第96話 俺の息子が勇者だった話
今日は俺の息子、和也の学校で文化祭があった。
どうやら和也の異世界での冒険を劇にしたらしい。それに観客として招待された。息子が学校行事に来てくれと言ってれることが嬉しい。この年頃の子供は反抗期で学校行事には来てほしくないと聞く。素直に嬉しい。
いや、和也は異世界で10年過ごしたから反抗期は終えているのか。
見た目は全く変わらないのに中身だけ10年歳を取っているなんて変な話だが、何もないところに火を起こせる魔法が存在するのだから、そんなことがあっても不思議ではない。
実際、和也の所作や言動周りから17歳らしからぬ行動はひしひしと感じている。つまりはそういうことなのだろう。
学校に着くと、生徒や保護者たちで賑わっていた。
久々の学校にどことない懐かしさを感じながら文化祭を楽しむ。
出し物や屋台などが学生クオリティなのはご愛嬌でまた面白い。
そんな感じで文化祭を楽しんでいると、そろそろ和也たちの劇の開演時間だ。
体育館に行き、並べられたパイプ椅子に座る。
幸い、舞台の中央が眼前に広がる席が空いており、そこに陣取る。
ブザーベルが鳴る。開演だ。
序盤は以前セレスティーナさんが話てくれた通り。
和也が異世界に召喚されて、訓練を受け、出陣する。
聞いただけの話と劇を持って説明されるのではやはり違い、苛烈だった。
これも劇ように調整されたもので、実際はもっとなのだと考えると背筋がゾッとする。
和也の演技……というより本人の回想劇は堂に入っており、俺たち観客を引き込んだ。
終盤に差し掛かると、和也は何というか、風格が違った。
武将というか騎士のそれというか、現代人にはない目をしていた。
これを形容する語彙が俺の中にはない。
メタ的に言えば、衣装を今後使わないのか、演出がどんどん派手になっていく。
具体的に言えば、部分欠損や血糊など。
実際の演劇では使われないのだろうが、まあそこは置いておこう。
和也はどれだけ斬られ、貫かれようとも敵を打ち砕かんが為に前に進む。
主人公のために勝ち筋を用意しやられるような映画やゲームの世界とは違う。敵は本気で殺しにくる。
それを和也は斬り捨てて進んでいく。
もちろん和也も無傷ではない。敵と相対する度に傷は増える。
今回は血糊だけの表現だが、実際は臓物飛び散る戦場であると考えると肝が冷える。
それを和也は潜り抜けて来たのか……何とも言えない感情が湧き立つ。
魔王討伐。俺たちからは全く想像のつかない所業だ。
でも、それが容易い物でなかったということだけは分かる。
何せ、どうやったかは知らないが劇になった部分だけでも腕がなくなったのだ。
あの瞬間息をするのを忘れたほどだ。
そんな中和也は魔王を倒す。
満身創痍という言葉が似合うほどに和也は消耗していた。
どれほど過酷だったのだろう。
俺たちには想像することしかできない。
そうして迎えたカーテンコール。
俺たちは少し遅れて拍手を送る。
聞いてはいた。聞いてはいたが、所詮はそこからの想像。彼らが語る劇には劣る物だった。
聞かなければ。
俺たちはそう思い立つ。
和也、お前は一体どんな異世界生活を送っていたんだ?
◇
場所を変えて話されたのは劇では語られなかった苛烈な戦闘、そして絶望的な宣告。
それがどれほどの衝撃だったか。
それは想像するよりも、和也の目を見れば明らかだった。
「もう過去の事だから」
そう語る和也は諦めたような、そして遠い過去を見つめるような目をしていた。
そんな和也にセレスティーナさんが寄り添う。
「実際、帰ってこれたしね。もう関係ないんだ」
明るい声音でそう言う和也に俺たちは何も言えなくなり、目頭が熱くなる。
ポンと区切られた話は重くのしかかる。咀嚼するのにしばらく時間がかかりそうだ。
「俺たちあまり文化祭見れてないんだよね、何かおすすめはある?」
「だったらお兄、お化け屋敷なんてどう?なかなかのクオリティだったよ!」
楽しそうに会話をする和也たちを見て俺はなぜか息をついた。
もっと、もっと話さなければ。
和也のことを、セレスティーナさんやアリシアさんのことを理解するにはもっと話さなければ。
そう感じつつ、俺は和也の背中を見る。
一体この背中でどれだけのことを背負ってきたのか。
いつか見た息子の背中よりもとても頼もしく感じる。
最初こそ驚いたが、この背中を見れば勇者であったことも頷ける。
まだ考えは纏まり切らない。それほどまでに情報量が多かった。
けれど、息子は立派に勇者だった。それを知れただけでも良しとしよう。
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