第18話 屋敷
私の兄は勇者だったらしい。
合宿から帰ってきた日にそんな突拍子もないことを教えられた。
しかも、美人なお嫁さんと娘を連れて。
正直何を言っているか分からないかった。
けれど、彼女たちの特徴的な耳や海外でもみないような綺麗な銀髪、それに見せてもらった魔術。
それを目の前にしたら嫌でもそれが真実だと認識させられた。
何もない空間から水玉や氷の塊を出すなんて芸当、魔法以外にありえない。
さらに一緒に暮らすと言い出す兄。流石に急すぎないかと、部屋数が足らないんじゃないかと思ったが、空間魔術でお兄の部屋と異世界で使っていた屋敷を繋げるとのこと。よく分からないが解決したらしい。
今日は日曜日なので学校が休み、だからなんとなく気になっていた屋敷というのを見させてもらった。
感想としては凄いに尽きる。
部屋の広さに数、内装に至るまで、まるで映画のセットの中に迷い込んだかと思ったぐらいだ。
まずはキッチンから、かまどを想像していたが存外現代チックな作りだった。CMに出てきそうな見事なアイランドキッチン。ここにある調理器具のほとんどが魔道具、魔力を使って操作する物らしい。
試しに火力調整ノブを捻らせてもらうが何も起こらない。セレスさんがいうには指に魔力を通しながら触る必要があるとのこと。うん、分からんない。
続いて見せてもらったのは食堂。
高い天井にシャンデリア、何人がけかも分からない長机。
我が兄ながら一体どういう生活を送っていたのか。屋敷の人たちで囲むのかと思ったらどうやら違うらしく、ここで食事を取るのはお兄、セレスさん、アリシアちゃんとゲスト。なんでこんなにテーブルが大きいのだろう。
豪華だけれども嫌味のない絢爛さを醸す廊下を抜けると壁中に本が並べられた部屋にたどり着いた。図書室だ。
ぱっと見でわかる蔵書の多さ。下手な学校よりもあるのではなかろうかという量の本が綺麗に陳列されている。
自由に見ていいと言われたので、近くにあった本棚から一冊抜き出す。
現代の本のそれとは違い、職人技だと素人目でもわかるほど綺麗な装丁がなされた本。開いてみると、見たことのない文字が羅列されていた。私が知っているどの言語にも似つかないので本当に異世界語なのだろう。
窓の外を見れば見事に造園された中庭。背の高い木から草花まで、見事なバランスで構成された中庭には四阿が備わっている。セレスさんがいうに、あそこで別の国の王妃様や王女様とお茶会をしたらしい。
「お兄、一体何者なんですか?」
「人類を魔族から守り抜いた英雄ですね」
「そう言われてもピンとこないんですけど……」
「……ふふ、そうかもしれませんね」
実のところ、お兄は異世界のことは殆ど教えてくれない。
どこそこで食べた料理は美味しかったみたいな話を聞いても、どこでどんな戦いをしたのか、勇者として何をしたのか。全く教えてくれないのだ。
セレスさんに聞いてもお兄が言わないのなら私から言えることはありません。としか答えてくれない。
「多くのことがありました。なので、どれから伝えようか迷っているんですよ」
「そうなのかなぁ」
少し痼りに感じるも聞き出せない物ならしょうがない。切り替えて次の場所へ向かう。
次に向かったのはお風呂。こちらも一般家庭とは雲泥の差だ。まるで銭湯のような広さの湯船、4、5人は座れるであろう洗い場。どことなく良い香りがする空間だ。
「すごーい!家にこんな大きなお風呂があるなんて」
「今度一緒に入りましょうね」
「はい!」
お風呂場から繋がる扉を潜ると人の形をもした木偶人形が二、三体並んでいる空間に出た。
「ここは訓練場です。魔術や剣術の稽古のために使っています」
そういったセレスさんは氷の玉を木偶人形に向かって放つ。
魔術が当たった木偶人形は後ろに倒れ、しばらくしたら起き上がった。
アミューズメントパークのストラックアウトみたいな方式だ。
「用意したはいいんですけど、壊れやすいので人形はあまり使ってないんです」
そう言って彼女は笑う。
つられて私も笑う、そんな時、ふときになったことがある。
「お兄の魔法って見たことないな」
「カズヤさんの魔術は攻撃に重きを置いていますからね、室内でお見せするにはちょっと……」
「お兄って、そんなに凄いの?」
「ええ、人類最強を決めるならそれはきっと彼でしょうね」
そんな話をしていると声が聞こえた。
「ご飯できたぞー」
「いきましょうか」
「はい!」
まだ太陽が主役な空に月が3つ。今日もまだ平和だ。
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