第94話 涙
荒れた室内のベッドに二人で座る。
カズヤ様は何とか剣を鞘にしまい、隣に座ってくれた。
異様な静けさが場を支配する。二人の呼吸音までもが鮮明に聞こえるようだ。
「まさか、帰る手立てがないなんて……思っても見ませんでした」
「うん……」
「私の手の者に異世界への帰還の方法を調べるようには伝えました」
「うん……」
会話が続かない。
カズヤ様は俯いたまま相槌を返すくらいだ。
「カズヤ様、私の世界の者が申し訳ございませんでした」
私は精一杯頭を下げる。
「やめてよ……セレスのせいじゃないだろ?」
「だとしても同じ世界の人類です。……でも、私には謝る事しかできません」
頭を下げ続ける私にカズヤ様は掠れた声音で頭を上げてという。
その言葉で頭を上げてみると、穏やかでどこか諦めたような顔をしたカズヤ様がいた。
「実はさ、元から帰れないんじゃないかって気も、してたんだ」
「えっ……」
「狙って俺の世界の俺を引き寄せたんじゃなくて、たまたま俺の世界の俺が呼ばれたんじゃないかって思ったんだ。だっていくら勇者のスキルを持っていたとしても、まるっきりど素人の俺を態々選んで呼ぶなんてことしないでしょ?」
「それは……」
「だから、逆も同じで、狙ったところに送るなんてことはできないんじゃないか。もしかしたらまたこことは別の世界に押し出せられるんじゃないかって思うんだ」
カズヤ様の言葉に私は言葉を失う。
カズヤ様はそんな思いを抱えながらずっと戦ってきたのか。
そんな思いが私の中を錯綜する。
「元から何となくわかっていたんだけど、考えないようにしてた。それが事実だって突きつけられて、こんなことをして、ほんと、いい迷惑だよな」
自重気味に笑うカズヤ様を見て私は思わず抱きしめる。
見ていられなくなった。
どうにかしたいと思った。
そんな思考が生み出したのがこんな陳腐な回答だった。
「カズヤ様……いえ、カズヤさん。私は貴方に出会えてよかったと思います。私は貴方に助けられました。戦場で、魔王討伐で、心で。私を王女としてではなく、一人の人類として扱ってくれた。一人の女の子として扱ってくれた。それがどれほど嬉しかったか。だから今度は私が貴方を救いたい。助けたい。そう願ってしまうのです」
「セレス……」
しばらくの沈黙の後にポツリとカズヤさんは言葉を溢した。
「俺、頑張ったよな」
「はい……」
「よくわかんない世界に急に呼ばれて、戦えって言われて、いっぱい、いっぱいの命を斬り倒して」
「はい」
「どっちが正義かわからないのにあんなことをして、俺、頑張ったよな」
「はい。貴方は本当によく頑張りました」
そういうとカズヤさんは声を殺して肩を揺らす。
「いいんです。私の前では強くなくても。私は貴方の全てを見て、愛したいのです」
「う、うっぅ」
どうかこの涙でカズヤさんの憂が流れてくれますように。
そんなことを願いながら私は彼を撫で続けるのだった。
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