第2話 異世界の証明と魔術
驚きの絶叫が落ち着いた後、噛み砕きつつ両親に一通りの説明をしてはみたが、終始生返事のような状態が続いた。
「本当にざっくりまとめると、下校中に異世界へ召喚されて、その国で10年くらい勇者やってきたんだ」
母さんの方が先に呑み込めてきたのか、自分なりの解釈で確認してくる。
「それって、唯がやってるゲームみたいに?」
「大体そんな感じだよ」
唯とは俺の三つ下の妹、羽鳥唯のことだ。確かこの時は部活の合宿に行っているんだったかな?
「剣と盾を持って?」
「うん」
「魔法撃ったり?」
「そうそう」
「竜神斬りとか?」
「そんな感じ」
「ふぅん.....なるほどねぇ~」
ある程度答えると、何を納得したのかは分からないが、母さんは少し腑に落ちたような声を漏らした。
「なあ、俺にはよくわからないんだが?」
母さんとは対照的にコメカミに指を置いて首を傾げる。
まあ、二人からしたら今朝普通に登校して帰ってきた息子が女の子二人を引き連れて「ちょっと異世界行ってきた!そんでもってこの子嫁と娘ね!」なんて言い出したら普通にイミフで頭痛案件だろう。
「実際に見せたほうが早いよね。二人ともちょっと見てて」
二人の視線を人差し指に集め、俺は呪文を唱える。
「――【トーチ】」
何もなかった指先に淡い光が灯る。たったそれだけの効果を持つ初歩的な魔術だが、危険なく魔術を見せるには手っ取り早いだろう。
「ね?」
「マジックとかじゃないん....だよな?」
「タネも仕掛けもございません」
そう言って俺は【トーチ】を解除して手を振って見せる。もちろん落ちてくるものなど何もない。
「ね?」
「いや.....ねって言われても.....」
どうリアクションを取ればいいか分からないのか、父さんは首を若干傾げる。
「もっと色々見せた方がいい?」
「他にもあるの?見たいわ〜」
いつもよりもテンションが高い母さんが父さんを追い越して前のめりになる。
「と言ってもなぁ....セレス、何かいい魔術ない?」
「そうですね....これなんていかがでしょう?」
胸の前で小さく手を広げたセレス。すると、空だった彼女の手に何処からともなく綺麗な装幀がなされた本が現れ、ふわりと浮かんだ。
その綺麗な口から呪文が奏でられる。
「――【アクアリウム】」
彼女が幾つかの呪文を唱えた後、浮かぶ本が淡く光る。一人でにページがパラパラと捲られた後、本に灯る灯りが水景色のそれへと変わった。
「....すごい」
なんとか理解しようと頭を捻らせていた父さんが思わず感嘆の息を漏らす。
無理もない反応だ。セレスが使った魔術は、大海原を海遊する海洋生物等を水で模したもの。空中をまるで海の中にいるように、海洋生物たちが泳いで回る。彼らが放つ暖かさを持った光が、優しく部屋に賑わせてくれる。
5分ほど経った頃だろうか?だんだんと魚たちの姿が薄くなっていく。魔術の効果が切れたのだろう。
やがて魚たちは姿を消したが、両親は名残惜しそうに彼らが泳いだ空を眺めていた。
「すごいだろ?セレスの魔術は」
「....本当に、すごいわ!魔法みたい!」
「魔法だなんて....そこまで大それた魔術ではありませんよ?でも、ありがとうございます」
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