5話 学校
寝室に光が差し込んで目が覚める。どうやら朝らしい。
昨日10年ぶりに帰宅したというのに、目覚めて見る景色は10年変わらず。昨日帰ったことが夢だったのかと錯覚するほどだ。
セレスとアリシアを起こさないように家を出てみる。玄関を開けた先に広がる空間は地球にある俺の部屋。いつもの癖で靴を履いて玄関を出たものだから、土足で自室に立っており、とても不思議な感覚だ。
当たり前だが靴を脱ぎ、リビングへ。すると朝ごはんの仕込みをしている母さんがキッチンに立っていた。
「あら、早いのね」
「おはよう、母さん。母さんこそこんなに早く起きてたっけ?」
「いつもとそこまで変わらないけど、ちょっと人数が多いから念の為ね」
「なんだかごめん」
「気にすることないわ」
そんな会話もそこそこに沈黙が訪れる。
「ちょっと変な気分だわ〜和也がちょっと大人に見えるわ」
「見た目は変わってないけどね」
「空気感よ」
「料理、手伝うよ」
「あなたできるの?」
「現代家電にはなれてないけど、一応できるよ」
「それじゃあ頼もうかしら!最新のところは私がやるわ」
「うん」
そうは言いつつも俺が料理できることに懐疑的だった母さんは、俺の手つきでやっと納得してくれた。
必要に迫られて始めた料理だが、ある程度できると楽しいものだ。しかしそれも”たまにやる分には”と付く。
後片付けのこととかを考えると億劫になるのだ。
こんなことを毎日毎食してくれるセレスと母さんには本当に頭が上がらない。
「おはよう。あれ、和也じゃないか。お前がこんなに早く起きるなんて珍しい」
「向こうじゃもう大人だよ?早起きくらいできるって」
「おはようございます。カズヤさんが早起きなんて珍しいですね」
「....そうだよ、別に早起き得意じゃないよ」
「あら、それではもう私が起こして差し上げなくて良いんですね?」
「....困ります!起こしてください!」
「あらあら、10年経ってもそこは変わらないのね」
「お父様はいつもお寝坊さん」
「....勘弁してくれ」
本当に面目丸潰れである。
「すみません義母様、お手伝いしないといけないのに」
「いいのいいの。まずはこの世界に慣れてもらわないと!慣れてから一緒にお料理しましょ!楽しみにしているわ〜」
「ありがとうございます!」
いつもよりもにぎやかに食卓を囲んでいると、父さんが聞いてきた。
「そういえば学校はどうするんだ?」
「そこなんだよなぁ」
「何か問題があるのか?」
「セレスと一緒に行けるからいいんだけど.....」
「セレスさんも一緒に通うのか!?」
「はい!私もカズヤさんと一緒の学舎に通わさせていただきます!」
セレスはそう言ってうちの高校の女子学生服に魔術で着替えて見せる。
「アリシアは明日からだな」
「はい、お父様」
「アリシアは今日は留守番になってしまうけど....ごめんな?」
「大丈夫です。この世界のルールブックを熟読しておきます」
「ありがとうな」
そう言って俺はアリシアの頭を撫でる。
「あなた?楽しそうなところ悪いけど、そろそろ出勤の時間ではなくて?」
目を白黒させている父に優しく時間を指摘する。
「あ、ああ。そろそろ行かないと」
「ん?じゃあ俺たちも行かないとじゃん!」
実はうちの学校は始業が早い。その代わり昼休憩が長いのが特徴的な校風なのだ。
「今から学舎に向かうのですか?」
「そうだよ。昨日用意した荷物を取ってきたら?」
「わかりました。それでは義父様いってらっしゃいませ」
「えっと、うん。いってきます」
また呑み込めていない様子の父だが、時間が時間なので支度をもって会社へむかった。
程なくして、セレスが学生鞄を持って降りて来た。その姿は少し異質に見えなくもないが、とても絵になる。流石セレスだ。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
そろって玄関まで向かうと、母さんとアリシアが見送りの為について来てくれた。
「「いってきます」」
「ええ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃいませ。お父様、お母様」
◇
まだ懐かしい登校路を辿りながらセレスと話す。
「思い出せそうですか?ご学友の名前」
「う〜ん、結構仲良かった奴の名前の雰囲気は思い出せた?」
「疑問系で雰囲気までなら、ちょっと心配ですね」
「あ、会えば思い出すから!」
「そうであれば良いですね」
暫く歩くと10年ぶりの在籍校が見えた。
当然ながら、セレスは転校生になるから一旦職員室へ。この辺りの手続きやらの面倒ごとも全てイーディス様がやってくれた。本当にここまでしてくれることに頭が上がらない。
教室へは教師が送ってくれるだろうし、学校内の案内は追い追いすれば良いだろう。
「よっす和也!」
「お前は....中島遼か、おはよ」
「なんだよフルネームで、いつも通り遼って呼べよ。てか聞いたか?めっちゃ可愛い転校生がうちのクラスに来るらしいぞ」
「なんだよその話。どこで聞いたんだよ」
「隣のクラスの田口が見慣れない女の子が職員室に入るのを見たって」
「目敏いな、ほんとに」
「だな」
久方ぶりの学生らしい雑談をしていると、担任教師が教室に入ってきた。
「お前ら~席につけ。突然だが、転校生を紹介する」
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