閑話 夜のひと時
ガエリオとレイラを見送った後、俺とセレスは屋敷に戻った。
アリシアがいないのは、きっと気を遣ってくれたのだろう。
「カズヤさん……」
「大丈夫だ……うん、大丈夫」
先ほどの隙間なく埋まったマントを思い返し、込み上がるものをなんとか飲み込む。
「カズヤさん」
先ほどとは違う声音で呼びかけてくるセレスの方を向くと視界が暗くなる。
それと同時に嗅ぎ慣れたセレスの香りが鼻腔を擽る。
「少しだけ借りても良いですか?」
「俺もちょうど借りたかったから、もちろん」
セレスは頭に、俺はセレスの背中に腕を回す。
どちらともなく重心を移動させベットに寝転ぶ。
「また書類を書かなきゃね」
書類というのは殉職者名簿のこと。隊員に犠牲が出た時には必ず書いて国に届け出していたものだ。
「もう提出する先はないんですよ?」
「先に逝った奴だけ書くのは贔屓になってしまうし、それに……最後だから」
「そうですね」
「手伝ってくれるかい?」
「はい、お供します」
立ち上がり私室を出て執務室へ向かう。
最初は驚いた重厚感を持ったこの部屋も慣れたものだ。
鍵のかかった書類棚から殉職者名簿を取り出す。
インク瓶にペンを刺し、名簿の記入欄を確かめてから異世界文字を書き始める。
”ガエリオ・ユーフェ”
”レイラ・ハドソン”
保存用と提出用とで二枚認めていく。
ケインを除いた隊員たちの名前を丁寧に書き留める。
200人程度の小さな隊だ、名前と顔も一致するし、何が趣味でどんな話をしたかも鮮明に思い浮かぶ。
十分な時間をかけて名前を書き終える。
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
書き留めた書類を所定のファイルにしっかりと収め、提出用の書類も、しっかりと規定通りに包む。
郵便用の棚にそれを置いた後、また私室に戻る。
なんとなしに二人でベットへ横になり、寄り添い合う。
「私はどこにも行きませんよ」
「俺もどこにも行かないよ」
「嘘です。カズヤさんは休日にもお仕事が入っていつもどこかに行ってしまう」
「もうそんな面倒な仕事は無くなったから、しばらくはどこにも行かないよ」
「しばらく?」
「どこにも行きません」
「どこかにいくときはみんなで一緒にいきましょう」
「アリシアを連れて?」
「唯さんやお義父様やお義母様も一緒に」
「そうだね、温泉でも行ってみようか」
とり留めもない話に花を咲かせ時が流れる。
その頃合いがなんとも心地よく身を任せてしまいそうになるが、アリシアを置いてきているので迎えに行かなくては。
「セレス、アリシアを迎えに行ってくるよ」
「でしたら私も一緒に……」
そう言って身支度をし始めるセレスを差し止める。
「俺から話さないといけないこともあるから」
「……わかりました。私を置いていってしまうのですね」
「ごめんって」
「でしたら――」
そう言って形の良い唇を突き出すセレス。
その可愛さに思わず笑いながらもそれを受け入れ影を重ねる。
「いってくるよ」
「おかえりをお待ちしてます」
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