友達②
朝のホームルームが始まり皆が席に着く。
そうして教師が当たり障りのないことを話し始めたのを流し聞きしながら、私は最前列の端に退屈そうに座っている花野へ目を向けた。
よく見てもあれが喫茶店の店長の娘とは思えないな
それが少しだけ可笑しくて私は小さく笑う。
そうして目線を私は教師へと戻して、当たり障りのない言葉を聞いているとHRはつつがなく終わりを迎える。
教師が教室から出たのを確認して、それぞれが一限目の準備を始めていく。
私も同じように教科書をカバンから取り出して準備をしていると、不意に机に一つの影が現れた。
「ねえ。天川・・・さん」
顔を上げるまでもなくその人物が誰かはわかっている。
私は一度息を吐いて、わずかに怠そうな表情でそれに反応する。
「何?花野さん」
見上げて予想通り、しかし想像とは違う複雑そうな表情の花野秋が私を見下ろしていた。
苦虫を嚙み潰したような、とでもいえばいいのだろうか。わずかに顔が強張っており何か緊張しているのがうかがえる。
「あの、さ・・・ウチの喫茶店でバイトするんだよね?」
「え?あ、うん。そうだけど」
何が聞きたいのだろうか。もしかして「なんであんたがうちの喫茶店で働くのよ」とでもいうのだろうか。
僅かにそう考えて、しかしそうではないと花野の表情は語る。
うれしさと、気まずさが混ざり合ったような顔は私の思考をわずかに混乱させた。
恥ずかしい。気まずい。この感情はわからなくもない。
実家によくわからないクラスメイトが突然現れるようなものだ。そう感じるのは至極当然のことだと思う。
しかし嬉しさ、ポジティブな感情を抱くのは少し可笑しい。
花野秋と私は高校で初めて出会った。出会ったといっても入学して2か月以上経つが接点などつい何日か前にできた程度だ。
しかも話したのは今日が初めて。
それなのにそんな表情をするのは、何かが違う。
「え、えっと・・・今日って・・」
「授業」
「え?」
「授業始まるから、用事あるならまた後で」
予鈴が鳴り始めると花野は慌てて席へ引き返していく。
そんなに真面目に授業に取り組むような印象はないが、生活態度が別段悪いわけではないらしい。
その姿を少し意外だと感じながら、私は机に取り出した勉強道具を簡単に整理した。
そうして授業は特に何の問題もなく始まり、いつものように黒板に書き出される文字を眠気に耐えながらノートに書き写していく。
そういえば。
ふと脳裏を過る疑問。私が自ら止めた癖に、それが妙に気になって仕方がなかった。
予鈴が鳴り始める瞬間。花野は何を言おうとしたんだろう?