第79話 戦いとは
どうやら脚本が佳境に入ったらしい。
夜な夜なセレスが書き連ねている原稿用紙の厚みが増して行くと同時にセレスが唸る回数が増えた。
「本当に世の中の作家さんたちの凄さを実感しています」
いくら演劇になったことがあり、前例があったとしてもやはり難しいようだ。
俺には手伝えることはセレスの書いた原稿をデジタルに起こすことくらいだ。
それを行っていると色々なことを思い返す。
あの時の戦場を、その合間の会話を。
「俺、こんなこと言ったかな?」
「言っていましたよ?覚えてらっしゃらないのですか?」
「無我夢中だったからあまり覚えてないなぁ」
どうにも劇の中の俺は美化されすぎているように感じる。
セレスにそう聞くとそんなことはありませんよ?と返される。
なので現場を知るケインにも聞いてみることにした。
「なあ、この中に出てくる俺、美化されすぎてないか?」
「物語としての美しさを出すために調整はされていますけど、私はこの通りだと思いますよ?」
どうやら俺は戦場でクサいセリフを吐いていたようだ。
なんとも言えない羞恥心が襲ってくることを感じるがそれをなんとか無視して作業を続ける。
「そんなに思うことがあるのなら、隊長がお書きになれば良いのでは?」
「いや、俺は物語とか自叙伝をかけるほどのことはしてないよ」
「四天王にドラゴン、魔王まで討伐しているあなたが何をおっしゃいますか。そんなことを言ったら世の英雄たちがただの一般兵になってしまう」
「だって俺一人で戦ったわけではないしな」
「それこそ世の英雄たちも同じです。隊長は誇って良いだけの戦果をあげられたのですから、もっと堂々としてください……これ10年ぐらい言ってますよね?」
「何度言われてもそんな気が起きないんだって」
◇
隊長はいつもこう言って自分を卑下なさる。
イースガルドに召喚されて以降10年、セレスティーナ様やアリシア様のことは自慢なさるのに自分のことは一切自慢も語りもしない。
きっと争いを嫌厭しているからだと私は思っている。
この世界で暮らし始めて三ヶ月ほど、呆れるほどに平和なこの国で生まれ育った隊長にはあの世界がどれほど過酷で残酷に映ったのだろうか。想像を禁じ得ない。
戦時中、皆が何人討ち取ったなどと話している輪には入らずただ眺めていたのを今でも覚えている。
たとえどれだけの大将首を討ち取ったとしても、雑兵を倒しても、隊長からすれば一回の殺人以外の何者でもないのだろう。
それが肯定される世界がどれほど歪んで見えたか、この濁った目にはわからない。
それでも、隊長のおかげで生きながらえた命があることを忘れないでほしい。
きっと私が何を言っても変わることはないだろう。
どうかセレスティーナ様、アリシア様、隊長を救ってあげてください。
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