3話 挨拶
「改めて、紹介しても良いかな?」
頷く両親を確認してセレスとアリシアに目配せする。
「それでは改めまして、お義母様、お義父様。カズヤ・ハトリが妻のユグドミア皇国第四皇女、セレスティア・ヴィ・ユグドラシアと申します」
「初めまして、お祖父様、お祖母様。カズヤ・ハトリが長女、アリシア・ハトリ・ユグドラシアです」
優美に礼をするセレスとアリシアにぎこちなく礼を返す両親。
「えっと、和也の母の千尋です。つ、妻っていうのは?」
「――和也の父の裕人です。和也、娘って?」
両親の疑問はもっともなので、一つづつ答えて行く。
「お二人の疑問は最もなのですが、その前に事のあらましをご説明しますね」
そう一拍を置いたセレスは魔術で地図を出して見せる。
「カズヤ様が召喚されたのはお二人の世界とは理が異なる世界、イースカルドという世界でした。我々の世界であるイースガルドは大きな問題を抱えていました。それを解決するためにカズヤ様を召喚したのです」
この世界とイースガルド、双方に赤い点が示される。俺が召喚された場所だ。
「その問題っていうのは――魔王」
「多くの国・人々を犠牲にしながらも、人類が300年敵わなかった魔王。当時の人類世界半分を占領された我々は古から伝わる異界の勇者、それに縋ったのです」
民衆によく伝わっている絵と共に説明を続ける。
「その勇者が、和也ってこと?」
「はい、その通りです」
「それで、セレスティーナさん?」
「どうか、セレスとお呼びくださいお義父様」
「じゃあ、セレスさん?和也とはどういった関係で?」
そう聞かれたセレスはほんのり頬を染める。
「その、彼が勇者として遊撃部隊を指揮していた際に救われた国の一つがユグドミア皇国でして.....何度も戦場をご一緒するうちに....」
「セレスはユグドミア救国の旗印、俺の部隊で回復役を担ってくれたんだ。その後もついて来てくれて、魔王を討伐した後に俺が求婚したんだ」
俺がそういうと、両親は一層表情を賑やかにした。
「まあ!」
「それで....えっと、アリシアさんは?」
「魔王を討伐した後に俺とセレスの間に生まれた娘だよ」
「はあ!?」
「まあまあ!」
「今年で10になるな」
「はい、お父様」
そういって頭を撫でてやると、アリシアの目元が緩む。外行きの顔をしていても俺たちには丸わかりだ。
「一体、どういうことなんだ!?」
父さんの言葉には色々な感情が詰まっているのだと思う。
「元々、この世界に帰れると思ってなかったんだ」
そう言った瞬間混乱していた父さんが俺を正眼に捉えた。
「俺が召喚された時に使われた魔術は、一方通行だったんだ。しかも召喚に携わった人たちも戦場に行ったりしてて、魔王を討伐した頃には再現不可能になってた」
色々思い起こすことはあるけど、俺は一拍の後に続けた。
「だからっていうのはちょっと違うんだけど、セレスと結婚して、アリシアが生まれて。そうやって暮らしている内に、帰れるって言われたんだよね」
「カズヤ様はイースガルドに残られるおつもりでした。ですが私が進言したのです。帰れるなら帰った方が良い、私たちはどこまでもついてゆきますと」
父さんは未だ顳顬を抑えつつ、けれどどこか飲み込んだ様子で聞いてきた。
「よくわからないが、分かった。でもこれからどうするんだ?」
「どうするって言うと?」
「申し訳ないが、この二人が住む場所とかは我が家にはないぞ?」
父さんの懸念点はもっともだ。だからしっかりと対策を講じてある。
「そのあたりは大丈夫だよ」
そう言って俺は亜空間収納に仕舞っておいた束を取り出す。
「は!?おま、はぁ!?」
「勇者召喚の際に介入されたイースガルドの創造神様が、こちらのお金を地球の通貨に変えてくださったんです。勿論税金とかは全く問題ありません」
「部屋に関しても、俺たちが向こうで使ってた家をそのまま持ってきているから、空間を弄ってそこにつなげるよ」
「もうなんでもありだな.....」
父さんは今度こそソファに全身を預けた。
「まずはお部屋を用意してきたら?良く分からないけれど、何か準備が必要なのでしょう?」
母さんがそう言ってくれたので、俺とセレス、アリシアは立ち上がる。
「そうだね、やってくるよ。二人とも俺の部屋に案内するよ」
こうして俺の十数年ぶりの地球生活が始まったのである。
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