第84話 文化祭そのに
場面は切り替わり皇城の訓練場。
勇者が木刀を握りケイローンに向かう。訓練をつけてもらっているところだ。
「まだです!踏み込みが甘い」
「くっ……」
「いくら勇者というスキルがあっても訓練をしなければ赤子も同然です。なので基礎からしっかりと学ばなければ」
「……わかってる……けど!」
鍔迫り合いの末、勇者は弾き飛ばされ、肩で息をする。
「思うところはあるでしょう。けれど現実は変わらない。近々貴方は戦場に投入されることでしょう。私はそうなった時に貴方が1秒でも長く生き残れるように訓練を付けるのみです!」
一合二合と剣を交え、木刀同士がぶつかり鈍い音が鳴る。
「……嬉しいです。どこの馬の骨とも知れぬ俺にこんなに親身になって教えてくれるなんて」
「勇者、貴方という人は……もっと文句の一つでも出るかと思っていました」
「文句はいっぱいありますよ。……けれど、貴方が言った通り現実は変わらない。だったら1秒でも長く生き延びて元の世界に帰るんです!」
そう言って勇者とケイローンは剣を交えながら舞台袖へと消える。
背景が変わり長閑な平原。舞台上では名前はロイド平原、しかし、そのだだっ広い平原の有り様はあのローズ平原をよく再現している。
「目標地のロイド平原はどのような場所なんですか?」
「いってしまえば特に何もない本当にただの平原です。それと口調を正してください?部下に示しがつかないですよ」
そう忠告された勇者は居住まいを正す。
勇者が来ているシルバーの鎧に赤いマント。よく再現できたなとセレス達も唸らせる出来だ。
「目標であるロイド平原までは距離がありますが、警戒を。もうここは戦場です」
「ああ、わかった」
舞台を照らす照明が一段暗くなったと同時にヒューと風を切る音が聞こえてきた。
「勇者!」
「わかってる!総員散会!魔術攻撃がくるぞ!」
ライティングが赤いものに変更され、鈍い爆発音や兵士たちの声が聞こえてくる。
戦場だ。
勇者がそう命令した少しした後、より大きな爆発音が聞こえてくる。
「う、ああああああああぁああ!!」
「なんだ!?なんだ!?」
「なんでこんなところに魔族がいるんだよ!」
魔族と剣を交わして殺陣を演じる。
「退却です!すぐに退却の指示を!」
部下の一人がそう口にした。けれどそれを彼がすぐに否定した。
「いいやだめだ!相手は飛行型が多い、後ろから突かれるのがオチだ!突破してロイド平原で待つ軍と合流する!」
「しかしこの分ではロイド軍がやられている可能性も――」
「飛行型が多いのなら奇襲の可能性が高い!大丈夫だ」
そう言った勇者は剣を掲げて叫んだ。
「我に続け!行くぞ!」
それは英雄が持つに相応しい覇気と呼べるそれをだし、観客を一気に舞台へと引き込んだ。
勇者が駆け抜けた先もまた混沌な戦場が広がっていた。
そこかしらに物言わぬ骸が転がっていた。
「ほう……暇つぶしに来てみたら、この魔力……勇者に出会えるとは……なんと運が良い」
スピーカーから電子的な加工が施された声が聞こえてくる。
「誰だ!」
「俺の名前はそこまで轟いていないか……皆殺しにし過ぎるのも考えものだな」
そう言って姿を現したのは漆黒に紫を混ぜたようなまがまがしい色合いの鎧をきた人物。身長に届きそうな大剣を持った大男だった。
「あえて名乗ろう、我が名はクロゥビル。魔王四天王が一人だ」
口上戦となった二人は舞台中央を中心にぐるりと回るように立ち回る。
「勇者だ」
「口上感謝する」
「貴殿らは何用があって、われら人間領を犯さんと欲す」
「我らが神の啓示により、人類を粛清するために参った次第」
「そんな事、到底許容できるはずがない」
「で、あろうな」
交渉の余地はない。クロゥビルが醸し出す空気がそう告げている。
「だが、それではつまらない」
「つまらない?」
「そうだ。ただ人類を粛清するだけだとあまりにも味気ない。故に、一騎打ちを申し込む」
「だれとの一騎打ちだ?」
そう勇者が聞くと、クロゥビルはゆっくりと勇者を指さした。
「おまえだ、勇者よ」
「その一騎打ち、こちらが受けるメリットは?」
「万が一この私が敗れた場合、ここに展開している軍は即座に本国へ撤退しよう」
「その保証は?」
「今回連れてきているのは全て魔物だ。魔物は俺に絶対服従、たとえ死のうとも、魔王様でない限りそれは命令の上書きは出来ない」
証拠を見せるように、クロゥビルは近くにいた魔物に自害を命じた。
それに魔物は有無を言わせず従い自決した。
「これでどうだ?」
「わかった、信じよう」
「勇者!」
「勝てばいいだけだ!因みにそちらが勝った時はどうする?」
「勇者を殺せただけで十分よ」
「わかった」
そう言ってお互い距離を取る。
「勇者……あなたという人は――」
「勝てばいい。それだけだろ?」
「――そうですね。勝ってくださいね」
「ああ」
両者ともに向き直り、何方ともなく剣を抜く。勇者はロングソードを、クロゥビルは大剣を抜いた。
「いくぞ、勇者よ」
「こい、クロゥビル」
そう口にすると、クロゥビルは体中に力を込めた。
大剣を振り勇者と剣を交わす。
一合、二合と剣を交える。
「ふんぬっ……!」
「はあっ!」
防戦一方だった勇者がクロゥビルの大剣を弾き返す。クロゥビルはその衝撃に一歩下がった。
次は勇者が攻撃を仕掛ける番だ。
決して俊敏とは言えない剣。けれど一撃に重きを置いた剣技でクロゥビルを攻め立てる。
「ッ……勇者とは、このような……ものなのかッ!」
「ふっ――せぁ!」
鈍い剣さばきだった勇者の剣技が段々と洗練されたそれに置き換わっていくのが素人目でもわかった。
「さすが勇者よ、これほどとは!」
「これで……!」
「させ、ぬッ!」
勇者がクロゥビルの剣を破る。文字通り、剣の形をした発泡スチロールを勇者の剣で砕いたのだ。
「最後に何かあるか?」
「……魔王様は強いぞ」
「わかった」
そう言って最後の一振りをクロゥビルへ送る。
力なく倒れたクロゥビルをみて人間軍は歓声を上げた。
勇者の初陣は四天王撃破という華々しい結果となったのだ。
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