ラッキーアイテムは花①
薄っすらと意識が目覚めて行くにつれて、耳元で鳴り続けるスマホのアラームは私の意識の覚醒を加速させ、それに促されるようにわずかに開いた瞳に映る見慣れた真っ白な天井とカーテンの隙間から漏れるまばゆい光が私に朝を告げる。
「夏美!起きなさい!」
タイミングを見計らったかのように母の声が部屋の外から聞こえた。
ゆっくりと上体を起こして背伸びをして、一度だけ大きくあくびをすると私は寝ぐせのついた頭のままリビングへと向かう。
「おはよう夏美。ご飯できてるからここに置いていくわね」
部屋に入ってすぐ母は私に気付いて声をかけると、机に朝食を並べてそそくさと支度を済ませる。
「お弁当もあるから、忘れずに持っていきなさいね。それじゃあ行ってくるわ」
あわただしく玄関を出る母を見送って、私もノロノロと活動を始める。
顔を洗って適当に寝ぐせ直しウォーターを髪にかけて櫛で解き、そうして寝ぐせがなくなったことを確認して、私はそのまま朝のニュースを眺めながら朝食を食べる。
代り映えのしないニュースを適当に流し見して、使い終わった食器を台所へと置くと今度は制服に袖を通した。
私の通う学校はここから徒歩で20分程度。自転車であれば10分もかからないところにあるごく普通の公立の共学高校だ。
なぜその高校を選んだのか。それはお察しの通り家から近いから。
それに一軒家に住んでいるとはいえ、我が家の家計は決して明るくないという事情もあった。
無駄に・・・といっては怒られそうだがお金のかかる私立校など、最初から受ける気すらもない。
ぼんやりとそんなことを考えていて、気が付けば登校する時間が迫ってきていて、私は横目に星座占いを確認するとテレビを消して足早に家を出た。
今日のかに座は1位。運命の出会いがあなたを待っているかも!?ラッキーアイテムは花。だそうだ。
天川夏美は運命とか、そんなものは信じていない。
といいつつも占い結果を気にしてしまうあたり、私も平凡な一人の人間なのだろうなと自覚する。
自転車を使えばものの数分。けれどもギリギリ自転車通学ができる距離に届かない我が家に住む私は残念ながら徒歩通学だ。
時折道端に咲く名前も知らない花を眺めて、朝の占いを思い返す。
「この花を持っていけば運命的な出会いがあるってこと?」
じっと花を見つめて手を伸ばし、だが途中で手を止めてまた歩き出す。
「花持ったくらいで出会う運命とかどんなんよ、それ。それに道端の花とか何ついてるかわかんないしやめたやめた。ばっちい」
結局花を一輪も摘むことのないまま学校へ到着して、私は自分の教室へと向かった。
教室のドアを開けるともういくらかの生徒は登校していて、漫画をよんだり友達と喋っていたり寝ていたりと思い思いに過ごしていた。
私はだれとも挨拶を交わすことのないまま後方窓際の自分の席に座ってスマホを適当に弄る。
六月上旬。まだ辛うじて梅雨入りを逃れたこの頃にはすでにいくつかのグループが出来上がっていた。
代表的なグループ。
要するにこのクラスにおいての派閥的なものを上げると二グループ存在する。
教室の右前。出入り口付近で駄弁っているちょい胸大き目な茶髪ふわロングの女子。花野秋と、逆にちょい胸小さめな黒よりの茶髪のサイドポニテ女子。七草冬子の二人を中心としたちょいギャル系イケ陽グループ。
窓際席の最前列で静かに本を読む黒髪ぱっつんストレート女子でクラス委員長の春咲唯子を中心とした真面目系ちょいオタグループ。
ちなみに私はどちらにも属していないボッチグループ・・・いや、これはグループとは呼ばないな。
ともかくだ。この大きな二つのグループが自然と出来上がっていって気が付けば入学式から二か月以上が経過していた。
私はコミュニケーション能力が低いのか、と問われればそんなことは決してないと思う。
ただ部活にも所属していないし、今はアルバイト探しで放課後も残っていることはないこともあってクラスメイトとの関わり合いが薄くなっていたのだ。
その結果。気付けば周りにはいくつものグループが出来上がっていて、私ははぐれものになった。