9話 家でもまた一騒動
夕飯まではまだ時間がかかるらしい。
特にやることもなかった俺たち3人は家……俺の部屋に帰ってきた。
「家よりもこっちの方が帰ってきた感じがする」
「それは……嬉しいです」
リビングにあるソファーに身を預けると隣にセレスが寄り添ってくれる。
この家とセレスの薫りが心に安らぎを与えてくれる。
「どうして?」
「あなたの安らぎが私たちにある事実が嬉しいのです」
体の血流が若干早くなるのを感じる。何か反論のようなことをしたいが、全て事実なので受け入れざる終えない。
それを紛らわすためにか、俺はセレスの肩口に顔を埋める。
「あらら、可愛いひと」
それに対して無言でいると彼女はそのしなやかな指で俺の頭を撫で始める。
「アリシアは?」
「自分の部屋に戻って行きました」
「……気を使わせたかな」
「かもしれませんね」
そう言って彼女は微笑む。
俺は一体何回この笑顔に救われたのだろうか。
「セレスは大丈夫かい?」
「ええ、学校の皆さんはよくしてくださってますから」
「それもそうだけど、そうじゃなくて」
「何度も言いましたが、私……私たちの居場所はあなたがいるところです。立場も何も関係ありませんよ」
「……ありがとう」
言葉足らずの俺に寄り添ってくれるセレスとアリシア。
なんて幸せなんだろうと思っていると、自然と俺たちの距離は小さくなっていく。
「ただいまー!」
そんな時にはたまた10年ぶりに聞いた元気の良い声が玄関から聞こえてきた。
「唯が帰ってきたみたいだ」
「妹さまでしたよね?」
「そうだ、ちょっと元気なやつだが、まだ行けそうか?」
「いつかのパーティーに比べれば全然、それに楽しいですから!アリシアを呼んできますね」
「頼む」
◇
リビングに戻ると妹の唯はソファーでくつろいでいた。俺には経験がないのでわからないが、部活の合宿ともなればそれなりに疲れるのだろう。
「お兄、なんか玄関に見慣れない靴があるんだけど、何か知ってる?」
「ああ、お前に紹介したい人がいるんだ」
「え!なになに?お兄が人を紹介なんて珍しいじゃん!」
二人をリビングに通し、また自己紹介をしてもらう。
「セレスティーナ・ヴィ・ユグドラシアです」
「アリシア・ハトリ・ユグドラシアです」
なれた様子でカーテシーをする二人、それを見た唯は口をあんぐりと開け、数秒固まったのちに驚きの声を上げた。
「お兄が女の子二人も連れ込んでるー!!」
「言い方!」
「どゆこと!?超絶美人だし、なんか耳長いし、美人だし!エルフみたい!」
「その通り二人はエルフだ」
「お兄等々おかしくなった?まるで異世界に召喚されて帰ってきたみたいに言うじゃん!」
「よくわかったな、その通りだ」
「どうゆこと!?」
混乱する妹を落ち着かせながら説明する。
「え〜っとつまり?昨日の学校帰りに異世界に召喚されて、勇者として10年戦い、救った国のお姫様をお嫁さんにして娘を作って連れて帰ってきたってこと?」
合宿明けとは思えないテンションで話す唯に頷いて返す。
「荒唐無稽な話に聞こえるけど、さっき魔法見せてもらったし、セレスティーナさんとアリシアちゃんの耳長いし……」
「信じてもらえないかもしれないが、全部本当なんだ」
「いや、信じるよ」
「え?」
うーんと唸っていたのにあっさりと受け入れられて内心驚く。
「だって水の玉が浮いてるんだもん、魔法じゃん!私が気にしてるのはアリシアちゃんのこと!」
「わ、私ですか?」
「うん、だって、アリシアちゃんはお兄の子供なんだよね?」
「はい、私はセレスティーナとカズヤの娘です」
「てことはつまり……私、叔母さん?」
「血縁的には叔母になるな」
そう言うと唯は頭を抱えた。
「この歳で叔母さん……!」
「よろしくな!唯叔母さん」
「お兄!私まだJCだよ!言って良いことと悪いことがあるよ!」
チョけてみると妹は俺の胸ぐらを掴みぐわんぐわんと揺らす。
「悪い悪い」
「反省が見えないー!」
さらに強く揺らしてくる唯。
「わかった!悪かったって!」
「罰として明日ケーキ買ってきて!」
「はいはい」
俺の胸ぐらから手を離し、今度はセレスに向き直る唯。
「セレスティーナさん!」
「は、はい」
期待に満ちた表情でセレスに言った。
「もっと魔法見せてください!!」
「え、ええ、それは構わないんですが、良いのですか?」
「なんです?」
「私たちのこと、そんな簡単に受け入れて良い話では……」
切り替えが早い妹に驚くセレスに唯は以外そうな顔をする。
「だって、セレスティーナさんはお兄のこと好きなんでしょう?」
「え、えっとそれは……もちろん……です」
「だったら大丈夫です!あ、アリシアちゃんは叔母さんじゃない呼び方でお願い!」
「わ、わかりました唯お姉様」
勢いに負けながらもアリシアは唯に答える。
「私人を見る目には自信があるんだ!だからこの話はおしまい!ねえねえ、もっと魔法見せて!」
まるで子供のような目の輝きを見せる唯にセレスも口角を上げた。
「もちろんです、それと私のことはセレスとお呼びください」
「わかった!セレス姉!」
その後ご飯の呼び声がかかるまで、唯はセレスに魔法をせがみ続けた。
見せる側もだんだん楽しくなってきたのか、ちょっと大袈裟に魔術を使ったりと楽しそうだ。
久方ぶりに平和な魔術行使に俺はほっこりしつつ3人を眺めていたのだった。
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