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【歴史】

1700年


北極圏北極海にて。

哺乳類。昆虫類。鳥類。魚類。ありとあらゆる全ての生物類に該当しない無記名の種族が顕現。

全長三十五メートル。

白銀の銀河と例えるに相応しい極彩色の体毛に、玉鋼の刃とも見間違える鋭利な翼。牡鹿を彷彿とさせる珠玉めいた角に、孔雀を連想させる豪奢な扇子のような長尾。

実に何とも形容し難い、巨大な種族の特出した能力は『操作』基……『異能』。

当時人類が築いていた科学、機械学を始めに全ての学を否定する力を持った異次元の象徴たる存在。


種の名を総じて『アストリネ※』、初めて観測した始祖に当たる個体を『エファム※』と呼称する。


※種族名は顕現してから南下の行動に出たことから、南冠座に則った説が有力候補。始祖名は不明。

命名した第一発見者のマハマタル氏曰く、「地上に降りた輝く純銀の恒星のようだった」「私の運命の邂逅と言える」といった主観的感想も遺されている。


1701年

南下を始めた『エファム』を警戒し、世界各国総出で『エファム』の討伐作戦が実行。

しかし宣戦と同時に『エファム』が行方不明となる。

死亡確認が取れなかったため調査開始されたが当時の人類の技術では『エファム』を発見することが叶わなかった。


1703年

結論から述べると『アストリネ』、始祖の『エファム』は存命していた。

人間の姿を取り、社会に馴染む形で。

それは擬態と例えるにはあまりにも完成されすぎたため、再現と言えただろう。臓器骨血管の構図まで人同然の変化であったことから疑惑を向けられることなく『エファム』は、商業大国の宮廷潜入に成功を果たす。

市民、貴族、長官、王族。『エファム』の正体は誰に悟られることなく適応して行き、知識知能を蓄えながらやがて1705年にて財務大臣まで上り詰めた。

以降、半年の内に『エファム』により王国中枢が牛耳られ、意のままに操られたという。

自領の利益を得ようと唆された貴族たちは市民への大増税を加速し、生活を脅かすほどの過度な増税に憤怒した市民たちに武器を流す売買許可など。

それらの手法で革命誘発の手引きを起こしたため、王国は暴徒と化した市民の手により社会体制を大きく崩壊させられる。

さらに『エファム』は水を操作する異能により王国の資源であった水源まで枯らしたため、兵士を始めに王国市民たちの疲弊も限界を迎えたことにより『エファム』着任から約半年の期間で王国は陥没。

ルードルフ三世により王権剥奪廃止宣言、『アストリネ』への全面降伏により占領が完了された。


1706年

王国崩壊から存在が露見した『エファム』だが、更に同胞を増やす異能を発揮する。

多数『アストリネ』と思わしい個体、数にして十数個体ほど確認された。

『エファム』以外の『アストリネ』は、何かしらの生物と形容し難い造形をしており、何かしらの一芸に長けた異能を備える形で現界している。


※但し、人に擬態する異能は皆一様に有していたらしい。彼等と人と異なるのは人としての急所を撃たれても絶命しない。根元が分からぬ無尽蔵の生命力にあるだろう。


火、風、雷や雨などの天候にまで影響を及ぼす異能を持つ『アストリネ』の一族を前にして人類の戦争兵器では到底太刀打ちできず、大規模殲滅作戦実行から一夜にて人類は大敗を刻まれた。

その最高権力者にして主権者であった軍事大国の将軍は作戦中に殉職。

主軸である指導者を失った国家は大きく乱れてしまい、再び隊列結束が成されることなく『アストリネ』の一族の侵攻を許してしまい、首都は崩落する。

軍主権は剥奪されて、占領完了の宣言が粛々と行われた。


1713年

『アストリネ』の一族は増殖傾向にあった。

彼等を食い止める術は人類にない。各国で彼等の姿を目撃されるのが当然になりつつある。

商業が盛んだった華ある王家を廃し、世界の軍事力をも退けた彼等に敵はない。

産業を発展させる帝国に対し、『アストリネ』は人類の財の巡り、流通を厳しく統制検問し掌握する形で降伏させようとした。

そのままことが深刻化する前、最後の大国である産業大国の皇帝が『アストリネ』の一族に降伏宣言を行ったことにより、大きく国の被害は生まれなかったものの世界が誇る三大国が全て占領されることとなる。


1739年

占領された三大国を中心に、『アストリネ』の一族は侵攻する。

周辺の小国の降伏や占領を次々と完遂されていたが、一二月三十一日、最後の孤島の南国が降伏宣言が行われたことにより『アストリネ』の一族により世界統一が完了された。


1740年--至1年

『アストリネ』の一族により世界憲法成立。

以降、全ての人類はこれまで文化を剥奪。共通言語は『ビルダ語』、共通通貨は『ティア』が登録普及される。※


※ティアは504年以降電子文明の改新に合わせて電子通貨化へと至る


また、一部を除いた人類は姓名を剥奪し、基本的に姓は区分を兼ねて『アストリネ』の一族にのみ与えられるものとされた。※


※個々人の名前が重なることを考慮し、世界三分化に合わせて『基本同名禁止令』が成立。

人名は(姓名を持つ者を除き)世界に三人、管轄区域には一人となる。


同時に初代『エファム』は全人類が心身を考慮した継続的適性の高い職業に勤め区分されることとなる『人心配備法』※の実行と国の分化を宣言。


※犯罪行為を目的としない純粋な個人の意思、希望があれば望む職業変更やあらゆる国への斡旋移住可能。人類個人の意思と権利を尊重する誓約が主となる法。


産業国は大地、軍事国は空、商業国は海。

それぞれに区分することで旧名を廃し、新たな国として改名させた。


更に『エファム』は差別を与えかねない資本主義を徹底して排除し共和国制を基準とした法律を編んでいき、原則的に人類には平等に富が分配されるよう財源や流通を整備する法案を承認させる。

しかし、思考する生物である人類の成長意欲を狩らぬよう評価制度を儲けることを決行。


そして。

「汝らは強者の責務として、人類を庇護せよ」

人類同様『アストリネ』の一族も各々国に配属。個々に適した環境の国に配備し、国の舵を取る首相としてではなくあらゆる手段を用いて人類個々人を管理し彼等ごと世の平穏を守護する『管理者』としてあることを命じた。


その影響で、世界は三国と大きく分かれることとなる。


暁煌ぎょうおう

樹木が比較的多い亜熱帯気候帯や火山島などが存在する土地二十の区を管理担当する。

地震噴火等の災害対応を迅速に行えるよう、火炎や鉱物を始めに有機物を操作し編み出すことに長けた一族『ローレオン』や『間陀邏まだら』を筆頭に生産性に長けたアストリネが配属された。

区に組みされた人類には生産力を求めており、新たな料理、道具など個人の創作意欲を高く評価する方針に向かう。


【ルド】

年中湿潤か冬季乾燥が強い気候の乱れといった天災が強い土地二十四区を管理担当する。

環境が荒れることが予測されるため、環境適応能力が高い『ネルカル』や『ディーケ』などを中心に、身体能力に優れ運動神経に秀でたアストリネが集った。

力無きものは自然に篩い落とされ淘汰される弱肉強食の社会が成り立つことを危惧し、弱者も強者と至れるよう一騎当千の猛者の育成に力を入れているまののあくまで個人の力量を高く評価する方針となる。


【ジャバフォスタ】

広い海域を五域に分け、水中で本領を発揮する体質や身体を持つ『グラフィス』や『アルデ』などを中心に水中適正能力が高いアストリネが配属されて集い管理することとなる。

そのアストリネたちの性格傾向として自然や同族を愛する傾向が強いことが影響してか、他者への献身行動を高く評価する傾向がある。


※以上が第一区の名。代表主区の名前にして国の名前。



また、国として正式に登録されておらず、区も存在していないが樹木に恵まれず年中極寒の地には【スワラン】、乾燥し降水に恵まれない地には【アルケイバ】と名付けられた。

二地区共に生物が生きるとしても過酷な地域となるため人類渡航禁止区域とされた上で『エファム』の一族が自領として管理下に置くことになる。


そうして上下関係が覆ることもないよう分割された世界を前にした『アストリネ』や人類に対し、『エファム』は意識共感覚操作の異能を扱い、以下の演説を行う。


「余は恒久的な平和を望む」

「余は永劫なる星の循環を望む」

「故にこの世を統治した。多くの血が流れたが、この統一は決して無駄にはしない」

「我々を恐ることはない。この世の終わりと嘆くことはない。新たな世が始まるのだ。『アストリネ』を恐れなくて良い。神ではなく、人を糧として食さない。力ある者としての義務を果たすべき存在として生まれたのだ。意思を束ね同調を招き、穏便に統べることを誓わさせてほしい」

「だが、この世全てに永遠はないだろう。時が過ぎれば傷も宣誓は虚に消えて忘れゆく。代々変われば強固なる礎も摩耗するよう、いずれ余の統治と定めた法が薄まり、欲による争いが再び招かれるだろう」

「一つではなく多数の欲望の下、秩序が乱れる。その時に苦痛を伴うだろう。家族を、友人を、師を、運命を。大切なものを失うやも知れない。我等が統治する以前の世界のように、今だけを望む忌むべき欲が渦巻き、その全てが赤い火に包まれるやもしれない」

「しかし、決してその未来に嘆くことはない。始まりがあれば終わるように。起きた争いもその下たる存在にも、必ず終幕がある」

「余が星の果ての軸に生まれ降りたあの日のように、世界が大きく変化し混乱は鎮まるだろう」

「平穏を慈しみ愛する者たちよ。愛すべき人よ。どうか、忘れないでほしい。世界は一つの意思の下で築かれるではなく、意思あるものたちで繋ぎ、築いていくものだ」

「故にあなた方が世の変化の胎動に立ったその時、己の無力を嘆く必要はない。思考を、歩みを止めることなく我々『アストリネ』を旗頭としてほしい。『アストリネ』の望みは同じ、生きることだ。困窮の苦難を乗り越えるために、共に歩み進んでほしい」

最後に、締めの発言として。

一度躊躇じみた反応か沈黙が降りていたが、以下の宣誓を初代『エファム』は告げる。


「故に、此処に。平和の意に反する裏切りを余は否認することを誓う。もし異能を振り撒き世の乱れとなれば、等しく死の粛清を受けさせると」

その演説は勝戦種族の傲慢だと多くの人類の反感を多く買ったが、同時に多くの人類の感銘を受けさせた。


実際の所、批判しなかったのは農民をはじめにした者たちだ。

アストリネの一族は戦で人類を多く葬ったが、それらは王族や士官、官僚や軍に属する者で、彼等は民間人には進んで手を出さなかった点も大きいのだろうと推測される。


ただ、初代『エファム』が一体先見の明を得て、人と『アストリネ』の相補を促す演説を世界に向けて発した真意は明白に語られていない。


至3年

初代『エファム』没。

その最期は自宅にて、静かに眠るように息を引き取ったという。

血を分けられた彼の遺族は遺言に従い、丁重に火葬した遺灰を『エファム』の屋敷にて埋葬したと語られている。

二代目『エファム』は祖父にあたる初代の意思を強く継いでおり、他の『アストリネ』を正しく束ねる模範であろうとしていたと語られる。


しかし、他の血よりも始祖に近しい随一の身体能力に長けた『ディーケ』曰く、二代目の強さは【始祖たる初代には遠く及ばない】と評価されていた。


至504年

『アストリネ』を主軸に人類の文明は発展した。

知識操作に長けた『ヴァイスハイト』を中心に工業、医療の高度な技術革命が起こる。

人工皮膚を始めに個人DNA細胞に適した臓器再生装置開発による欠損の治癒。自己治癒促進剤開発による不死の病であった黒死病を始めとした治療に成功する。

また、石油を利用しない浮遊装置という一定量のエネルギー源を必要としない移動手段や電磁波を発生させない通信機器の普及も進み、飛躍的な発展と進化が果たされた先進技術の時代に世界は突入した。


――同年、二十四代目『エファム』没。

二十五代目『エファム』が誕生し、その外見と始祖に劣らぬ異能を持った評価で彼の者は『始祖の再来』だと多くの人々や『アストリネ』に祝福される。


至516年前期


〈黒き太陽が世に落ちた〉

〈その涅色に全て飲み込まれて消える瞬間を見た〉

〈終焉、滅び、断滅を〉


古代兵器『陽黒ようこく』による災害が【スワラン】【ジャバフォスタ】の境界に位置する【スワラン】の占領区…別名『ヤヌス』にて発生。

生物の細胞を腐敗する物質※が拡散した影響により凡ゆる全てが汚染され、生命が生まれぬ黒鉛の死海が築かれたという。


※この現象と災害は後に【タナト】と名付けられた。


以降、【ジャバフォスタ】に属する浄化作用操作を得意とした『カフラ』が尽力するが推定数十年の浄化期間を有すると発表。

発生原因経緯こそは不明だが、有力候補は『古烬こじん』。

彼等は人類でありながら『アストリネ』に強い反抗心を抱いており、体制を反対活動を行う旧文明の推進派閥かつテロリスト。生誕時に与えられる『アストリネ』の一族の加護を捨てた世捨て人。

彼等がこの事件を起こしたと推測されたため、『アストリネ』の一族は人類として換算されないよう正式に登録発令した。


至516年後期

二十五代目『エファム』を含めた『エファム』の一族が住まう地であった【スワラン】…『アダマス』と呼称された地が『古烬』による襲撃を受ける。

毒の生成や操作を得意とする一族『アルデ』十八代目をも巻き込んで甚大な被害が生まれた。

以降、『アダマスの悲劇』と語られる事変を以て、アストリネの一族の旗印にして始祖たる『エファム』の一族が没落寸前となる。


現役の二十五代目『エファム』は重傷を負い、管界※からの隠居、【スワラン】の国境封鎖まで決定した。

代理請負者として三十九代目『グラフィス』当主が発表し、正式に手続きされる。


※ 『アストリネ』が人類の管理者である社会のことを指す。


以降、『古烬』は世界的テロリストとして全人類に登録発表される。

同時に『アストリネ』による統治体制が大きく変動し、人類に下す法が改正された。

『人心配備法』改め、より個人の能力や性格適性で配置地が優先される『個人分析配備法』※となる。


※人には二十を迎えるまでに五の倍数の年齢にて定期精神鑑定を受ける。その時の適性値を分析し、職業を与えて住居と配給制の食料を補充。永続的な人類管理法。

人類はどのような理由であれ、機械下で配属された国の区を変える権利を剥奪されるもの。


発令時、『エファム』に代わり、【暁煌】の管理者である三十代目『ローレオン』が全区に向けて通信発信機械を用いた世界宣誓の場に立ち、彼女は以下の通りに演説する。


「五百年前、始祖『エファム』が世に誓った平和の意に従おう。この平和を乱す裏切りを私達が否認する」


※この演説後に三十代目『ローレオン』が管界の引退を表明。即座に三十一代目『ローレオン』が管理者として就任。


以降、『アストリネ』から世界に向けた正式な発令は無い。しかし争い事が起こることなく人類の平和は続いている。


〔現代に至るまでは以上。しかし、線が途切れ実に読みにくい古種の文字で、文面が記されているようだ。恐らくはこの暦書をまとめアストリネや始祖の命名を行ったマハマタル十三世のものだと推測されている〕


【南極星から降りたアストリネの一族達よ。私はわからない】

【貴方たちは世に平和を授ける天の使者なのか、或いは混沌を齎す滅びの流星なのか】

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