第67話 赤ちゃん
体育大会も終え、通常授業に戻った俺たち。
学校帰りにカフェに寄っていた。
「こんなお店があったなんて……知らなかったです」
「俺もつい最近聞いてさ、気になってたんだ」
店の雰囲気は何処とは言えない海外風のレトロモダン調。扉を開けてすぐにレジ兼厨房のカウンター。そこに備えられた4席のカウンター席にそのまた奥にテーブル席が2席。
決して広いとは言えない店内だが、窮屈さを感じることはなく、むしろ心地よいと思える。
「良いお店ですね」
「そうだな」
注文した商品を受け取り、他愛のない雑談に花を咲かせる。
そんな中、扉が開く音が聞こえた。どうやら新しいお客さんらしい。
店に入ってきたのはベビーカーを引いた女性。俺たちの隣のテーブル席に座った。
ベビーカーの中には当然赤ちゃんがいて、柔和な笑みを浮かべていた。
「ばぁ〜」
ベビーカーの中の赤ちゃんの目がセレスを捉える。
「あら?」
「あぶぅ」
セレスの方に向かって一生懸命に手を伸ばす赤ちゃん。
その様子がなんとも愛らしく、俺はつい口角を上げる。
「すみません……」
「いえ全然、可愛らしい子ですね。女の子ですか?」
セレスの言葉に女性は頷く。
「そうですか……こんにちは、私はセレスっていいます」
「せ!」
「はい、そうですよ〜」
セレスは赤ちゃんに指を握らせれたりして遊ぶ。
懐かしい光景に微笑みを漏らす。
アリシアにもこんな頃があったな。
あのときはまだ戦乱が残る中だったので、俺はずっと家を空けっぱなしで幼いアリシアの世話をセレスや屋敷のみんなに任せっきりだった。俺ももっと育児に協力できればと毎回話すたびにセレスは「あなたが外を守ってくれているから私達は安心して暮らせるんです」なんて声をかけてくれたっけ。
そんなことを考えていると、赤ちゃんの表情に皺がよる。
「ああ〜!」
「あらあら」
赤ちゃんがぐずり始めてしまった。
「おしめはさっき変えたばかりだし、ご飯も食べたばかりなのにどうして……」
悩む女性にセレスは一声掛けてから赤ちゃんを抱く。
「赤ちゃんは時々寂しくなるんです。お母さんの鼓動が聞こえないとお母さんを探すように泣いてしまうんです」
ポンポンと赤ちゃんを優しく叩きながら体を揺らすセレス。
しばらくそれを繰り返すと赤ちゃんはその瞼を閉じ、可愛らしい寝息を立て始める。
「すごい……この子一回ぐずると中々泣き止まないのに……」
「赤ちゃんが泣いてしまった時はこちらは慌てずに優しく穏やかに赤ちゃんを包み込むことが大事です。こちらの不安といった負の感情に赤ちゃんは敏感ですから」
セレスは慈愛の眼差しで赤ちゃんを抱き続ける。
昔聞いたことがある、赤ちゃんは泣き止んですぐに寝かせるとそれをぶり返すと。
「すみません、急にこんな」
「いえ、助かりました。ありがとうございます!もしかして赤ちゃんを相手にしたことが?」
「ちょっと親戚の子を見ていた時期がありまして」
高校の制服を着たセレスが自分の子ですなんて口が裂けても言えるわけがない。
俺のそんな心境をよそにセレスは赤ちゃんを女性に渡す。
「私達はこれで」
「はい、ありがとうございます」
小さな声でバイバイと赤ちゃんに告げ、俺たちは店を出る。
「赤ちゃん、可愛かったですね」
「そうだな」
帰り道、太陽が傾きつつある中、俺たちはそんな会話に花を咲かせた。
「またお世話したくなりました」
「でも、大変じゃないのか?」
「もちろん大変ですよ。子育てというのはそういうものです。今も終わってはないですしね」
それでもとセレスは言葉を続ける。
「それでも、貴方との子なら何度でも」
「……ありがとう」
なんとも照れくさい。
火照る熱を太陽のせいにしながら俺たちは家路を急いだ。
俺たちの子に会うために。
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