閑話 顔
ふと、思うことがある。
戦場に出る前の彼は一体どんな風だったのだろう、と。
きっと今よりも穏やかな性格だったんだと思う。
優しい彼のことだ、きっとそうに違いない。
「え? セレスティーナさんたちが来る前の和也?」
思い切って聞いてみることにした。
「はい、ちょっと気になりまして」
「う〜んそうねぇ」
お義母様は少し思案顔を見せた後、ポツリと答えを溢した。
「ちょっと暗かったかしら」
「暗い?」
「ええ、何を聞いても生返事ばかりだったわ」
ちょっと、大分意外だった。
「なんというか、自己表現が苦手だったわぁ」
イースガルドでは逆だった。
隊長として隊の意見をしっかりと洗い出し、まとめ上げ、確実に任務を遂行する。
そんな彼ばかりを見てきた私からすれば想像もつかなかった。
「ちょっと意外です。私は勇者として隊長として責務を全うする姿しか知りませんので」
「そんなことないわよ」
「え?」
「あの子があんなに甘えてるところ見たことないわぁ」
お義母様にそう気づかされクスリと笑う。
確かに二人きりの時の表情と勇者としての彼は別物だ。
けれど、きっと私の知らない彼がいる。
そう思うとどうにも胸の奥に苦いものが生まれる。
「なんだか不服そうね」
「え、いえ! ……嘘です、少し、私の知らないカズヤさんがいると思うとモヤってします」
「和也は愛されているのね」
その言葉に少し照れるものを覚えるもそれを肯定する。
「でも良かったわぁ〜和也、いい顔になったもの」
「いい顔ですか?」
「ええ、なんというか自信に満ち溢れているというか、背筋がスッと伸びたというか。なんだか前向きになったように感じるわ」
きっとセレスティーナさんのお陰ねというお義母様に今度こそ照れくさくて笑う。
実際私から見ても、彼は良い顔になったと思う。
勇者としての責務から解放された今、彼を抑圧するものは何もない。
何処となく強張っていた空気も何処かに行っていた。
「それに、セレスティーナさんの顔も良くなったわぁ」
「私ですか?」
「ええ、最初の頃は慣れない場所のせいか少し警戒……というか強張ってたもの。今じゃそれも解けて、良い顔になったわ」
「それはきっと、皆さんのお陰です。あとカズヤさんも」
そう言ってお義母様は私の頭を撫でる。
カズヤさん以外に撫でられるなんていつぶりだろう。
初めてなのにどこか懐かしい気がする。
「そうでした」
「どうかしたの?」
「私のことはどうかセレスと、家族は皆そう呼びますから」
「……いいの?」
「もちろん」
お義母様との距離が少し縮まった、そんなひと時だった。
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