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アストリネの一族  作者: 廻羽真架
序章.
2/32

ゆめのはじまり

始まりは真冬の夜、その日は星々がよく見えた。

寒波に見舞われて気温は零点下だ。吐息は白色に染まる。

だけども空気中の不純物が少ない環境だからだろうか、結露になる期間は短く薄白はすぐに夜の帳に飲まれて消えていく。

何着も服を重ねていたが、それでも肺に冷たさを覚えさせるような気温だった。


虫も鳴かず、獣は眠り、川はせせらぎの音を立てずに凍結を経て流れを止め、静寂に澄み切らせている。


そんな夜の森を少年はひとり歩いていた。

目的は川で偶然見つけた石。向こう側まで見える透明度の高さでありながら、不思議なことに蛍火めいた青色が揺らぎ灯る水晶に冬の冷たさを閉じ込めたような石だ。

とても綺麗で相当珍しい石らしい。父に差し出せば、そう説明されて酷く喜ばれていた。

だから、少年は眠れぬ夜を歩いている。

その顔を思い出してしまえばもう一度見たくなって、――褒めてほしくて。

少年は寝巻きの上に乱雑に服を重ねては、靴を履いて森に飛び出していた。

逆境のように冷たい風が吹く。受けた体はブルリと震えを催す。しかし不安は持たず、暗中躊躇わずに進んで行く。

雪は降っていないのだから平気だろう。後に心配されるであろう霜焼けもしない筈だ。

それに、こんなに静かな夜なのだ。

大人たちが言う危険な獣たちも寝入っていて、目的地である川も家からそう遠くもないから何もないだろう。

そんな実に無謀な思考の上で、少年は危機感を抱くことなく、森の奥に進み川に辿り着く。


そうして、そこで。到着して。

雲一つ浮かばぬ満天の星空を映す凍結した薄氷の川の上に立つ【それ】と少年は出会った。


「こんばんわ。今宵は星が綺麗だね」


森と川を通った冷たい風を受けて肺に溜まる寒さごと息を吐く。そんな一挙動。己の生存維持動作より何よりも相手の声が、曇りなく明瞭に、鼓動のように聞こえて鼓膜ごと冷えた身体を震わせた。


その者の踵まで届きそうなほどに長い、束ねられた純銀の髪が冬風に靡く。

ただ、奇妙なことに純銀の内部は紺色に染まり月光を含むように煌めいて、まるで銀河が波立てて唸るようだ。

瞬きの合間に向けられた双眼の虹彩は、紺。雲を超えた空の果てには瞳孔というには奇妙な黄金の月が二つ共に浮かぶ。

だから、その者を例えるなら夜空の鏡。――まるで夜の流星が人を象り世界に降臨したような姿だと例えられることだろう。


佇むだけで一枚の絵画のようだ。しかし、かの者は生きて息してる。

吐息の淡い白がそれを示す。

だから、ずっと瞠目したままだ。瞳は揺らいでばかりだった。己とは何もかもが違う、相反する存在を角膜に刻むように瞠る。

眩い閃光が脳に焼きつかせて仕方ない。

あまり物知らぬ童心にそう思わせるだけでも、彼の存在は異相にして異常だろう。

しかしそれだけ、浮世離れ――人離れした風貌だった。それはまるで世界を隔てる境界線、象徴そのもの。住む世が異なる者だと一目で痛感させるほどの存在。


少年は己が求めた淡く灯る蛍石ではなく、遥かに凌駕する輝きを放つ夜空の流星を見つけたのだ。


思わず、その者に対し、寒風に乱れた黒髪を正せぬままで少年は問うた。


「どこから、来たの」


あなたは広い宇宙から降りてきたの星なのか、と。その者の特異性を指摘するような、常套句めいた台詞は胸中に留めて惚けた表情で紡ぐ。

そう問いかけられた【それ】は、緩やかに微笑んだまま答えた。


「此処ではない遠い場所から、来たよ」


【それ】は、三日月に細めた双眸に少年を映して外の世界があると告げる。

そして流れるように満天の星々の中でも大きく輝きを放つ、月とは異なる恒星を指差した。


「ね。あれ、見える?あれは国なんだよ。アストリネたちが棲まうと決めた一つの国で、その中心。電気に反応する鉱物の力を働かせて、沢山の電気を使って、空に漂っている」


少年は森や川、自然に囲まれた世界しか知らない。だから、謳うように提示された情報には酷く唆られた。

興味や好奇心という希望に目を輝かせ始める少年に、【それ】は銀の花が綻び咲くような笑みを浮かべている。


「詳しく知りたい?……そう。もちろん、いいよ。今宵の星は一等輝いてて気分がいい。このまま、この星空の下でお話ししよう」


己の棲まう境界に少年を誘うよう純白の手を差し出しながら、いつかの未来で起きる選択や抗い、未来に進む強固たる意思を期待するかのように。


「よかったら、君も教えて。君のその特別な――他には無い力を見せてほしい」


御伽噺の具現化たる【それ】との邂逅を経て、少年は美しい思い出を胸に輝く星になることを夢見て進む。


だから。これはきっと、よくある憧れの先の果てに進み抜く。

そんな物語と至るのだろう。

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