それはまるで運命のように③
翌日。私は授業を終えるといつにも増して早足で学校を抜け出し、喫茶店へバイトの面接を受けに行った。
勢いに乗ったまま喫茶店に飛び込み、笑顔で迎えてくれた昨日の男性に案内されて店内の端っこの席へ案内され、そこで面接をした。
面接はだいたい10分ちょっとで、簡単な質問をいくつかされて特に苦もなく終わった。
「それじゃあ、これからよろしくね」
店長は渡した履歴書をファイルに仕舞うとニコリと笑って手を差し出してきて、私はそれを握り返す。
「こちらこそよろしくお願いします」
バイトについてあれこれ調べていたので、てっきり1,2週間後に結果が分かるのだろう考えていたが、店長曰く「早く決まるに越したことはない」と言うことでその場で合格を貰えた。
テーブルに出された少しだけ砂糖とミルクを入れたコーヒーを飲み干すと、私は席を立って周りを少しだけ見回す。
この喫茶店の存在は知っていたが今まで入ったことはなかったため内装が目新しくとても面白い。
全体的にシックな木製の机や椅子が並べられ、それは多人数で利用出来るファミレスなどとは違って少人数での利用が主なのだろうと理解出来た。
そうしてキョロキョロとしていて、ふと頭の中を疑問が過った。
「あの、店長」
私はまだ座って自らが淹れたコーヒーを嗜む店長を見据ながら再び椅子に座る。
それが気になったのか、店長はコーヒーカップを置いて顔をこちらへ向けた。
「どうしたんだい?」
「いえ、なんで私の通ってる高校の規則を知ってたのかなーって気になって」
昨日、この店長は私にあの高校の生徒なら大丈夫だと言った。
その時は特に気にも留めなかったのだが、よくよく考えてみると少しだけ不思議だ。
この店長がかつてあの高校の生徒で仮にその規則を覚えていた、とかであれば不思議はない。
しかし私の通っている高校は十数年前に合併されていて、少なくともこの店長が高校生の頃はまだそうはなっていなかったはずだ。
もちろん他にも理由は考えられる。
かつてこの喫茶店で働いていた人が私と同じ高校だったとか、そんな理由があればである。
普通こんなことを気にする必要はないのだが、バイトは大学生しかいないはずのこの喫茶店で、思い出す必要もなく断定するような言い回しだったことに違和感があって、何となくそのモヤモヤ?を解消したかった。
「ああ、それね」
店長は何か理解したように頷くと、再びカップを手に取りコーヒーを飲み干した。
そうして一呼吸おいて、
「娘がね、君と同じ高校なんだよ」
そう言った。