第4話 誘拐犯の暗躍3
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【壮真】
俺はそろそろ時間になるので必要な道具をポーチに入れて腰に下げ学校に向かうために家を出た。自転車で行くことも考えたが、自転車を見つからないように隠すのも面倒なのでやめた。
「まだ来てないのか?」
集合の時間より10分程早くついたが、まだ校門には誰もいなかった。
「3人とも来てないのか?まぁ、都合がいいか、俺だけでちゃっちゃと終わらせよう。」
俺は学校に入り本校舎の方へ向かった。俺は女子生徒ではないので霊に会えるかどうか分からないが、右眼で見れば、霊を看破することは可能なはずなので、学校全体を探索すればいい。
「ん?こりゃ、薄いが霊気か?」
右眼の力を強めると本校舎の中にうっすらと霊気の霧のようなものが見える。どうやら、本校舎に霊がいるようだ。
「おいおい、こりゃ随分と濃いな。」
少し本校舎から離れて、校舎全体を見ると、保健室あたりと4階、俺達の教室付近に強力な霊気による霊場ができているのが分かる。今回はおそらく保健室ではないので、4階に向かった。
「あー、こりゃ、『領域化』してるな。」
強力な霊になると長期間いる場所が境界が歪んで、本来より広くなったり存在しないものが存在したりと常識の通じない空間ができることがある。俺はそれを『領域化』と呼んでいる。
大概が境界を歪ませた霊にとって有利だったり関係があったりする空間となる。例えば、森に住んでいた動物霊だったら、屋内とか関係なく木や植物が生えてたりする。
「めんどくさいが、マシな方か。」
今回の『領域化』は空間の拡大のようだ。廊下の長さが伸び、教室の数も増えている。単純にちょっと広くなっただけなので、木が生えてたり変なモンスターが徘徊してたりするよりはかなりマシだ。
「…ここだな。」
廊下の奥に存在する教室から霊気が漏れ出している。おそらく、ここに『神隠しの誘拐犯』がいるはずだ。
「来い、『琴音』、お前の力が見たいから頼むな。」
俺は左手から琴音を呼び出す。何故か、小狐も一緒に出てきた。
『はい!頑張ります!』
『妾もここで見ておるぞ。』
「やっぱり玉藻か。」
小狐は分霊した玉藻のようだ。分霊とは自分の霊体を分けて、つくる分身のようなものだ。なので、元に即した姿となる。
『壮真が心配じゃからな!琴音では壮真を守れんかもしれんからの。さすがの妾も左手の中からではとっさに力を使うことができん、だからこうやって、分霊で直接外を干渉できるようにしたのじゃ!』
小狐は俺の首にマフラーのように巻きつく。霊体であるため、重さを感じないので苦しさはない。
『もう!私も強い方ですからそうそう負けませんよ!玉藻様も心配しすぎです。』
ナチュラルに玉藻のことを様付けで呼ぶ琴音。上下関係が透けて見える。まだあって間もないのにすでに格付けは終わっているようだ。
「…出てこないな。」
『出てきませんね。』
『のう、壮真。そこのロッカーの中に何かおらんかの?うっすらと気配がするのじゃ。』
玉藻は小狐の尻尾の先を掃除ロッカーの方に向ける。
「霊か?」
『うーん、おそらく霊ではないのう?これは…人かの?』
「確か霊に捕まったのが1人いるな。」
『1人かの?複数いるように感じるんじゃが…、琴音、そこの扉を開けい。』
『はーい、それでは開けますよ。1、2、3、ハイ!』
バンッと勢いよく琴音が掃除ロッカーの扉を開けるとドサドサと人が4人中から出てきた。
「楓!」
俺は4人の中に楓を見つけて慌てて駆け寄る。よく見れば、夏木さんと屋島さんもいる。もう1人はおそらく安浦瑠衣とかいう子だろう。4人とも縛られているので、ポーチからナイフを出し、縄を切った。
『ここまでしても出てこんのはおかしいのう?』
「確かにそうだな。捕まえたはずの獲物を誘拐犯の霊が逃すとは思えない。」
『実は、別の場所にうつ…きゃあ!』
バチッと音がなると、琴音が倒れた。
「なんだ!?」
俺はポーチから神酒を取り出す。琴音のそばに黒いローブを着た人が立っている。顔が真っ黒で見えないし、体型も判別しづらいがおそらく男だ。ということは、こいつが『神隠しの誘拐犯』なのだろう。長いので、今後は『神隠し』と呼ぶことにする。
『すみ…ません…』
『言わんこっちゃないのう。』
琴音は顔を歪めながら謝罪する。油断していてこうなったのだから、弁解の余地もない。もちろん、俺自身も油断していたところはあるので反省だ。
『…』
『神隠し』はこちらを警戒しながらローブの袖から縄を取り出し琴音を縛り上げる。琴音が近くにいるので神酒をかけられず、何もできない。
『くぅ!…この!潰れてください!』
『…』
『あれ?…潰れ…むぐっ!』
縄に封印効果でもあるのか、琴音が使う重力操作が発動しない。琴音は縄で猿轡をされた。
『仕方ないのう…壮真、妾を呼んでたも。』
「そうだな、頼む。」
俺はポーチから自分の血を入れた小瓶を出し、血を左手に垂らした。
「来い、『玉藻御前』。」
『妾、参上じゃ!』
『がぁぁ!』
『なっ!?うむぅ!!』
「玉藻!?」
玉藻に恐怖を抱いたのか、『神隠し』は反射的に玉藻に縄を飛ばした。縄は意識を持っているかのように玉藻をがんじがらめに縛る。
(しまったのじゃ!これでは、幻が発動できん!)
玉藻が幻を本物にする権能のせいで、幻を発動するためには言葉で宣言したり指を鳴らしたりワンアクションをする必要がある。
しかも、なんでもいいわけではなく、ある程度大げさな行動でなくてはならない。つまり、喋る事も出来ず、指も鳴らす事も出来ず、体を固定されてしまった状態では幻は使えない。
『がぁぁ!』
『神隠し』は玉藻を縛っている縄の端をグイッと思い切り引っ張り玉藻を引き寄せる。
『んっ!?』
「…くそっ!」
俺はとうとう1人となった。『神隠し』はおそらく女性しか縛らないので、捕まる心配はない。俺は煙幕がわりに塩を『神隠し』の顔に向かって投げつけた。
『ぐがぁぁ!』
とりあえず俺の姿を見えなくなったみたいなので、俺は玉藻のそばに近寄る。玉藻を縛る縄をナイフで切ろうとするが、やはり霊的な封印もあるのか切れない。
今度はナイフに神酒をかけて縄を切ろうとすると、今度はプツッと縄が切れた。動くようになった手で玉藻は指を鳴らす。
『…ふぅー、酷い目にあったのじゃ。』
『玉藻様も捕まってるじゃないですか!』
一瞬で玉藻と琴音を縛っていた縄は何処かに消え、俺達は『神隠し』から少し離れ、楓達のそばに立っていた。
『がぁぁ!』
『神隠し』は塩から解放され、こちらを睨んでいる。
「玉藻、『神隠し』は使える、弱らせておいてくれ。」
『分かっておる。が、妾を縛ったお返しに死なない程度に嬲り殺してくれるわ。』
『ぐがぁ!?』
玉藻が指を鳴らすと、『神隠し』の手足に細長い杭が刺さり固定された。いきなりのことで、『神隠し』も混乱を隠せないでいる。俺はそれを尻目に、琴音に話しかけた。
「今回じゃ、琴音の力は分からなかったな。」
『散々です。相手が悪すぎました。天敵といっても過言じゃないくらいです!』
「それもそうだな。玉藻にとっても天敵だったみたいだ。まぁ、それだからこそ、あの霊は使えるんだがな。で、もう大丈夫だから、左手に戻ってくれるか?」
『私もあいつに仕返しがしたいので、待ってください!…そりゃ!』
琴音が手を上から下に振り降ろすと、『神隠し』はベシャッと地面に崩れ落ちた。
『ふぅー、今回はこれで許してやります!私は戻らせてもらいます。また呼んでください!』
琴音はスウッと姿を消した。どうやら、左手に戻ったようだ。
「玉藻、そろそろいいぞ。」
『むぅ、もうかの?まだ、いけると思うんじゃが。』
「取り込むには十分だ。まぁ、一応、動きは封じておいてくれ。」
俺は『神隠し』に近寄り、左手で触れた。そのまま問題なく『神隠し』を取り込むことができた。
「玉藻は楓達の治療をお願いできるか?」
『お安い御用じゃ、ほれ!』
玉藻が手をバッと振るうと、楓達についていた縄の跡は綺麗に消えた。
「どうすっかな?ここももう崩壊しそうだし。」
俺達がいる教室は『領域化』により生成されたものだ。領域の主であった『神隠し』がいなくなったため、元に戻る、つまりは消滅しようとしている。
『とりあえずここを出た方がいいのう。』
「あー、もう朝になるな。この時間なら霊も出てこないだろう。玉藻、楓達を保健室、ここじゃない方の霊力の濃かった場所に連れて行ってベットに寝かせておいてくれるか。」
『分かったのじゃ。』
「あ、それと、4人のここ2日の記憶を消しておいてくれ。」
『記憶を消すのは、少し大雑把になるが構わんかのう?』
「1日程度のズレなら別に大丈夫だろう。」
『なら、妾にまかせるのじゃ。』
玉藻が指をパチンと鳴らすと楓達の体がふわりと宙を浮いた。そのまま玉藻を先頭に宙に浮いた楓達は教室を出ていった。
「さて、一応後処理しておかないとな。」
俺は左手から『神隠し』を出した。すると、教室の崩壊がピタリとやむ。
『ぐ…がが…』
俺が左手で取り込んだ霊は俺に危害を与えることはできない。なので、今俺しかいない状態で出すのは安全だ。
「いいか?俺はお前の主だ。言うことをきちんと聞け、分かったな?」
『…』
『神隠し』は顔を俺からそらす。どうやら、俺の言葉を理解して拒否しているようだ。意思疎通ができている霊は珍しいのでラッキーだ。
「聞かないなら、罰を与えるしかないな。」
俺が指を鳴らすと、『神隠し』に黒い電流が流れた。真っ黒な電気がパチパチと『神隠し』から発生する。霊体を削り取る技だ。左手で取り込んだ霊にしかできないが、本気でやれば、今の『神隠し』くらいなら、一瞬で消し飛ばせれる。
「もう一度聞く、言うことは聞け、分かったな?」
『…』
『神隠し』は今度は黙って頷いた。これで、霊的な制約ができた形になる。一応、破ることも可能だが、かなり弱体化する羽目になる。
「じゃあ、この領域を取り込め。領域には、お前の力の本質が宿っているからな。回復どころか強化されるはずだ。取り込むのはお前が願えばできるはずだ。」
『…』
そういうと、崩壊が止まっていた領域が『神隠し』を中心にぐにゃんとねじれ、俺達は教室の廊下にはじき出された。どうやら、吸収に成功したようだ。
「よし、じゃあ、戻れ。」
俺は『神隠し』を左手に取り込み、俺も保健室に向かった。スマホの時計を見ると、午前4時だ。徹夜なので眠い。保健室のドアを開けると、ベットに4人が寝かせれていた。
『遅いのじゃ!』
「わりぃ、やることがあったんだ。」
『仕方ないのう…ほれ、壮真も眠いじゃろう?膝枕なのじゃ。』
「あぁ…すまん、助かる。」
玉藻はソファの端に座り、太ももをポンポンと叩いて俺を誘う。俺も気が緩んだせいか眠いので、玉藻に言われた通りにソファに寝転がった。
『ふふっ、可愛のう。壮真がこんな素直になるのは初めてではないか?』
「うん、まぁ、そうかもな…5時になったら起こしてくれ…俺は寝る。」
そのまま、俺は眠りについた。
まだ、ブックマークなどがゼロ!誰か、私に恵みをください!