三話
うつむきがちに歩いていた自分はゆっくりと顔を上げた。
そこには、夕日を背にした石碑が一つ刺さっていた。
石碑はひびが入っており、所々壊れたり、草が生い茂っていた。
これが一体何なのか、一瞬自分は理解できなかった。
じっと見つめてみると、石碑に何かが彫られていることに気づいた。
近づいて見ると、そこにはこう彫られてあった。
【2029年/ー月/ー9日 大災 ー彦ーー 死亡者の慰霊碑】
それを見た瞬間心臓が跳ね上がり、汗が背中をだらりと伝った。
2029年? どういうことだ ?自分の記憶があるのは2027年の時まで。その2年間自分は何を
していた?
大災? そんなの知らない。
死亡者の慰霊碑?それならもしかして……。
みんな……もうシンダ?
心臓がどくどくとなり、息が荒くなっていく。
必死に両手で押しとどめようとしても、収まることなく、際限なく上がっていく。
それでも、どくどくなる心臓を必死に落ち着かせようとする。
その時顔がグイッと持ち上げられた。
水猫が水で出来た手で自分の顔を持ち上げたのだ。
顔を持ち上げられた自分は目の前に水猫がいることに気づく。
濁りのない清廉な水は神聖さを感じさせ、それでいてどこか懐かしい気配がする。
猫の瞳があるであろう場所には白い光が今にも消えそうなくらい小さくともっている。
じっと水猫と見つめあう。
ふと水猫の向こう側に見覚えのある名前が書いてあった。
水猫を押しのけてその名前を見てみる。
二つの名前は自分の身近にあったものだった。
その二つの名は__天彦乃雲と神酒之螺良__
それを見ていきなり私は頭痛がしてきた。
僕の頭はくらくらして、視界はパチパチとはじけ、ぐわんぐわんと揺れる。
あまりの気持ち悪さに俺はしゃがみ込む。
すると朧気ながら二人の子供の声が聞こえてきた。
とぎれとぎれだったが片方は男子、もう片方は女子だとギリギリ判別できた。
楽しそうな声でどんどんこちらへと近づいてくる。
その時、心臓が早鐘を売っているのに僕は気づいた。
その感覚が、さっきのような動悸とは別物だと俺は認識して、理解していた。
これは何だろうかと極限状態の頭で考えてる間にも、二人の子供が近づくにつれ、心臓の高鳴りが激し
くなっていった。
そして二人の足音が横で鳴ったと思ったとき、俺の視界は黒くなった。