第8話 海と屋敷と無人島3
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「あっ!おはよう!」
「おはようじゃの。」
「…こんな気分の悪い寝落ちは初めてだ。」
目を覚ますと楓と玉藻は俺が寝ている場所のすぐそばにいた。
「悪かったわね!」
俺達がいる日陰の端の方に沙耶が座っていた。気まずいのか、俺と視線が合うとバッと顔を背けた。
「そ、その、ごめんなさい、それと助けてくれてありがとう。」
「あ、あぁ、どういたしまして?」
沙耶が珍しく素直に謝罪と感謝の意を示してくるので少し動揺した。
「そういえば、壮真。いつのまにこんなに鍛えたの?傷跡も増えてるし。」
「春休みの最中にいろいろあってな。」
胸の傷は俺が霊能力を持つに至った時にできた傷で、細かい傷は春休みに行った霊能力の修行や楓達といることで喧嘩をふっかけられた時にできたものだ。
実を言うと玉藻に頼めば、傷跡を消してもらえるが、昔の傷跡は昔のということで、玉藻と会う前の傷跡は残している。ただ、胸の傷だけは俺の目的が達成できたら消してもらう予定だ。
「拓実はもう起きて海を泳いでるよ。」
「あいつ、タフだな。啓介は?」
「まだ気絶中、今、執事のお爺さんが一生懸命介抱してるよ。」
「お前達のことがトラウマにならないといいんだがな。」
「うっ!すまんかったのう。少しはしゃいでしまったのじゃ。」
玉藻がしゅんとなる。あまりの落ち込みぶりに耳と尻尾がペタンとなっている幻覚が見えそうだ。
「まぁ、楽しかったのならよかったよ。」
「うむ、楽しかったのじゃ。」
玉藻はしゅんとしていた状態から微笑する。
「あ、あのさ。」
「どうした?」
「玉藻ちゃんと壮真って付き合ってるの?」
「妾と壮真が!?」
「いや、違うぞ。玉藻は最近来たばっかりだからな。」
何を勘違いしていたのか、楓は玉藻と俺が恋人同士だと考えていたらしい。
「そっか。」
「やぁ、おはよう。」
啓介が俺達が寝転がっていたすぐそばにある建物の中から執事の爺さんと一緒に出てきた。
「大丈夫か?」
「大丈夫!少し気絶してしまったけど、問題はないよ!」
啓介は胸をドンッと叩く。いつのまにか、執事の爺さんが俺の後ろにいて耳元で囁く。
「(強がってはおりますが、坊っちゃまはお腹が少し腫れております。憑代様には坊っちゃまのフォローをお願いいたします。)」
「(あれは慣れてないときついですからね。楓もいつのまにか強くなってたようですし。分かりました、できる限り気をつけておきます。)」
スススと執事の爺さんは気配を消して啓介の後ろに戻る。
「それじゃあ、別荘の方へ移ろうか!」
「拓実!こっち来い!別荘に行くらしいぞ!」
「おー、行く行く!ちょっと待って!」
大声で拓実に声をかけると凄まじい速度で沖合から砂浜まで戻ってくる。
「よっしゃ、戻ってきたぞ。」
「それでは皆様、ロッカー小屋の方へ戻りましょう。」
執事の爺さんを先頭に、荷物を入れたロッカー小屋の方に戻る。小屋と言っても、普通の一軒家より大きいので、小屋と言っていいかは分からない。
全員が着替え終え、リムジンに乗り込み、海沿いに20分程走ると大きい建物についた。リムジンが門の前に止まると自動的に門が開く。そのまま、中に入り大きい屋敷の前に止まった。
「どうぞ、お降りください。」
「俺、1番!」
拓実は真っ先にリムジンから飛び降りる。そのあと、ぞろぞろとリムジンから降りた。
「啓介ん家はやっぱでけぇな!」
「すごーい、大きい!」
「いやはや、見事じゃのう!」
「うわ、何部屋あるのよ、この屋敷。」
「倉庫と厨房などを除けば、56部屋でございます。」
「…さすがに驚いた、ほんとに金持ちなんだな。」
「親がだけどね。」
啓介を先頭に屋敷にの中に入った。中には執事が2人とメイドが10人いて、頭を下げていた。
「「「「「お帰りなさいませ、啓介様、そして、いらっしゃいませ、お客様方。」」」」」
見事に声が揃っている。あまりにも一般家庭から離れすぎていて、俺達は硬直していた。
「やぁ、久しぶり、今日は友人達が来ているだけだから、堅苦しくしなくていいよ、逆に緊張させてしまうからね。皆の荷物をそれぞれ部屋に運んでくれるかな?大部屋2部屋を女子と男子で分けておいてほしい。僕も今日は友人達と寝るから、よろしく頼むよ。」
「「「「「はい、かしこまりました。」」」」」
メイドさん達が俺達が手に持っていた荷物を預かり、2階に登っていったので、そこに大部屋があるのだろう。
「それじゃ、いくよ。ついてきて。」
啓介は俺達を連れて応接室のようなところへ入った。啓介は懐からUNOを出した。UNOをやったことで緊張がほぐれ、ある程度皆元の状態に戻っていた。数ゲームやると、メイドさんが呼びにきたのでついて行く。
扉を開けると食べ物がたくさん並んでいた。バイキング形式だった。俺達はいろんなものをたくさん食べた。どれもかなり美味しかったとだけいっておく。食後、荷物が置いてある大部屋に案内された。
「いやー、飯うまかったな!」
「お前も緊張してたな。」
「いや、俺がさ、啓介ん家に行ったときはさ、メイドと執事の出迎えなんてなかったんだよ。」
「それは、急だったからだよ。事前に連絡してなかったからね。」
「なるほど。」
「さて、お嬢さん方が風呂から上がったら、僕達も裸の付き合いをしようじゃないか。」
楓や玉藻、沙耶が風呂を上がったという連絡が来たので、着替えを持って風呂に入る。予想通り、でかい風呂で10人くらいなら問題なく入れる大きさだった。
途中、メイドさん達が俺達の体を洗いに入ってくるというハプニングもあったが、無事に風呂から上がり部屋に戻った。しばらくしゃべっていると、楓達が部屋に入ってきた。
「入るよー。」
「じゃまするわ。」
「来たのじゃ!」
全員寝巻きの状態だ。無防備というか何というか、少し呆れた目で俺は3人を見た。
「どうしたのじゃ、壮真。」
「な、何よ。」
楓は気づいてないが、沙耶と玉藻は俺の視線に気づく。まさか、沙耶まで無防備な格好で来るとは思ってなかった。
「夜といったら、怪談だよね!」
楓の言葉に全員ガクッと力が抜ける。女子高校生とは思えない。普通は恋バナと言うだろう。楓のオカルト好きはもう治療不可らしいなと思って諦めていた。
「ね、湯島君!ここらで何か有名な怪談ってない?」
「ま、まぁ、一応、あるにはあるよ。3つ程ね。」
楓はその言葉に目をキラッと輝かせる。
「話して話して!」
「いいよ。まず、1つ目は『道連れ水没武者』だ。海開き、つまり、今の時期に泳いでいる客のあくびを掴み、海の底へ沈んでいくという話。その後の死体は必ず砂浜の上に漂着するらしい。ここ10年は起こってないから安心するといいよ。」
今日、海を泳いでいた拓実がビクッとなったので、啓介はさりげなくフォローを入れる。
「海関連のよくあるタイプの怪談だね!次は?」
「2つ目は『追いかけ餓鬼』だね。すぐそこに山があるだろう?」
確か屋敷のすぐそばに山があったのを思い出す。
「そこの頂上に古くなったお寺があるんだ。一応、湯島家が管理してるんだけどね。そこに向かう山道では、包丁のようなものを持った小さい鬼、餓鬼みたいなのが出て追いかけてくるという話。ちなみに、その餓鬼は昔、その寺に入れられていた悪戯小僧が悪戯のしすぎで追い出され野垂れ死に、その時の恨みが小鬼の形になったと言われているよ。」
「案外調べてたんだな。」
「まぁね。元々、有名なのもあるから。」
「この話が終わったら肝試しにそこ行こう!」
「嫌よ!」
沙耶は怖い話が嫌いなので、ブルブルと震えている。律儀に聞いているところは真面目だ。
「むぅ、私は諦めないからね!それで、最後は?」
「諦めて!」
沙耶が楓に突っかかっているが、楓はどこ吹く風で沙耶の言っていることを聞き流す。拓実はつまらないのか既に寝ているし、霊そのものである玉藻はもはやぼーっと他のところを見ている。
「最後は、ネタバレになっちゃうけど、明日、家が所有している無人島に行くんだけど、そこって、衛星からじゃ確認できないんだ。」
「へぇ!」
楓のテンションが高くなっているが、俺は憂鬱だ。もし、それが本当に霊の仕業なら、島ごと『領域化』してるということだからだ。島の大きさにもよるが、多分普通にでかいだろう。
つまり、霊格が高く、琴音のように神格に足一歩踏み入れていたり、玉藻のように神格を得ている可能性が高い。 玉藻もそれに気づいたのか、今回の話はきちんと聞いている。
「無人島の中心に池が干上がったみたいなくぼみがあるんだけど、そこには巨大な虫がいるって話なんだよね。」
(巨大な虫?大百足か?)
大百足とは有名な妖怪だ。超巨大で無駄に硬い妖怪だ。攻撃手段は突進、噛みつきによる毒、締め付けだけなのでワンパターン。が、純粋に巨大な物体がかなり速い速度でぶつかってくるというのはかなり厄介だった。
俺も一度だけ戦い、突進で吹き飛ばされて負けている。大百足はかなり有名な霊であり、実際に祀られていたりもするので、神格を得ていてもおかしくはない。
「虫?大百足かな?」
楓も俺と同じ結論に至ったらしい。
「大百足?それが何なのかは知らないけど、その可能性もあるかもね。」
「私、その中心部行きたい!」
「うーん、残念だけど、厳しいかな。中心部は森に囲まれてるんだけど、かなり危険な動物や虫がいるんだよね。あ、森の途中で柵で囲ってあるから、危険な動物はそう簡単に出てこれないよ。だから、海に近い森は安心して大丈夫だよ。」
(あ、これ、絶対でかい島だな。)
「むむむ、やっぱり、山に行くしかない!沙耶ちゃん、お願い!」
「…山まではついてきてあげるけど、登りはしないから!」
「ありがとう、沙耶ちゃん!」
楓がガバッと沙耶に抱きつく。そのまま、楓は沙耶を拉致って部屋を出ていった。
「妾も着替えたほうがよいかの?」
「そうだな、一応着替えて置いたらどうだ?寝巻きで強制的に連れていかれたくはないだろ?楓はやるぞ、オカルトのことになると止まらん。」
「仕方ないのう、着替えてくるのじゃ。」
玉藻も部屋から出て行き、静かになった。
「僕達も着替えるかい?」
「そうだな、女子達で行かせるのは危険だ。」
「霊っているのかな?」
「まぁ、分からんとしか言いようがないな。…起きろ、拓実。」
「その起こし方で大丈夫?」
啓介は苦笑いを浮かべているが、気にせず俺は足でゲシッと拓実を蹴飛ばしてベットから落とす。
「おわっ!な、何だ?」
「肝試し行くぞ。」
「楓がそう言ったのか?分かった、行くぜ!」
拓実は寝巻きのまま、部屋から出ようとする。
「待て待て、山に行くんだ、長ズボンと長袖の服を着ておけ。そうだ、懐中電灯あるか?」
「懐中電灯はこちらで用意させておくよ。常備されているはずだからね。」
啓介は部屋の入り口付近にある電話を取り、懐中電灯の用意を指示している。俺達が着替え終えて玄関に行った。すぐに楓達がバタバタと玄関に走ってくる。メイドさん達からそれぞれ1つ懐中電灯をもらって外に出た。
「「「「「行ってらっしゃいませ。」」」」」
「送りましょう。」
外では執事の爺さんとリムジンが待機していた。俺達はそれに乗せてもらい、山の麓に移動した。
「雰囲気あるねー。」
楓は山を見て、興奮している。夜の山はやはり雰囲気がある。特に月が細い三日月の形をしているで少し薄暗いのが、余計に雰囲気を駆り立てていた。
「さて、ペアで行くべきかな?行った証拠に寺の写真を撮ってくること。」
「いいアイデアね!」
意外にも、啓介は乗り気なようだ。沙耶がいらないことを言った啓介を睨んでいるので、啓介は冷や汗を流しているように見える。
「わ、私は行かないからね!」
「えー、沙耶ちゃんも一緒に行こうよー。」
「女子だけじゃ危ないから男女ペアな。」
楓が勝手に沙耶を連れて行きかねないので口をはさむ。
「むぅ、仕方ない。じゃあ、まず、私と壮真ね!」
「何で俺だ?」
「霊媒体質でしょ!壮真の周りでポルターガイストとか起こってたじゃない!」
「いや、ポルターガイスト起こってたのはお前が俺の近くにいた時のみだよ!家では全く起こってねぇ!」
「あれ、じゃあ、私が霊媒体質?」
正確に言うと、楓は霊媒体質ではない。憑きやすいわけではないが、霊のエネルギーとなる生命力が人よりかなり高いから、周りに霊がうろついていたりする。ポルターガイストもそれが起こしたものだ。
元々、俺は霊媒体質であったが、右眼と左手を手に入れたことで解決した。
「くじがよろしいのではないでしょうか。」
執事の爺さんは用意してあったのか、リムジンの中から割り箸を3本出す。
「1、2、3と書いてありますので、同じ番号であった男女がペアということでどうでしょう。」
「執事のお爺さん、ナイス!」
「ほほ、ありがとうございます。」
女子が割り箸を引く。沙耶も楓に無理矢理引かされる。沙耶が3、玉藻が1、楓が2だ。今度は男子が引くと、拓実が1、啓介が2、俺が3だ。
「俺は沙耶とペアか。」
「それじゃあ、まずは玉藻ちゃんと拓実、いってらっしゃい!」
(玉藻を見たら、霊は逃げるかもな。霊力の量が減っていても、質は変わらないからな。感知能力が高いやつなら九尾の狐だと気づくかもしれん。)
玉藻と拓実が山に入っていった。
第10話が投稿されるまでに、もし、総合ポイントが100を超えた場合、今回の話で出た、沙耶が壮真に助けられた時の事件の話を特別話として公開しようと思ってます。未だにブックマークなどがゼロ。ゼロから脱却したいところです。