフの王が退場した後、勇者はアリスと二人になる。
「戦場に同行など……本気なのですか?」
「本気です。……そのような顔をされなくても大丈夫ですよ。私は王族の中で最も魔術に長けていますから」
「……わかりました、俺が守るので絶対にそばから離れないように」
舞台の照明が落ち、場面が切り替わる。
『勇者一行は先日激進したという戦場へ足を向けた。そこは駐留軍以外には死体しかなく、静寂な戦場だった』
「いくら味方が治めたといえど、戦場です。気を抜かずに」
「ああ、わかっている」
ケイローンの忠告に頷いて勇者は一行に同じく忠告をする。
「アリス殿下、以前と比べて周囲の変化はありますか?」
「特に変わったところはありません。ただ……以前はもっと平和な場所でした」
「心中、お察しします」
遺体を確かめるように一行が動いていると、沈黙を破る声が聞こえた。
「う、うぁああああ!」
皆が一斉に抜剣し周囲を警戒する。
するとどうだろう、魔物やエルフたちの死体をかき分けながら魔物たちが現れてきた。
「屍食鬼、卑劣な真似を!」
皆一様に作業をやめ、戦闘体制に移る。
アリスがいる場所を守るような形で陣形を組み、迫り来るグールたちを排除していく。
「グールは火属性の魔術に弱い!火属性が得意な魔術師は!?」
「ダメだ!こんな森の中で火属性なんて使ったら」
「我々の森に火をつけるか!」
そんな言い争いが聞こえ始めた頃、アリスが喝を入れる。
「グールにしっかり狙いを定めればいい話です!それともお前たちはそんなこともできないのですか?」
「いいえ、いいえ!やれますとも!」
「その意義です!とにかく数が多い!躊躇せずに!」
火属性魔法の轟々とした音に、可笑しな声で笑うグール。
ほぼ無尽蔵に湧き出るグールたち軍はジリジリと後退を迫られる。
「うああああ!」
防御陣形の中程にいる魔術師から声が上がった。
「どうした!」
「す、スケルトンだ!」
「騎士を!騎士を早く!」
安地だと思われていた味方陣地からの敵、陣形を崩すには十分だった。
「この組織的な行動、誰かが操っているのか?」
「この数の手前、そうでしょうな!」
勇者は敵を切り捨てつつアリスの元へ向かう。
群がる敵を切り開いて進むと、アリスも戦っていた。
「【エアリ・フェル】!」
風を切る音がスピーカーから流れる。
右へ左へと移動する音は、セレスの魔術をよく再現できている。
「アリス殿下!」
「助かります!」
アリスの背後から襲おうとするグール達を切り伏せる。
「キリがない――!」
そんなことを思い始めた時、下手なバイオリンのような声が森に響いた。
「キィシシシシッ!無駄、無駄だよぉ?材料ならいくらでもあるんだものぉ」
「誰だ!姿も表さずとは卑怯だぞ!」
果敢なエルフの騎士がそう声を上げるも即座に斬られ、グールの餌食になる。
「ハハッ!そう簡単に見せるわけないだろぉ?でもでも、勇者がいるのなら話は別だよねぇ?」
そう言って姿を現したのは手足をだらんとさせたローブ姿の男。
「初めまして勇者サマぁ。オイラはブリスク!へなちょこクロゥビルの代わりに四天王になった男サ!」
ブリスクはひとしきり笑った後、彼はスンと黙り、ローブを広げた。
次の瞬間勇者はアリスの前に出る。
「勇者様!」
音響効果で何かしらの攻撃が当たったのがわかる。
その証拠に勇者の鎧は血に塗れていた。
「今、回復を!」
「後ろに下がっていてくれ、当たるかも知れない」
「そんなことよりも!あなたの体が!」
アリスの静止の声を聞き入れず、勇者はあの敵を打ち砕かんがために突き進む。
「キシャシャシャ!無駄、無駄だよぉ?その攻撃には毒が塗ってあるからねぇ?すぐにぃ――?」
可笑しく笑うブリスクはピタリと止まった。
「なんでぇ?なんで動けるのぉ?」
ブリスクは動揺しつつも三度針の攻撃をする。
勇者は眼前にロングソードを構えて顔面に攻撃が当たるのは避けるが、それ以外は避けず、突き進む。
「可笑しい、おかしいよ!なんで避けないのさぁ!お前、人間じゃねぇ!」
今度は魔術が混じった攻撃、火属性、風属性の攻撃が勇者を襲う。
それも勇者は避けることはせず、魔法を剣で切り飛ばし、ブリスクに迫る。
「ハハッ!魔術を切るなんてぇ....やっぱりお前可笑しいよぉ!」
そう叫びながら魔術を行使しようとするブリスクの杖ごと首を切り飛ばす。
術者が死んだ影響か、グールたちは活動をやめ、スケルトンは瓦解する。
戦場には味方の息吹だけが残り、死者は沈黙を持ってそれを返した。
「――カズヤ様!カズヤ!」
土の壁からアリスが出てくる。
勇者の姿を確認するや否や、絶句し、その足を早めた。
白銀の鎧に突き刺さる無数の針、溢れ出る血。
それとは反対に勇者は笑ってアリスを見た。
「ご無事でしたか?殿下?」
「無事な、無事なわけないでしょう!」
「どこか怪我でもしたのですか?急いで治療しなければ――!」
「私はなんともありません!あなたを治療しなければ!」
そう言って患部を見ようとするアリスはそれを見て動きを止めた。
「傷が……塞がっていく……」
「こっちの世界に来てからどんな攻撃を受けてもこんな風に回復するんだ。だから――」
「でも!」
心配ない。そう伝えようとする勇者を語気強くそれを遮った。
「でも、痛いでしょう?」
「――うん」
勇者のそんな小さな呟きは静寂な戦場に静かに響いた。
場面は切り替わって勇者一行が止まる宿。
『一行は戦場の守備を他の軍に引き継ぎ、王都の宿に帰ってきた。新たな四天王討伐したとあって、騎士たちは宴に興じる。そんな彼らを勇者とアリスは2階のテラス席から眺めていた。』
「皆、楽しそうですね」
「うん」
「今回、幸いなことに死者はいなかったそうですよ」
「うん」
そんな会話のキャッチボールとは言えないやりとり。数秒の沈黙の後、切り出したのはアリスだった。
「あなたのこと、教えてくれませんか?」
涙腺が震えるのを抑えながら勇者はポツリとこぼし始めた。
「俺は、どこにでもいる学生だったんだ。それで、急にこの世界に呼び出されて、戦いの術を叩き込まれて、戦争に勝てば元の世界に帰れるって言われて戦争に参加させられて……何も、何もわからないんだ――!」
勇者は嗚咽混じりにそう呟く。
そんな彼の背中を摩るアリスは言った。
「私はあなたの事、知りたいと思いました。あなたの世界の技術とか文化とか、そんなことよりもあなたの事をもっと知りたいと思いました」
アリスの頬に一筋の涙が溢れる。
月明かりに照らされた彼女の姿を勇者は忘れることはないだろう。
「私は、あなたの事を好きになりました。わからないのなら一緒に探しましょう?貴方が帰るその日までで構いません、一緒にいさせてくれませんか?」
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