第19話 かの世界から
ふと思うことがある。あの世界、イースガルドで出会った人たちはどうしているのか。
もとより余所者だし、もう離れた世界なのでどうもないのだろうが、そんなことを考える。
「カズヤさん……」
「大丈夫だ、ただ気になっただけだよ」
俺たちの家の窓から見える景色にどこかイースガルドの雰囲気を感じたのだろう。
多く見える星に、三つの月。
……三つの月?
おかしい。この世界の月は一つのはずだ。
「この屋敷の空は今いる世界のまま写っているのですよね?」
「ああそのはずだ」
「だったらどうして」
「分からん、とりあえず警戒を――」
緊迫が走る静かな空間にガシャンと重厚感ある金属音が聞こえてきた。家の方からだ。
「セレス!」
「はい!」
空間魔術で武器を手にした俺たちは屋敷を飛び出し家へと急ぐ。
「お兄!今の音は何?」
「分からない!だがお前たちは絶対に家から出るな!」
「わかった、音は庭の方から聞こえたよ」
「ありがとう」
リビングの窓を開けて庭に出る。周囲を警戒していると人影が3つ見えた。
「お前……どうしてここに」
「……お久しぶりです、隊長」
庭に立っていたのは、銀を彷彿とさせる輝きを放つ全身甲冑にマント、腰に下げた2本のロングソード。特徴的な馬の下半身。俺がイースガルドで率いた隊、特務親衛隊副隊長 ケインだった。
「ケイン副隊長」
「セレスティーナ様も、お元気そうで何よりです」
後から追ってきたセレスにケインは膝を着き騎士の礼をする。
「楽になさい。此度は如何様な理由を持って異なる世界であるここに足を踏み入れたのです?」
「はっ、詳しくは報告に来る彼らから聞いていただきたいのですが、私は彼らの水先案内人になった次第であります」
「つまりイースガルドから伝令をこちらに呼ぶ召喚術をあなたが行使したのですね」
「ご賢察の通りにございます」
凛とした態度でケインの相手をするセレス。それを見守りつつ俺は考えを巡らせる。
賢者と称されるほど優れた魔術師であるケインが異世界間を行き来できる魔術を行使できることに特段違和感はない。
しかし、わざわざケインまでもこちらの世界に来る必要があったのだろうか。
「なぜケインもこちらにきている?別に術の行使だけならお前まで来る必要はないだろう」
「私もこちらの世界にやってきたのは、術者がいなければ一方通行になることが理由でございます」
「つまり、俺が召喚された時と同じ術式ってことか?」
「概ねその通りです。明日に彼らはやってくるでしょう」
「明日?一緒じゃないのか?」
「はい、術式の起動に手間取りまして、私の方が早く到着したのかと」
妙な腹の探り合い状態で会話を続ける俺たち。そんな空気を突き破る声が聞こえた。
「ケインおじ様ー!」
「アリシア様!お久しぶりでございます」
「おじ様はどうしてこちらにいるのですか?」
「隊長に伝言を伝えにきたのですよ」
妙な肩透かしを食らった俺はリビングで固まっている両親と妹に向かう。
さて、どうやって説明したものか……
◇
「つまり、お兄が勇者として率いた部隊の副隊長がこの世界にやってきたってこと?」
「そう言うことだ」
七人ともなると家のリビングでは収まらないので屋敷に皆を呼んだ。
何気に両親をしっかりと招いたのは初めてだったようで、二人は視線をあちこちに泳がせている。
「改めまして、私はアルバシア帝国元特務親衛隊副隊長ケイン・アルベルトと申します」
席に座りながらも凛々しく礼をするケインに三人はぎこちなく挨拶を返す。
「それで、ケインさんは伝令の人を転移させるためにこちらの世界にやってきたってことですか?」
「その通りでございます」
今一要領を得ない返事を返す三人を見て、ケインの視線が俺を穿つ。
「まさか隊長、イースガルドで何をなさったか、何もお話になっていませんね?」
「あ、あまり言いふらす内容でもないからな」
「セレスティーナ様、隊長はどこまでお話になられているのですか?」
「異世界に召喚されて2年で魔王を倒し、私と結婚してアリシアが生まれ、その後こちらの世界に帰ってきたとしか説明していないですね……」
「端折りすぎです」
ピシャリというケインにここぞとばかりに唯が抗議する。
「ですよね!それ以外お兄たち、教えてくれないんです!」
「戦争の話ですので、話しづらいのはよく分かりますが、全くお話ししないのもまた問題では?」
「前にお父様に聞いたとき、まだ準備が整っていないっておしゃっていましたが、今がちょうど良い機会なのではないですか?」
そう言われると痛いところ。三人の方を向くと興味津々といった面立ちでこちらを見ている。
「わかった、わかったよ。それじゃあ話そうか」
「……カズヤさん」
「手伝ってくれる?」
「……はい」
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