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愛犬彼女。  作者: まさき
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第2章




「つまり・・・あれか?」


ストロベリームーンがわたしが思わず呟いた願いを叶えてくれた・・・・?


自分の頭に生えた耳をもさもさと触りながら必死に昨夜の出来事を頭の中で反芻し、そこに思い当たった。


「いやいやいやいやいや・・・・・」


漫画かよ!!


自分で自分の発想にツッコミを入れるも。

それしか考えられないのだ。


実際問題。

まるで漫画のように、耳は生え、あまつさえ、ぽぽちゃんそっくりなフサフサな尻尾まで生えているのだ。


ちなみに補足しておくと。

一般的にコーギーのシッポと言えば、短く、お尻の上に申し訳についているのを想像するだろうが。

生まれた時のコーギーにはちゃんとふさふさのシッポが存在するのだ。

コーギーのシッポが短いのは、すべて人間によって断尾されているからなのだ。

その証拠に、うちのぽぽちゃんは断尾をしなかったので、ふさふさのシッポが残っている。


そのふさふさのシッポが。

自分のお尻にも生えている・・・・。


その状況に頭が追いつかないのだ。


「どうするの・・・これ・・・」


どうにか取れないか思いっきり引っ張ってみたものの。

それはただ激痛を与えるだけで、これは夢ではないんだとさらに実感する結果となった。


心底困って鏡の中の自分を見つめた。


困っている心情の表れで、耳はがすっかり垂れ下がっていた。

涙目で鏡を見つめていると。


ガチャと音がして、


「はるか、起きてるか?」


出勤前だろう、紘が顔を覗かせた。


「紘くん!!」


思わずすがる勢いで、彼の胸に飛びつくと、部屋へと引っ張り込んだ。


「おぉい、危ない、引っぱんな!」


こけそうになりつつも、紘ははるかの体を支えた。


「・・・どうしたんだよ・・・?」

「紘くん、どうしよう・・・」


珍しく感情を高ぶらせて、涙目で自分の見つめるはるかの姿に、紘は首を傾げる。


「何・・・どうした?・・・何、これ、お前、こんなアクセサリーいつ買ったの?」


紘が怪訝な顔で耳に触れる。


「あ、すごい、気持ちいい、本物みたいな感触。よくできてんなぁ。あ、シッポ付きなんだ?ポポみたいじゃん。」


紘が笑う。


「それどころじゃないんだよぉ!」


はるかが叫ぶように言うとそれに反共して耳とシッポが動く。


「あ、すごい、動いてる」


おもちゃだと信じて疑わない紘は、それを見て笑い声をあげる。


「超かわいいよ、はるか、何、俺に飼い主になって欲しいの?」


紘が優しく笑いながらはるかの頭を撫でる。


「よしよし、いい子だね。」


目尻を下げて、優しく微笑う。


こんな状況にも関わらず、紘の微笑みが眩しくて、暖かなその手が嬉しくて、頬が熱くなる。


「・・・・紘くん・・・違うの・・おもちゃじゃない・・・本物だよ・・・」


涙ながらに言うはるかに、紘は首をかしげる。


泣きじゃくりながら状況を説明するはるかを見つめて、紘の眉間のシワが深くなっていく。


はるかは変な嘘をつく子ではない。


それがわかっているだけに、半信半疑なのだ。


紘は目の前のはるかの頭から突き出たふわふわな耳を引っ張って見た。


「痛っ」


はるかが小さく悲鳴をあげて紘を見上げる。


「あ、ごめん、そうか、・・・本物・・・・?」


いつもは無表情のはるかが目に涙をためて上目使いに自分を至近距離で見つめている。

紘はその状況に耐えられず、そっとはるかを自分から引き剥がすとベットの上に座らせた。


「あのさ、・・・まず最初に言い訳させてもらえるなら・・・・昨日の夜、はるかが見たって言う女の人だけど・・・・別に彼女ではないからな?・・・・キスは・・・されたけど。でも気持ちは入ってないってゆーか、強引にされただけってゆーか・・・・」

頭を掻きながら言い訳する紘をはるかが混乱したように見上げる。


「あぁ、ごめん、そうだよな、とりあえずどうでもいいか、そんなこと。」


紘は改めてベッドに座るはるかを眺めた。


ベッドにちょこんと座り、紘を見上げるはるか。

その頭にはしょげ返ったように垂れ下がるもふもふの耳。

背後には柔らかそうなシッポまで覗いている。


・・・・やばくないか・・・。


コスプレとか・・・・そんなプレイに興味があるわけじゃないが。

ふと頭をよぎる邪な妄想を、紘は頭を振って追いやった。


「・・・おじさんとおばさんは?今入ってきたときいないみたいだったけど?」

「・・・知らない。お父さんはもう何ヶ月も帰ってきてないと思うし、お母さんもここ何週間か見てない。」


はるかの言葉に、思わずため息を吐く。


はるかの親父さんは他に家庭を持ってるらしいし。

お袋さんも若い愛人の家に入り浸りらしいとはるかに聞いたのはいつのことか。


食料や生活用品に困ることのないよう、お金だけは与えられているらしいが、この家にいつも独りぼっちの幼馴染が心配で、紘は毎日顔を出していた。

・・・まぁ、理由はそれだけではないのだが。


その時、携帯が出発時刻を知らせて音楽を奏で出す。

紘は携帯を取り出し、アラームを止めると、会社に電話をかけた。


「・・・あ、社長、俺っす。今日ちょっと具合悪いんで大事とってやすみます。・・・はい、大丈夫です。・・・はい、じゃぁ、失礼します。」


社員数20数名の小規模なデザイン事務所で働く紘。

直接社長に電話を入れたのだ。


「・・・紘くん・・・お休みするの?」

「お前のこと放っておけないだろ、この状況で。」


眉間にしわを寄せて紘がつぶやくように言う。


その心遣いが嬉しく。

はるかはホッと吐息をつき小さく微笑んだ。


シッポが左右に小さく揺れた。


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