8話 一日を終えて
色々ありつつも無事に終わった学校1日目。俺にとっては何百回目の、セレスにとっては二回目の帰路を辿る。
陽が傾いて少しした頃に家に着いた。
「「ただいま」」
玄関で帰宅の挨拶をするとトトトと軽い足音が聴こてくる。
「おかえりなさいませ!お父様、お母様!」
「うん、ただいまアリシア」
「お婆様の言うことちゃんと聞いてましたか?」
「はい!お買い物でスーパーと言うところに連れて行ってもらいました!」
リビングに向かいながらアリシアの今日の話を聞く。退屈していないか心配だったが、母さんが色々やってくれたみたいだ。
「スーパーとは凄い場所ですね!まるで市場が一箇所にギュッと凝縮されたみたいでした」
「まあ、私も行ってみたいわ」
「それじゃあ今度は3人で行ってみようか」
キッチンで夕飯の準備をしているであろう母さんが顔を覗かせる。
「悪いわね、勝手に連れ出して」
「いや助かったよありがとう」
「アリシアちゃん凄いわね、いいお野菜をすぐに見つけてくるんだもの。あれも魔法なの?」
「いや、多分目利きだよ。シエルに教えてもらってたから」
「誰なの?」
「本邸のメイド長。なんでもできる人だよ」
「本邸……メイドさんなんかいるのねぇ、凄いわぁ」
「異世界だからね」
手伝うと申し出たがそれはやんわりと断られる。アリシアの相手をしてやれという事だろう。
「車って凄いです、魔力無しに加速して、お父様の馬車より揺れないんですもの」
「今日は楽しめたようだな」
「はい!」
元気に答えるアリシアの頭を撫でる。向こうでは俺とセレスの娘として立場ある振る舞いを母親に負けないほどの美しさでこなしてくれていたが、今は年相応の少女そのものだ。どちらが悪いなどと言うつもりはないが、のびのびとできていることが一番だろう。
「明日明後日は学校休みだから色々見に行こうか」
「お母様たちとお出かけですか?」
「ええそうよ」
「やった!嬉しいです!」
近場で色々見れる場所といえばショッピングモールだが、他にないかとスマホで調べてみる。そうしているとセレスが不思議そうにスマホを注視する。
「なるほどスマホというのはこうやって使うんですね」
「ああ、だいぶ前に説明したけど、これで調べ物や遠くの相手と喋ることができるんだ」
「魔術の才能に左右されない……凄いです」
「セレスティーナさんはスマホを知っているのね」
「はい、向こうで何度か見せていただきました」
向こうの世界でもスマホは持っていた。けれど、異世界には電波も無ければコンセントもない。
電源を切ったりして持たせていたが、向こうに渡って三ヶ月くらいでただの板になってしまった。
「写真とか撮ってないの?」
ワクワクとした表情で聞いてくる母さん。
「ちょっと待ってね、確か何枚か撮ってた思う」
カメラロールを見てみると、やはり向こうの世界の写真が数枚あった。
観光どころか戦時中だったのによく写真を撮っていたなと自分で驚く。
「ほら、あったよ」
「見せて見せて!」
映し出されているのは城から見た城下町であったり市場、戦場を共に駆けた愛馬の写真。
哀愁に近い懐かしさを感じつつもスワイプして写真を見せていく。
「凄い立派な建物ね〜まるで中世ヨーロッパみたい」
「だよね、俺も最初はびっくりしたよ」
「それにこのお馬さん、すごく凛々しいわ」
「その子はカズヤさんの愛馬、イスカンダルですわ。その子と共にカズヤさんは戦場を駆け巡っていらっしゃいました」
信頼できる人に預けてきたが、イスカンダル……元気にしているだろうか。
「あの子は強い子です、きっと大丈夫です」
「ありがとう、セレス」
そんな話をしていると炊飯器が声を上げる。夕飯作りも佳境といったところだ。
「ただいま」
ちょうど頃合いよく父さんが帰ってきた。当たり前だがスーツ姿。それでもちょっと引っかかる感触があるなんて、俺はかなり異世界に感化されたらしい。
「おかえりなさいませ、お義父さま」
「おかえりなさいませ、お爺様」
「あ、ああ。ただいま」
「?どうかされましたか?」
ちょっとしどろもどろする父さんにセレスは疑問を投げる。
「多分、丁寧な返事をされてびっくりしてるんだと思うよ」
「ですが……」
「俺が向こうにきたばかりの時と同じで、貴族的な対応や言葉遣いに免疫がないんだよ、俺たち現代人は」
俺がそういうと盲点でしたと言わんばかりの表情を二人は浮かべる。
「和也の言うとおりだ、どうにもちょっとむず痒くてね」
「俺と接する時みたいに気軽でいいだ」
「はい、わかりました」
ちょっと困り眉な笑顔を浮かべるのでどうしたもんかと思っていると、母がふんわりとした口調で声を掛ける。
「セレスティーナさんからすれば、私たちは姑と舅だもの〜中々難しいのではなくて?」
「あー……それもそうか」
「ゆっくりで大丈夫よ〜だって家族ですもの」
困り眉は消え、柔和な笑みでセレスは答える。
「でしたら、私のことは”セレス”とお呼びください。家族は皆そう呼んでくださいます」
「そうか、だったら改めてよろしく、セレスさん」
「よろしくね〜セレスさん」
「はい!よろしくお願いします」
微かに曇る気配を感じつつも、セレスと両親の仲がさらによくなったのを見れて、俺は安堵の息を漏らした。
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