二話
続きです。
変わってしまった景色に呆然としていると、水猫はガラスに体を押し当て、反対側へとすり抜けた。
それに驚き、目を丸くしている間に猫は浅く水が浸っている道路へと飛び降り、水の上を滑りだした。
その時、自分は絶対にこの猫を追わなければならないと感じた。
慌てて部屋の窓を開け放ち、そこから外へと飛び出た。
「水柱」
飛び出したとともにそう唱えると水が集まり、柱となった。
水遁の戯。水の都が栄華を誇った一番の理由であり、水を操る不思議な力。
この力があるからこそ自分たちは今日まで生きてこれたといってもいい。
水の柱に着地すると水猫はどこにいるのかすばやく確認する。
水猫は住宅街を一直線につっきていた。
急がないと本格的に見失うかもしれない……。
「波乗り!」
水柱から降り立ち水猫が使った水面を滑る術を使う。
焦りで声が強くなったが、無事起動して、全速力で水猫を追いかけ始めた。
耳の傍で風を切る音が鳴り、足元ではシャーという軽快な音とともに水が跳ねる。
景色はどんどん横に流れていく。
視界の端に流れていく景色を見るたびに、瞼の裏に刻まれた幸せを想起させてくる。
なぜか人は誰もおらず、いつも暖かい声をかけてくる近所の人も、いつも吠えてくる犬も全員いなかっ
た。
いやな想像が頭に上る。
いや違う! ただの考えすぎだ。だってこんなことが……。
水猫の後ろ姿が見えた。
速度を上げようとしたときに横に逸れた。
水猫の曲がった角に身を躍らせて出たら、そこは商店街だった。
人っ子一人おらず、どこか重い空気に息がぐっと詰まった。
水猫は商店街を悠々と歩いている。
自分も水猫を追うために商店街へと足を踏み入れた。
いつも騒がしかった商店街は、今では閑古鳥さえ寄り付かないほど、もの寂しくなっていた。
商店街特有の飲み歩きたちの元気な声も、居酒屋の力強い声も何もかも聞こえなかった。
錆びたシャッターや布が黄ばんでしまった掛け軸、それらがさらに最悪を想像させてくる。
こんなことが……あり得ていいのか? いや! これは夢なんだ! 夢……なんだ……。
いつの間にか自分と水猫は商店街をともに歩いて抜け、そのままどこかへと向かっていた。
どこに向かっているのかは頭がパンクした自分が想像することはできなかった。
何十分経っただろう……。
波乗りを使えばすぐにすむ時間も、なぜだか自分たちは歩いて向かっていた。
水猫に導かれるように歩いて、歩いて、歩いて。
そしてようやく、水猫が止まった。
暑すぎて溶けそう…。