第4話 なんか息子が嫁と娘を連れて帰宅してきた
3人が2階に登る音を聞きながら俺はさらにソファへと体重を預ける。
「なんだか、すごいことになったわねぇ」
「すごいなんてものじゃないがな....」
羽鳥裕人、46歳。
職業サラリーマンのいたって普通の成人男性。
だが、たった今我が家は普通ではなくなってしまった。
だって、息子が異世界に行って嫁と娘を連れて帰宅したのだから。
正直今でも何がどうなっているかわからない。普通に学校へと登校したはずなのにドラマや映画で見るような格好で帰ってきたり、魔法を見せられたり。極め付けにはセレスさんたちの耳だ。
「本当....なんだろうな」
ただのファンタジーで終われないのが悲しい大人の性、現実的な問題がこれでもかと出てくる。
住民票はどうする?保険は?学校は?
お金と家に関してはあの札束を見れば問題ないとわかるが、それでも不安要素がいくらでも出てくる。
......とりあえず色々話を聞いてみないとな。
そんなことを思っていると、2階からセレスさんだけが降りてきた。
「どうかしたのかい?」
「お二人にはまだ、説明しないといけないこともありますし、聞きたいこともあるかと思いまして」
そう言ってセレスさんはまた俺の正眼の位置に座った。
「じゃあ、勇者ってのはなんなのかな?」
「そうですね....原点を辿れば、イースガルドの人類に伝わる神話に登場する、外敵から人類を守護するために異界より現れた光の戦士です。現代では魔王大戦時に人類連合軍の光として最前線を駆け抜けた戦士の名前ですね」
宗教画を思わせる絵を空中に投影しながら説明する彼女。この現象にも内心慣れつつある自分に驚きだ。
「我々の世界は、北側が魔物達が跋扈する地域”魔界”、南側が人族を含めた人類が生活する地域”人界”に分類されます。魔物達は人体を凌駕する筋力や、特異な力で人類を脅かしている。と言っても、行動に人間的な知性は感じれず、原理は動物のそれと似通っていました」
一拍を置いて彼女は続けた。
「けれど300年程前、魔物達に変化が起こりました。明らかに戦略性を帯びた行動を始め、一定域を超えた魔物達は更に強力な力をふるい始めたのです。そんな怪現象が相次いだとき、世界に恐ろしい声が響きました。それが『魔王による人類殲滅宣言』でした」
セレスさんの話を俺たち二人は黙って聞き続ける。
「それから現在に至るまで、人類各国はそれまでのいざこざを捨て、一丸となって戦い続けました。けれど魔王軍の攻勢は衰えず。ジリジリと人類を南へ追いやって行きました。そんな時でした。”大賢者”と呼ばれた魔法使いが勇者伝説の儀式が本当に召喚術として機能することに気がついたのです」
「その召喚術とやらで呼び出されたのが和也だったと」
「その通りです。イースガルドの創造神”イーディス”様の加護を受けた勇者カズヤ様は召喚国であるアルバシア帝国で編成された特務親衛隊を率いて僅か2年という短い間に魔王軍主力と魔王を討伐。今に至ります」
「なんか、和也が登場してから端折ったわね?」
「カズヤ様のお話になれば長くなってしまいますよ?」
「あら、ならまた今度聞かせてね」
「はい、もちろん」
セレスさんはその後も俺たちの質問や雑談に和也から呼ばれるまで付き合ってくれた。
まだまだ、信じられないことばかりだが、今日の夕飯が賑やかになることだけは確からしい。
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