移動教室
教室の朝のがやがやした感じが思い出される話です。
3年4組の扉を今日も開く。
黒板を向いてきちんと並べられた机にまばらに人が集まっている。
この扉を開くのは何回目なんだろう。
登校日を数えれば何回、この扉を開いたのかなんてすぐ分かるけど、
そんな面倒くさいことはしない。
人が集まっている机には目も触れず、窓辺の定位置に今日も着く。
カバンから携帯を取り出して意味もなく眺めておく。
「優亜ちゃん、おはよう。」
こげ茶色のボブで、前髪を緩く巻いて、制服の中に着ているカーディガンを袖から少し見せながら、
声をかけてきたのはクラスで一番仲のいい友達、沖田のぞみ。
「おはよう、のぞみ。」
私は少しけだるげに、携帯を見たまま答えてあげる。
「今日も眠そうだね。」
"微笑み"の言葉がよく似合う顔で、机の横にかがみながら私の顔を覗き込んでくる。
「のぞみは今日も100点ね。」
私は少し皮肉を込めて、完璧に整えられた身だしなみを誉めてあげる。
「私が100点なんじゃなくて優亜ちゃんがだらしないだけでしょ?」
「のぞみのくせに何よ。生意気ね。」
のぞみはふふっ、と笑いながら私を見ている。
~♪キーンコーンカーンコーン♪~
席に着けと予鈴が知らせる。
「ほら、席に戻りなさいよ。」
「もう、優亜ちゃんが来るの遅いから全然話せなかったじゃないの!」
ぱっと立ち上がり、狭い机と机の間を何人かの人とすれ違いながら通っていく。
のぞみは道を譲っていて、なかなか前に進めない。
おどおどしているのを見ているのが少し恥ずかしくなって、私は窓を見てしまう。
ガラガラと音を響かせて、先生がはいってくるのと同時に「起立・礼・着席」と日直が呼びかける。
「出席とるぞー。」
先生が出席簿を開きながら点呼を始める。
「阿部ー。井上ー。今井ー。上田―。長田―。…」
私の"渡辺"が呼び終えて、
「今日も欠席なし、問題起こさないで勉強頑張ってくれよー。」と言って教室を出ていく。
またにぎやかになりだした教室。
ガチャガチャとなっているたくさんの音に紛れて、
「次、移動教室だよ。優亜ちゃん。」
のぞみが丁寧に教科書を両手で抱えて声をかけてきた。
「うん、一緒行こうか。」
私が答えるとのぞみは少し涙目になって、「ごめんね。」と言う。
いいのよ。別に。この教室の扉を開くのにも飽き飽きしていたところなの。
ご拝読ありがとうございます。
きっともやもやしてしまったはずです。ごめんなさい。
毎日が繰り返されている感が学生時代とても嫌でした。
学校をやめられないか考えたときに(死んだ)友達に
どこかに連れ去られてしまうような異次元なことがあればよかったなと思って執筆しました。
※私の友達はありがたいことに全員健全です。