第20話 喚ばれるのは突然に
その日は、薄く雲が見えつつも晴れた天気模様だった。普段と変わらぬ学校生活を送った俺は、帰宅の途につく。
特段人通りの多い道ではない帰り道は、俺と同じ学生服を着た人がちらほら。それもいつもの光景なので、特筆して感想を抱くこともない。
しばらく歩いて、数少ない信号で止まる。これもいつものことだった。しかし、次の瞬間だった。
「よくぞ来てくれた!勇者よ!我々は貴殿を歓迎しよう」
「は?」
少し閑散とした住宅街が一変。絢爛豪華な内装に、豪奢な服を来た人たちがずらり。そんな空間に俺は立っていた。
「我々の世界は今、忌々しい魔王の手によって危機に陥っている。本来であれば我々の手だけで解決したいのだが、魔王の脅威は凄まじく。なので伝承に習い、異世界から貴殿を召喚したのだ」
一番高い位置で豪奢な椅子に座っている人がなにやら言っている。けれどそんなことは頭に入ってこない。
首都の駅ほどに高い丸天井。美術館や映画のセットが安っぽく見えるほどに煌びやかな調度品の数々。形容しがたいリアル感が、この視界を埋め尽くす情景が現実だと教えてくれる。
「大丈夫か?勇者どの?」
「えっと、はい?」
そこから中央に座す人――アルバシア帝国の皇帝が説明を始めた。
この世界は今、魔王率いる魔王軍と人類が戦っていること。
現状人類はかなり劣勢であること。
その状況を覆すために異世界からの勇者召喚を試みたことを教えられた。
「さあ勇者どの、貴殿の能力を教えてくれ!」
「どうやってその能力ってのはわかるんですか?」
「ああ、ステータスオープンと唱えれば貴殿の能力が女神の祝福のもと露わになるぞ」
――――――
名前:羽鳥和也
ジョブ:異世界人
HP :205
魔力:50
スキル:勇者 大魔導
祝福:イーディスの祝福
――――――
「おお!これは!」
「素晴らしい、これで我らは助かるぞ!」
貴族らしい人たちは喜びの声をあげる。けれど俺はどう反応していいか分からず、鈍く応対する。
「おお、すまぬ。我らだけど盛り上がってもしょうがない。貴殿が持つスキルはな――」
どうにも勇者というのは、様々な武器種への適正を持つ者、只人以上の成長力を持つ者らしい。
片手剣から棍棒まで、使えば使うほど練度は驚くべき成長速度で習熟していくとのこと。
大魔導、これも数多ある魔術への適正を持つ者の証だそうだ。
こちらも魔導書を読み、魔術を行使すれば常人以上の速度で習熟できるスキルらしい。
創造神の祝福というのは、自然的な減少以外、常に再生し続けるものらしい。
「今一度言おう、勇者殿、我々の世界を救ってはくれないか?」
この時俺は一体なんと返事を返したのだろうか。
異世界の戦場で生き抜くために苛烈な訓練を行っていたせいか、記憶が定かではない。
◇
この時、私は哀れに思った。大人の、しかも別の世界の事情で戦争に、政争に巻き込まれる成人前であろう青年を。
彼は言われるがままにステータスを公開した。そして私はまた哀れに思った。
――なんて戦闘に向いたステータスなんだ。
武器を巧みに操ることができるようになるスキル。
多くの魔術が操れるスキル。
倒れることを許さない祝福。
これほどまでに絵に描いたような勇者が存在するのかと。
せめてもの慰めにと、教育係を名乗り出た。
400年生きた知見と、どの派閥にも属さない私は自分で言うのもなんだが、彼の教育係には打ってつけだろう。
「初めまして、勇者殿。私はケイン、ケイン・アルベルト。あなたの教育係になりました。よろしくお願いしますね」
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