【暁煌】第七区『爛』
吏史がトロールを完膚なきまで破壊しきってから数時間が経過した。
中天に差し掛かった白陽は傾き、徐々に日差しが弱まる。
空は青から赤へ――夕暮れと変わり行く。
とある区の街は暗くなり始めた屋外の明るさに合わせて、次々と明かりを灯し始めていた。
その街と広野の境目の下にて。
ダン、と青と白が混同した毛並みを持つ巨獣の前足が地面を踏み鳴らす。
「フォン!」
白雪は一つ大きく吠えた。此処が目的地であると気付いて教えるようにも。
背に乗せた者たちの反応前に、周囲に土煙を立たせながら何度かに分けて跳ぶ。
過去の自家用車の原理で喩えるブレーキを行うような減速をも兼ねてるのだろう。着いていた足跡は地面を抉り一本線にも伸ばしながら激しく身を上下する。
乗っているものには相当な負担を強いただろうが――その動作を行うことで、速度は大きく削がれた。疾走体勢を変えても問題はないと。白雪はやや強引に座り込んだ。
そうすれば完全に、数時間以上にも及ぶ長距離移動は終わりを告げるよう停止し、ズリ…と白雪のお尻の方に土煙が上がり毛の汚れも付着した。
「……お疲れ様です。白雪」
カミュールは屈んだ姿勢を正し、上半身を起こす。言葉で口を開けて呼吸をする白雪を労りつつ、その背から飛び降りようとする。
―――が、彼女は一人で降りはしない。
その前に、とばかりに。前に座り込む形で突風を受ける壁となってくれていた吏史の肩を叩く。
「ん?」
彼を振り返らせては、エスコートを望むようにも手の甲を向ける形で差し出した。
「……」
何を意味して何を望む仕草であるか、吏史は数秒を経てから察する。
場の状況で相手の意を察するのだとアルデによる教育の賜物だろう。
吏史は差し出されたカミュールの手を慎重に掴み取り、彼女を片手で支える。そして白雪の背から整備された灰色の地面に共に降り立った。
そして目の前にある明るい街の入り口にして目的地である【暁煌】第七区『爛』を見据え、足を踏み入れた。
其処を何かしらの名称として例えるのならば、爛漫に輝く可視照明と鉄筋製の建物に満ちた『コンクリートジャングル』になるだろう。
似たり寄ったりの分裂したような灰色調の建物が多く積み連なっていた。
違いは設置された新発売の飲み物や食べ物の宣伝広告の内容だろうか。
しかし建物の山でも、森の木々に樹齢という違いが生まれるように一際目立ち目を惹く象徴的な建物はある。
それは聳え立つ山のような銀の塔だ。
見上げても先が見えない、全長数百メートルを超えるであろう鉄骨構造で建築された銀色の塔。
それが視界に映り、興味が惹かれたようにも吏史は瞬きしながらそれを凝視する。
「なあ、あの塔ってなんだ?」
ただ、どう考えたって吏史にはその塔の正式名称がわからないため、【暁煌】に住まうアストリネであるカミュールに尋ねた。
「あれは第七区の要、自家発電機が搭載された発電塔かと思います。名前は…まあ、多分そのうちわかるかと…」
どうやら多くの電力を消耗するであろう第七区においての要でもある塔らしい。
名称自体は明かされるという説明に首を傾げていれば、発電塔は外部に設置されたカメラを起動し始めていた。
半径百メートル以内の建物や地面をスクリーンにし、最新技術であろう立体映像が映り出される。
描かれるのは海面だ。
日が差し込む水面の揺らぎ、絶えなく流れ波音が立つ。周囲は灰色の建物しかないはずなのに緻密かつ精密に光の軌道と変えることで実際の海と相違ない壮観な映像美が流れていく。
そこから更に演出は起きた。特徴的な鰭を持つ生物らしき影がよぎったと思えば、水飛沫をあげてイルカが大きく水面から飛び立つ。
空に弧を描いたイルカは身をくるりと時計回りに回転しながら、街という海面に再び沈み行き影を残すことなく溶け込んでいた。
そんな潮風や海の香りすら覚えさせてきそうな映像が暫し流れていたが…海はいつまでも続くことなく、唐突に、一変する。
今度は長針と短針を何度も回り巡らせる時計盤だ。
歯車の音と共に、秒針は刻まれていく。長針は五、短針は十二の位置止まろうとしていた。
やがて、針が止まる。その時間が訪れたことを示すように。
ベルの通知音が街一帯に響き渡った後、少女のソプラノ声めいた機械音が放送された。
『第七区『爛』 アトラクターナ より 十七時 を お知らせ いたします』
どうやら、発電塔…アトラクターナは同時に時報の役割をも果たすらしい。
公然とした時の知らせを終えたアトラクターナは、時計の映像から再び切り替えた。
次に海から森に場面が変わり、雑草ごと土を踏みつけ蹄の形を残して駆ける鹿の映像が流れ始める。
恐らくはここら一帯にはない自然を映像で満たす目的もあるのかもしれない。先の海同様、森のせせらぎまで聞こえていた。
【ルド】では決して見られなかった映像技術を前にした吏史は関心したようにも呟く。
「…なる、ほど。ここが、第七区か…」
カミュールは肯定するよう頷いた。
「はい。そうです、ここが第七区『爛』。主に娯楽の開発を進められている区。合法的な賭場までもが設置される娯楽に塗れた世界唯一の歓楽街です。先の映像や放送自体は騒音被害にならないよう真夜中に起きないよう設計されてるように…特段眠らない街、というわけではありませんけどね」
「あ。そこはちゃんとしてるんだな」
「世界一の過労死が生まれがちな区でもあるので、規制も掛けられがちなのですよ」
第七区『爛』――最新の技術を用いた電子遊具機器を初めに、体験型の遊具をも楽しめるよう建物外まで伸びる空中滑走路までもが建設された、まさに遊戯を愛する者の極楽となる区と言えるだろう。
「ゲームを制作する文化を愛する者達は、基本此方に住まうとはお伺いしておりますよ。HMTに搭載可能なゲームを考案中とも聞いてました」
「過労死の話といい、凄い情熱がある人たちが住んでるんだな…でも、なんか歩いてる人が…」
瞬きしつつ左右を確認しながら吏史は不思議がる。これだけ賑やかな区だというのに、区を歩く者が滅多に居ない。
「大抵の方は引きこもって新たな娯楽を制作してるか、施設内で遊んでるのかと。外に出て散歩する人は珍しいと思います」
カミュールは涼しい顔で断定するようにも答えていた。
「この区に適応される者達にとっては三度の飯より…ゲーム、らしいので。睡眠を削ってまで没頭してる例も聞きますし…まあ、刹那的だとは思いますが創作想像意欲が高い素晴らしい方々なのでしょう。……だからこそ『エンブリオ』が此処に設置されているのだとも思います。それだけ体壊される方が多いという証明に他ならないのかと」
そう、第七区の住民達を評価した上で、カミュールは両手を合わせる。
「ま。それはそうとしておきまして。これはちょっと余談なんですが。聞いてくれますか?寧ろ強制的に話しますけども」
「はい?うん。…あ、ああ…なんだ?」
戸惑う吏史に構わず、カミュールは語り始めた。
「実はここだけのお話。僕としては、この第七区より第十七区『舞』の方が好ましいのです」
「……へえ、そうなのか。……因みに、第十七区ってどんな場所なんだ?」
「はい、其処はですね。歌や演劇を愛する劇場が主体となる街なんですよ」
第十七区の話をする際のカミュールの藍白の目は星が灯るように輝く。
心の底から第十七区を好ましく感じてるのがわかりやすく、声が弾み纏う雰囲気も喜色に染まっていた。
「定期的に開催される歌劇が素晴らしいそうで、アストリネ達の中でも文化的評価が非常に高い区でして。いつしか行ってみたいなとも思います」
「……そっか」
見たこともない場所に憧れを抱き想いを馳せる、そんなカミュールの横顔を見つめた吏史は、何気なくも告げる。
「じゃあさ、この任務が落ち着いて、『門』が直ったら。其処に行こうか?一緒に」
「…はい?」
そう、同行等を申し出されてくるとは思わなかったのだろう。カミュールは何度もパチパチと忙しなく目を瞬かせていた。
「…あ」
――ただ、吏史としては本当に悪意も何にもない反射的な提案だったとはいえ、カミュールに邪推させかねない発言ではある。
それに気付いた後、吏史は慌てふためいた。
片手を振って否定を示したり、両手を紆余曲折させるようにあっちこっちと振り回しながら下心自体は全くないことを訴えるよう早口で弁明する。
「い、や。あのさ。まあ、ほら。これは護衛みたいなものだよ。カミュールって、ほら、人目につくというか。沢山人を惹きつけそうだけど、人が苦手そうだし」
先に『口約束では裏切る』なんてことを言っていたことを思い起こすものだから、実にしまりない気遣いを晒しつつも吏史は続けた。
「だったらさ、その。オレみたいな奴が隣にいた方がアンタに関わりたがる人の人避けになるかなって…思っての提案なんだ、ですけども…」
「…………」
「ダメ…だった、でしょうか…」
か細く情けない声だ。今にも消え入りそうなほど声量も小さい。
「そうですね」
しかしながらカミュールは特に怒らない。不快を露わにするような険しい顔も浮かべることなく、吏史を見上げて目を合わせては頷いた。
「悪くない提案ですので是非、お願いします」
「……………え?いいのか?」
「いいも何も。貴方の気遣いの上じゃないですか。非常にアリだなと思いましたので、そうしていただけますと助かります」
まさか、快諾される何と想いもよらず。頬を掻きながら妙な照れ臭さを抱く吏史にカミュールは尋ねる。
「これは確認なんですが」
「うん」
「デートのお誘いとかではなく、普通にお出かけという認識でも?」
デート。それは密な男女交際交流の呼称。
その思考内にて辞書引き的意味を引き出し理解した吏史は動揺し、目を瞠目して声を上げた。
「いや、お出かけも何も全然それだ!!と、というか。どちらかというともっと違くて!こ、こちらはアンタの護衛兼ねてる、つもりでして!あとは…それだけだから!何の他意だってない!!」
「おや、そうですか。わかりました。ではでは、話はこれで終わりですね」
慌てふためき混乱すら生じてそうな吏史に対し、カミュールは冷静だ。
「後の楽しみにしておきます」
担いでいた己のバッグから、間陀邏が編み出した宝石の破片が詰まっている小袋を取り出して、じゃら。と揺らし鳴らす。
「さて。これからが踏ん張り時ですよ、吏史くん。貴方の治療費のために稼ぎませんと」
ニッとほんのり薄く悪戯めいた笑みに表情筋と口角を吊り上げたカミュールは、『爛』の賭博場に向かう。動揺自体はしていたとはいえ、判断に迷いが生じるほどではない。
「あっ、ちょっと待てって…!」
吏史も彼女の背をすぐに追いかけるように走り出していた。
三時間後。
「どうしましょう。詰みました」
途方に暮れた様子のカミュールは『爛』の連なる建物の僅かな隙間――路地裏にて、縮こまるように体育座りで座り込み項垂れている。
その目の前では彼女を隠すように吏史が佇み、隣には尻尾をパタパタと振る白雪が座り込む。白雪は飼い主的存在であるカミュールの珍しい落ち込みようを見て、首を傾げてはとても不思議がり口を開けていた。
前足で足を踏まれる中で、カミュールは呟く。
「…まさか、悉く賭博場で『未成年の利用不可』と突っぱねられるとは…予想外です。思いもよりませんでしたね…」
「まあ、仕方ないよ。実際問題、オレたちはそうなんだしさ…」
吏史は薄目になって苦笑を浮かべる。十五と十七。どちらでも未成年規定に満たない年齢だ。
利は運営側にあり、非は此方にあるが、とはいえ徹底的な門前払い。徒労の連続。心身負担と消耗自体はあるわけで。
「賭博場の利用に年齢規定があるとは考えてませんでした」
疲弊し切った溜め息をカミュールは吐き、己の膝を抱えるような姿勢で凭れる。
「これは認めざるを得ません。計画の破綻です。本当にごめんなさい。年齢詐称はHMTの関係上通用しませんし…後々の問題も兼ねてできません。詰みです」
そもそも開示義務もあるし、例え吏史のHMTが壊れていようがイプシロンを始めに監視担当者には行為がバレてしまう。余程のことがない限り、誠実を保たねばならない以上、二人は賭博という手法を望めない。
故に、どうしようもなく詰んでいた。
カミュールはハァと深いため息を吐く。儘ならない世の中を憂うよう、頬に手をあてがい首を小さく横に振る。
「…しかし、実年齢が十七だといくら僕が訴えても提示するまでは十二歳にしか見えないだの嘘をつくなだの言ってくるとは……アストリネと判明したら頭を何度も下げるのも含めて失礼な方々でしたね。そう思いません?」
「………そう、だな……………うん…」
其処については吏史は目線を泳がせて、適当な相槌で返す。露骨な反応だが、仕方ない。
何せ、何も。カミュールが十七、二歳年上であることに驚愕したのは店員だけでなく吏史もだった。
カミュールの見た目はどうしたって幼く可憐な細身の少女だ。
外見年齢を推定するなら十二歳が妥当だろう。
なので吏史の気持ちは「迷子?」と子供に話しかけるような声調で言った店員の方に同調できてしまうわけだ。
「……ん?」
そんな吏史の目の色に、鋭く勘付いたのだろう。カミュールは敢えて吏史に向けてにっこりと微笑んで問い詰める。
吏史は焦りを覚えながらも顔を横に逸らしては目線を泳がせまくるという実にわかりやすい反応で返していたが、カミュールはそんな露骨な彼を責めたりはしなかった。
「はぁ。まあ、この姿が全盛期として成長が止まってる事実上、僕が貴方に対して頭ごなしに怒ることでもないですけどね」
また、一つと重い溜め息を吐いて、前足に乗っかり自らの重さを主張する白雪の方に手を伸ばし、頬肉を痛くない程度に摘む。
嬉しそうに目を細めて口を開けるのをいいことに白雪を愛でる手を止めずに居た。
「…ともかく。年齢制限で、まとまったお金を回収できないのであれば、仕方ありません。クモガタに直接問い詰めつつエンブリオの使用許可を強請るとしましょう」
カミュールが座り込む姿勢を変えれば腰に下がった革袋が軽く揺られる。未だ宝石という中身が詰まっている故に革袋からは、ジャラと宝石同士がぶつかり合う音が立っていた。
そう、中身は詰まったまま。――未成年で不自由なのは賭博場に限らない。未成年では換金作業手続きすらまともにできない。成人済の保護者の署名という許可申請が必要だった。
カミュールには保護者は存在せず、吏史のHMTは壊れているため、三時間後冒頭発言通り、まさに詰んでいて、路頭に迷っているという状況である。
「最悪、この宝石で賄えないなら僕の髪を切るなり吏史君の耳飾りを売るなりしようかと思っていましたが…こうなったら仕方ないですよね」
「待ってくれ、髪を簡単に切ろうとしなくていいし……これは非売品だ。宝物なんだから絶対に売らないぞ?」
「おや、そうなんですか。そうですか。これは大変失礼しました」
素直に謝った上で、カミュールは白雪の頬を揉む手をパッと離す。後に頭全体を撫で回す行為に変えつつ切り替える。愛でているが反面、表情はどこかしら険しい。
横槍か啓示をするかのように、発電塔からの放送が響き、『二十時 の お知らせ を いたします』と時刻の知らせが鳴り響いていた。
「…一つ。問題があるとすれば、恐らくはこの調子ですと僕たちがクモガタとの拝見が叶うのは昼間……なんですよね。夜は基本高級クラブを初めにゲームセンターに出入りしてるらしく、先の年齢制限を考えるとまたもや出禁を強いられてしまう可能性が高い」
「まあ…そうだろうな」
これまでの流れを加味してみれば、そうなるのが道理だと言えるだろう。同意するよう吏史が頷けば、カミュールの眉に眉間の皺が寄る。表情に乏しい彼女の顔は険しい表情が顕になっていた。
「そう、なんですよね。だから明日の昼に出直しになりますし、大変申し訳ありませんがエンブリオの使用は……我慢させてしまいます」
「ああ。仕方ないからそれは全然、気にしなくて大丈夫だ」
「……それに。…このままでは…路上にて野宿になってしまいますね…」
「……………………ん?」
「ここに落ち着くまでに就寝用の宿泊宿を見ていましたが、値段が大変でした。一晩で一人三万五千、合計七万ティア。僕の手持ちでは…ギリギリ足りないのです」
「流石にそれは…」
良い状況とは到底言えないだろう。吏史はいい路上で過ごしても抵抗がないそもそも男子だから問題なくても、アストリネといえども女子であるカミュールは大問題である。
「オレ無しで泊まってもいいぞ?勝手にするし」
「いえ、正直近くに戦力がいた方がいいです。僕的に安心しますし、助かります。それに、はいわかりましたと貴方に路上生活を強いてしまうほど畜生精神も持ち合わせてないので…」
善意と不安が絡んで一人での宿泊も難しいというならば、なかなかに難しい条件だ。
悩ましげにも顎に手を当てて、この状況をなんとかできないかと解決策を考える。
思考を巡らせて重くなる頭を上の夜空に傾ければ――この第七区の象徴とも言える、銀色の発電塔。アトラクターナの端が夏空の視界に映った。
「…発電塔…アトラクターナなら、どうだろう」
そう呟いてから吏史は発電塔が差し掛かる夜空を見上げるのをやめて、カミュールにいう。手を振った動作を交えつつ、思いついたばかりの案を提示した。
「うん。発電塔に行こう。こうした路上で休むよりかは安全で清潔じゃないか?」
公共施設に近いとなると、定期的な清掃も済ませられているだろう。何より高い位置にいる方が全貌が見えるのだから、何かしらの危機、襲撃等も感知しやすい。
「ですが、大抵そういった施設は夜に閉まってしまいますよね?」
「まだ空いてる時間なら先入って隠れる。閉まってるならこっそりと潜入して……朝まで休まさせてもらおう」
「…どうやって扉を開けるんですか?」
「自動ドアくらいなら…これで、」
『ゴエディア』で十分可能域。剛力でこじ開けられると主張するように拳を握りしめて示せば、カミュールは目を丸くした後、口元を抑えた。
「……悪い提案です。……けど、悪くない提案です」
そう賛同を伝えた後、カミュールは覆い隠す手を下ろす。三日月の形に笑ませる口元を見せては、頷いた。
「路上よりは断然いいと思います。そうしましょう」
路上か発電塔ならば、悩むまでもなく圧倒的後者だ。
背に腹は変えられまい。そんな理由の下での提案を飲んでくれたのだろうが、これからすることに対しカミュールがほんの少し楽さを見出してる様子が気になって、吏史は尋ねる。
「…なんか、楽しそう?」
「おや。やはり、わかっちゃいます?……こういう秘密的行動。割と怪盗じみてていいなって…思っちゃいまして」
「…ああ、なるほど」
良くなくて悪いことだと知っていても何かしらの憧れが混じると浮かれてしまうのは人もアストリネも共通してる。それだけの話なのかもしれない、と。
吏史は少し首を傾けつつも、納得を得ながら改めて提案した。
「何も盗まないけど…潜入はできる限りやってみよう」
「はい。やってみましょう。…ですが、一つ問題がありますよね。――――白雪、どうします?」
「あ…」
問題視された白雪は二人の視線を受けたことに首を大きく傾げ、パタンと尾で地面を叩くのだ。
……………………………【暁煌】第七区『爛』
・あらゆる遊具や娯楽を開発することや長けた人々が集まる電子技能で栄えた区。
『光』を操作するアストリネの協力を経て映像表現技術を極め、『音』を操作するアストリネの協力を持って様々な分野の音楽を編み出したりと、盛んではある反面同時に限界を超えて行う作業者が多く過労死が絶えないため、それを見兼ねた六主により奇跡の最新医療具エンブリオが設置することが認定されているほど、年間の死者が多い。
区の代表としてアストリネの中でも娯楽に高い関心があり、電子遊具を自ら編み出すほど手先が器用な『二十八代目クモガタ』が住まい治めている。




