第21話 初陣
彼が――カズヤがこの世界にやってきて三ヶ月が過ぎた。
一時は懐郷病のようになった彼だったが、私が教えた武術や魔術、学問はみるみる吸収していった。
彼の地頭の良さなのか勇者の力のおかげなのかは定かではないが、その成長速度は目を見張るものがあった。
そんな時、皇城から伝令が届いた。
『彼を戦場に投入せよ』
それは、束の間の平和が崩れる声だった。
私たちは新設された部隊、特務親衛隊に配属された。
皇族直轄の指揮系統は魔王討伐後を視野に入れてだろう。
その証拠に箔を付けたい貴族席の次男三男も従軍している。
そんな勇者部隊に降ったのはローズ平原を平定せよとの命令だった。
件の土地に向かう行進中、彼は疑問をなげかけてきた。
「ローズ平原とはどのような場所なんですか?」
「いってしまえば特に何もない本当にただの平原です。それと口調を正してください?部下に示しがつかないですよ」
そう忠告すると彼は居住まいを正す。
彼に特注で作られた白銀の鎧。それを覆う真紅の羽マント。多少着られている感は否めないが、格好は物語に出てくる勇者そのものだろう。
「目標であるローズ平原までは距離がありますが、警戒を。もうここは戦場です」
「ああ、わかった」
そんな会話をしつつ進軍すると魔力の高まりを肌感で感じる。
「カズヤ!」
「わかってる!総員散会!魔術攻撃が来るぞ!」
カズヤがそう命令した十数秒後、火球や氷の塊が降り注ぐ。
訓練された兵士たちは何とか反応出来ていたが、それ以外の人たちの末路は容易に察することが出来るだろう。
「う、ああああああああぁああ!!」
「なんだ!?なんだ!?」
混乱のさなか、突如として表れた魔族たちが特務親衛隊を襲う。
平和な行進が一変、混沌な戦場に置き換わった。
早々に馬をやられた和也は地上戦を余儀なくされる。
例え訓練が出来ても実戦は別物。何合かかち合えば直ぐに肩で息をするようになった。
「退却です!すぐに退却の指示を!」
部下の一人がそう口にした。けれどそれを彼がすぐに否定した。
「いいやだめだ!相手は飛行型が多い、後ろから突かれるのがオチだ!突破してローズ平原で待つ軍と合流する!」
「しかしこの分ではローズ軍がやられている可能性も――」
「飛行型が多いのなら奇襲の可能性が高い!大丈夫だ」
正直に言って、見通しは甘い。だが、彼が危惧することは最もだった。
「我に続け!行くぞ!」
合流目指して疾走する彼の姿勢を見て、どこか英雄のそれを感じたのは私だけではないだろう。
途中生き残っていた馬にまたがり、戦場を駆ける。降ってくる魔法をいなしつつ、剣を右へ左へと振りながら。
幸い、追撃は無かった。彼が予想した通り、奇襲攻撃だったのだろう。
太陽が沈む頃になんとか目標であったローズ平原に到着して本隊と合流できた。
◇
夜、カズヤが使う天幕に様子を伺いに行って見ると、彼は一枚の紙を注視していた。
「どうかしたの?ケイン」
「驚きました、気配は消していたはずですが」
「戦場にいるから何のかな?いつもより敏感に感じ取れるよ。それでどうかしたの?」
「初陣でしたので、様子を見に来た次第です」
そう聞くと彼は力なく笑い、先ほどまで眺めていた紙を見せて来た。
「死亡者名簿ですか……」
「うん、負傷者も合わせるともっと沢山になるんじゃないかな」
書かれた名前たちを指でなでつつカズヤは吐露した。
「分かってる。戦争だもの、人は死ぬ。……でも、でもさ!俺の命令でこんなっ……!」
依然カズヤから聞いたことがある。
カズヤの世界では争いは殆どなかったらしい。
カズヤの国が戦争をしたのは80年以上前、カズヤたちの年代では戦争じたい縁遠いものだと。
我々からすればなんてすばらしい世界なのだろうという感想を抱くが、そんな世界からイースガルドにきたカズヤはどれだけ残酷な運命にあるのだろう。
慰めることも出来ず、私はただ、肩を震わせる彼の隣にいることしかできなかった。
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