特別話 沙耶の大事件
特別話です!
春休みに起こった沙耶がピンチな事件の話です。
ちょっと18禁っぽいかもしれません。
今回は最初は沙耶視点の話になります。
どうぞお楽しみください。
春休みの終わり頃、私は暇になったので、少し外に出かけることにした。
(服でも買いに行こうかしら。)
今日は本来なら昼から行く予定であった合気道は先生が友達の結婚式に出席するとかで休みになった。
「ねぇ、君1人?」
チャラい格好をした男が近づいてきていきなり声をかけてくる。ナンパだ。自慢ではないが、私は可愛い方だと思う。もちろん、そうなるように努力もしている。だからか、よくナンパされるのだ。
「なんですか?」
一応、道を聞かれたりする可能性もあり得ないことはないので(億分の1くらい)、返事はする。
「暇だったら、遊ばない?」
「お断りするわ。」
私はさっさと話しかけてきた男を放っておいてスタスタと歩く。
「お、おい!」
「触らないで。」
男が私に触れようとしてくるので、するりと避ける。
「く、くそっ!おい!待てっ!」
「警察呼ぶわよ。」
私はくるりと振り向き、男を睨む。男は怯んで、一歩後ろに下がる。私はそれを確認した後、駅に向かった。電車に乗り、大きいショッピングモールが近くにある駅で降りる。
「ふぅ、早々に嫌な目にあったわ。」
いくら、ナンパされ慣れているとはいえ、ああいう欲望に満ちた目で見られるのは悪寒が走る。
「さてと、何かいいものはあるかしら。」
気持ちを切り替え、洋服スペースの方へ向かう。何店舗かあるので、気に入ったのが見つかるまで、物色するつもりだ。
「あ、意外といいかも。」
私が目をつけたのは黒い長袖の服と赤と黒のチェックのスカートだ。肌寒い今の季節にちょうど良さげだ。下手に装飾がなく、無地であるのが気に入った。
値札を見ると、少し予算オーバーだが、買うことにした。一応、試着室に入り、着てみる。
「…うん、いいかも。」
実際に着てみて、予想以上にしっくり来たので、元の服をたたんでバックに入れ、服を着たまま、外に出た。すると、試着室の外に店員が待っていた。
「これ、買います。」
「はい、お買い上げありがとうございます。こちらへどうぞ。」
レジに案内され、値札のタグを切ってもらい、お金を払った。私は新しい服を買えて少し気分が高揚していた。
「ふふーん、時間が余ったわね。どうしよう。」
うろうろとショッピングモールの中で時間を潰した。そろそろ午後4時になる頃なので、ショッピングモールを出て駅に向かった。途中、男2人にナンパされたが、周りの人が警察を呼んだのか、すぐに警察が来てナンパしていた男2人は逃げていった。
電車に乗り、行きと違い、空いてたので席に座り、楓とチャットで話していた。楓からポンッと写真が届く。ホラースポットが書かれている冊子のページだ。いなかったと書かれた付箋が貼ってある。
「ふふ、楓はまだホラースポット巡りなんかしてるのね。あんな怖いの何がいいのかしら。」
私はホラーが嫌いだ。なんというか、怖い。小さい頃、ホラー映画を見て泣きじゃくっていたと聞いた。多分、本能的に無理なんだと思う。そうこうしていると駅に着き、電車を降りる。
夕方になり空がオレンジ色になってきていた。ふんふーんと上機嫌に鼻歌を歌いながら帰宅している途中、声が聞こえた。少し気になって声がする方へ向かう。
「…だ…す…だれ…けて…」
声がする方へ近づくと、だんだん声が鮮明に聞こえる。
「…誰か、助けて!」
今度はキッチリ聞こえた。私は急いで声のした方に向かう。人の少ない路地で男性2人が女子1人を捕まえていた。
「おいおい、そんな嫌がんなよー。」
「嫌よ嫌よも好きのうちってな!」
「まじそれだわ!」
「やめて!」
「やぁっ!」
私はすぐに女子を捕まえている男の顎を蹴り飛ばした。
「うごっ!?」
脳震盪で立ってられなくなったのだろう、パタリと倒れ、ピクピクしている。
「立って!逃げ…っ!」
首の後ろに何かが触れたと感じた瞬間、バチッと音が鳴り、私は意識を失った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「んん…んむ!?」
私は目を覚ますと屋内にいた。体が動かないように縛られていた。縄抜けをしようにも、キツすぎて動くことすらままならない。猿轡をかまされているので喋ることもできなかった。
「んん!うむぅ!」
力任せに引きちぎろうとしても縄はビクともしない。 縛られたままでも、外を出ようとしたが、縄の端が壁にくくりつけられているので、一定以上の距離は動けなかった。
「うう!」
ガチャと扉が開き、襲われていたはずの女子と襲っていた男2人が入ってきた。
「おっ!目覚ましたか。」
「まさか、あんたが釣れるとはな。」
男の1人がそう私に告げる。私と面識があるらしい。私はハッと思い出した。今日、一番最初に私にナンパしてきた男だ。
「馬鹿ねぇ、罠とも知らず。」
襲われていた女子がそう言う。私ははめられたみたいだ。男から助けようと思った結果がこれだ。女性は男には勝てないということなのだろうか。
「んん!んむむ!」
喋ろうとするが、猿轡が邪魔で喋れない。
「あぁ、外してやるよ。騒ぐなよ、騒いだら、もう一度つけるからな。」
男の1人が私につけていた猿轡を外す。
「…うあ…ここは?」
最初はうまく口が動かず、曖昧な発音になる。
「ここか?さっきの場所から近い廃ビルさ。人気が少ないからこういうとき便利なんだ。」
男は自慢げに言うが、何も誇れたことではない。私は男達といる女子をじーっと見た。
「…どうして?」
「あ、私?どうして、こんなことするのかって?楽しいからに決まってるじゃない。」
女子はそういうとニヤリと笑った。
「…無理矢理いうこと聞かされてるんでしょう?助けてあげるからね。」
「…そういう正義面はムカつくんだよ!」
「うっ!」
女子が私の顔を蹴り飛ばす。避けようとしたが、身動きが取れず、綺麗に当たってしまう。
「おいおい、やめろ。今からやろうってのに、顔を傷つけるのは萎えるぜ。」
「ごめんごめん。ちょっとイラついちゃった。」
「今日は俺がやっていいっすか?」
私にナンパしてきた男が言う。
「こんな上玉をか?まぁ、いい。次の女は譲らねぇぞ。」
「最近ご無沙汰すから。俺、この女狙ってたんすよね。この罠に引っかかってラッキーでした。」
「このタイプの女は噛み付いてくるぞ、普通にやってしまえ。」
私は最初何を言っているのか分からなかったが、男が私の胸に手を伸ばしてきたことで分かってしまった。
「い、嫌!来ないで!」
私は足を振り回そうとするが、その前に足を抑えられる。いくら強くても、女子では成人男性の力には勝てない。
「…うお、柔らけぇ。」
「…い、嫌ぁ…やめて…」
男は気持ち悪い手つきで胸を触ってくる。私は涙を流すのをこらえていた。
「泣き喚けよ、ほらほら。」
「うう…」
「ほれほれ!」
男は私のタイツをビリッと破き、素肌に手で触れる。
「朝と服が違うな。もしや、俺のために新しい服買ってくれたのかぁ?嬉しいなぁ、ええ?」
「…嫌ぁ!やめて!」
一生懸命身をくねらすが、ギチギチに縛られていてほとんど動けない。
「…誰かぁ!助けて!」
「アハハ!私と同じこと言ってるよ!」
「くく、いい声で泣くな。」
するとバンッと部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。すると、私に触れていた男が視界からいなくなった。
「てめぇら!沙耶に何してんだ!」
「…壮真?」
【壮真】
楓から連絡があり、俺は沙耶を探して街を駆け回っていた。午後7時、門限をとっくに過ぎているのに、家に帰ってないらしい。
楓のところに連絡が来たので、チャットで連絡したが返信がなく、心配なったので俺に連絡してきたらしい。
「くそっ!どこだ!」
街の知り合いに聞き込み調査をしているが、朝、ナンパされて撃退していたという情報しかない。
「こうなったら…」
あまりやりたくはないが、右眼で意思疎通ができる霊を探した。写真を見せて聞いてみるが、誰も知らない。元々、意思疎通ができる霊は少ないので、効率は悪い。俺は楓に電話をかける。
『もしもし、見つかった!?』
「いや、いねぇ。」
『私も探す!』
「いや、夜は危険だ。しかも、沙耶が帰ってこないってことは何か手に負えない事件に巻き込まれたってことだ。お前がいても無駄だ。」
『…でも。』
「でもじゃねぇ!…あぁ、くっそ、わりぃ、頭に血が上ってた。」
『ううん、大丈夫。』
「そうだ!楓!お前、沙耶のアカウントしらねぇか?」
『SNSの?』
「いや、スマホ本体のだ。位置情報見れるんじゃないのか?」
『っ!沙耶のお母さんに聞いてみる!』
「おう、急いでくれ!俺も聞き込みは続ける!」
光明が少し見えてきた。俺は聞き込み調査を続ける。数分後、楓から電話がかかってきた。
『壮真!アカウント分かるからできるって!今、沙耶のお父さんがやってるみたい!』
「ナイスだ!位置情報聞いといてくれ!急いで向かう!あ、一応、警察に連絡はまだしないでくれと言っておいてくれ!」
『分かった!言っておくし、聞いたら、すぐ位置情報送るね!」
すぐにピロンと位置情報が書かれた地図が写真で送られてきた。
「近い!そこのビルか!?」
灯台元暗しというか、すぐそばの廃ビルのようだ。俺は急いで廃ビルに入る。すると、かすかにどこかから声が聞こえる。
「上か?」
俺は崩れそうな階段を急いで登り、耳を澄まして音の発信源を探った。2、3階登ると汗で髪がベッタリと顔に張り付いていて邪魔なので、髪をかきあげる。汗のおかげでそのまま固まった。もう1階上がると声が鮮明に聞こえるようになった。
『…誰かぁ!助けて!』
俺は沙耶の悲痛な声にカッと頭に血が上り、何も考えず、声が聞こえた部屋に突撃した。バンッと思い切り扉を開けると、沙耶に覆い被さる男が目に入る。そこに一直線に向かい、思い切り蹴飛ばした。男は吹き飛び、壁にぶつかる。
「てめぇら!沙耶に何してんだ!」
「…壮真?」
沙耶は縄で縛られタイツを破られていた。沙耶が必死に涙をこらえている様子に俺は怒りを燃やす。俺はもう1人の男に殴りかかった。
「なんだ、お前!やんの…おげっ!」
「このクソ野郎が!」
「うごっ!」
顔と腹に本気で一発殴る。男は血とゲロを同時に吐きだしたまま、気絶する。俺はそれに呆然としている女を睨んだ。
「ひっ!わ、私は脅されてて仕方なくやってたんだ!」
「そうか…」
「そ、そう。だから見逃してくれ!」
「そうだな、そうなら仕方ない。」
「だ…」
「とでも言うと思ったか?」
「えっ?」
女が喜んだ顔が凍りつく。
「聞こえてんだよ。お前、沙耶の悲鳴に笑ってただろうが!」
「く、くそぉ!」
女はバッと手に持った物を俺に押し付けようとする。俺は右手で手首を掴み、それを落とさせる。
「スタンガンか。」
バキッと足で踏んで壊す。俺は左手で女の頭を掴んだ。
「な、何、うわぁぁぁ!!やめっ、やめてぇぇぇ!」
そう叫ぶと女から力が抜ける。俺は女の頭から手を離すと女は地面に倒れた。別に殺したわけじゃない。
ただ脳内に俺の左手に溜まった霊の呪いを一部送り込んだ。気を失うほどの悍ましい光景を見たはずだ。ショック死しているかもしれないが知ったこっちゃじゃない。俺は沙耶を縛っている縄を切った。
「壮真じゃない?…誰?」
「壮真であってるよ。」
「えぇ!壮真?ほんとに?」
なぜか俺が壮真であることを沙耶が疑っている。沙耶がじーっと俺の顔を見たことで原因が分かった。
「あぁ、沙耶に素顔を見せるのって幼稚園以来だっけ。」
俺はいつも髪を下ろして顔の上半分を隠しているが、今は髪を上げて、顔を晒している。
「で、立てるか?」
「えぇ、立て…あれ?腕と足がうまく動かない。」
「縛られてたせいでうまく血が通ってなかったんだ。暴れるなよ。」
俺は沙耶をお姫様抱っこで持ち上げる。
「くそ、ふざけんなぁぁ!」
最初に蹴り飛ばした男が復活し、沙耶を抱えた俺に飛びかかってくる。
「ひっ!」
沙耶がそれに怯えて、俺にしがみつく。
「っ!」
俺は沙耶をかばうように男に背を向けると、男はナイフを持っていたのか、背中を切りつけられる。カッと背中に熱くなるが、俺は気にせず飛びかかってきた男を蹴り飛ばし、足で頭を壁に押し付ける。
「寝てろ。」
男はバタバタと暴れ、足を手で退けようとしていたが、力を入れて踏んでいるので退かすことはできない。そのまま、徐々に動かなくなった。
「すまん、一旦、降ろすぞ。」
「い、嫌。…あっ!だ、大丈夫だから。下ろしていいわよ。」
沙耶は一瞬ギュッと俺の服を掴むが、すぐに手をパッと離す。
「強がんなくていいぞ。とりあえず外に出よう。」
俺は沙耶をそのまま、部屋の外に連れ出す。そこで下に降ろし、もう一度部屋の中に入った。
「…俺を怒らせたのがお前らの人生最大の間違いだ。せいぜい死後に恨め。」
俺は沙耶を縛っていた縄で部屋の中心に3人をまとめて縛って、外に出る。
「…壮真!あっ、嫌なんでもないわ。」
俺が部屋から出てくるとパッと顔を明るくするがすぐに取り繕う。
(ほんと意地っ張りだな。)
「食っていいぞ、『暴食』」
扉に背を向けてもたれながら左手を扉にくっつけて、部屋の中に俺の左手に封印されている1体を出す。『暴食』は7つの大罪から名付けた。名付けたと言っても、通り名のようなもので実際の名前ではない。
こいつは出してる間、何でもかんでも食い、しかもそのエネルギーで進化する。エネルギーの多いものから食べるため、まず真っ先に部屋の真ん中にいる3人を食べるはずだ。
『うわぁぁぁ!』
気絶させておいた男の1人が目を覚ましたのか悲鳴をあげる。
「な、何?」
沙耶は不安そうに俺を見つめる。
「安心しろ。部屋の中で縛っておいたから、驚いているだけだ。」
「そ、そう。」
俺は沙耶はニッコリ笑いかける。沙耶はそれを見て、安心したように顔を緩めた。
(終わったな。)
扉からゴリゴリと音が鳴り始める。エネルギーが多い人を食い終えたので、俺らがいる扉を食い始めたようだ。
「戻れ、『暴食』」
左手の封印に『暴食』を戻す。そして、俺はもう一度、沙耶をお姫様抱っこした。
「きゃっ!」
「あぁ、すまん、嫌か?」
「う、ううん。ありがとう、なんか安心するわ。」
俺はそのまま階段を降りて、廃ビルから出ると、車で沙耶の両親と兄が来ていた。
「だ、誰だい?」
沙耶のお父さん、健斗さんがそんなことを言う。
「えっ?俺です、壮真です。」
「壮真君!?うそぉ!」
沙耶のお母さん、彩香さんが叫ぶ。
「髪を上げると随分イケメンだね。」
沙耶の兄、陸斗さんがそんなことを言う。
「そんなに違います?」
「あ、あの、壮真?恥ずかしいから、降ろしてくれない?」
「あぁ、すまんすまん、降ろすぞ。」
俺は沙耶を足からゆっくり降ろす。沙耶は一瞬立ったように思えたがふらっと倒れそうになった。
「おっと!」
健斗さんが沙耶が倒れそうになるのを肩を掴んで防ぐ。
「っ!きゃあ!」
「おわっ!」
「あなた!?」
どんっと沙耶は自身のお父さんを突き飛ばした。彩香さんは突き飛ばされた健斗さんのそばに駆け寄る。
「あ、あれ?」
沙耶は体が震えながら呆然としている。
「だ、大丈夫かい?」
陸斗さんが沙耶に触れようとすると、身を引き震えながら、陸斗さんのことを見る。
(これは…)
「いつつ、これはどういうことだ?」
健斗さんは首をかしげる。
「予想ですけど、沙耶は男性に性的なことをやられそうだったんです。やられる前に助けることはできたんですけど、そのトラウマで男性がダメなのかもしれないです。」
「なら、私は大丈夫ね。」
彩香さんが沙耶に近づく。手で触れようとするとビクッと沙耶は反応して、彩香さんの手を払いのける。
「…あっ。ご、ごめんなさい。」
「なぜ、妻まで?」
「うーん、沙耶を捕まえたグループに女がいたので、そいつに何らかのトラウマを与えられたのかも…詳しいところは俺にも分かりません。」
「そもそも君はどうして大丈夫なんだい?」
陸斗さんがもっともな質問をする。
「多分、沙耶を直接救ったのが俺だからではないかと。」
「なるほど、仕方ない。壮真君、一人暮らしだったよな?」
「はい。」
「沙耶が落ち着くまで家に住んでくれないか?」
「うーん、それはちょっと風聞的によろしくないのでは?」
「仕方ないだろう、君以外、沙耶の相手をできる人がいないんだから。苦渋の決断だ。」
「…そうですね。分かりました。落ち着くまでいさせてもらいます。」
俺は沙耶を放っておくことはできないのでうなずいた。
「では、沙耶を車に乗っけてくれるかい。」
「大丈夫。立てるわ。…あっ!」
「よっと。」
立とうとするも、やはり力が入らないのか、ぐらりと倒れこみそうになるのを支え、お姫様抱っこをする。
「ほれ、遠慮するな。」
「…ふぅ、ごめんなさい、迷惑かけるわ。」
「別に迷惑じゃねぇよ。怖い目にあったんだろ?お前は強がりだからな、俺らの前じゃ泣けないだろうが、自分の部屋に戻ったらしっかり泣けよ。」
「うっ、うるさいわね!別に強がりじゃないわよ!」
「ま、いいさ。ほれ、乗れるか?」
沙耶を車の入り口まで連れて行き、乗りやすいように少し前かがみになる。
「ちょっと待って!」
彩香さんが叫ぶ。俺の背中の傷を見られたらしい。
「彩香さん、黙っておいてください。」
「で、でも。」
「見た目よりかなり浅いです。安心してください。」
「ど、どうしたの?」
沙耶が車の中から不安そうに俺達のことを見る。多分、傷のことがバレれば自責の念で沙耶は俺とすら会話しないようになるだろう。それは沙耶の精神状態から見るとまずい。
「何でもない。安心しろ。」
俺も沙耶の隣に乗り込む。その隣に彩香さんが座ったので、俺は小声で話しかけた。
「(すいません、座席を汚してしまって。)」
「(構わないわ。娘のためだもの。)」
「何かあったの?」
沙耶は俺が彩香さんと小声で話しているのに気づく。
「何でもないさ。一応、俺も荷物を取りに一旦、家に戻らないといけないからな。そのことについて、話してただけさ。すいません、健斗さん、俺の家寄ってください。一応、着替えとかを持ってきます。」
「陸斗の服でいいんじゃないか?」
「俺に精神的苦痛を与える気ですか?背の高い陸斗さんの服を着たら、俺の小ささが丸わかりじゃないですか。差を感じて、泣きますよ。」
「僕、一応、平均身長くらいなんだけど。」
「そうね。壮真は背が小さいものね。」
「俺より小さいお前が言ってどうす…る?」
俺は少し頭がクラッとして意識が遠のきそうになる。沙耶の前で意識を失うわけにはいかないので、気合いで意識を保つ。
(血を流しすぎたか。思った以上に傷が深いな。)
「壮真?」
「大丈夫だ。寝不足なんだ。徹夜でゲームしてたからな。」
「なんだ、そうだったの。」
俺は沙耶が不安そうに聞いてくるので、笑いかけながら答える。
「ついたぞ。」
「すいません、一旦失礼します。(彩香さん、一応、血のことを隠しておいてください。)」
「(えぇ、分かってるわ。)」
彩香さんに降りてもらい、俺は沙耶に背中を見せないように車を降りる。幸い、外はもう暗いので座席についた血の跡も見えないはずだ。
「沙耶、すぐ戻ってくるから安心してくれ。」
「う、うん、大丈夫だから。」
沙耶はコクリと頷く。俺は笑いかけると、そのまま家の鍵を開け中に入る。
「うおっ!」
思った以上に手足の感覚がなく、玄関の段差に足を引っ掛ける。
「来い、『玉藻御前』。」
ちょうどダラダラ流れている血を利用し、左手の力を強化して玉藻を呼び出した。
『壮真!』
左手の中から見ていたのか、心配した表情で玉藻は現れた。
「…わりぃ、傷を治してくれるか?きっぱり消してくれ。」
『分かったのじゃ!』
玉藻が俺の傷をポンと触ると背中の違和感がなくなる。周りを確認すると、あれだけ流れていた血が消えていた。
『破けてたシャツも直しておいたのじゃ。』
「すまんな、本当だったらねぎらってやりたいんだが…」
『分かっておる。今度、言うことを聞いてくれればいいのじゃ。それではの。』
スッと玉藻は姿を消した。今度、目一杯ねぎらってやろうと思いながら、2階に行き、着替えの服と通帳やお金などの貴重品をバックに詰め、服を着替える。
5分もかからず、準備を終え家を出る。きちんと家の鍵を閉めた。車に近づくと彩香さんが一旦外に出る。俺は沙耶の隣に座った。
「待たせたな。」
「大丈夫よ。そんなに待たされてないわ。」
「泣いてもいいんだぞ〜。」
「ばっ!馬鹿、泣くわけないじゃない。」
「すまんが、壮真くん。」
「何ですか?健斗さん。」
健斗さんがなぜか話しかけてくる。バックミラー越しに健斗さんの顔を見ると、顔を引きつらせてこめかみをピクピクさせている。俺はそっと目をそらした。
「娘とイチャイチャされるのはちょっとどうかと思うんだ。殺したくなるから、やめてくれると助かる。」
「あはは、殺すだなんて、冗談きついですよ、健斗さん。」
「この顔が冗談に見えるか?」
バックミラー越しにもう一度、健斗さんの顔を見ると鬼のような表情をしている。元の健斗さんの優しそうな面影は見る影もない。俺はゴクリとのどを鳴らした。
「お父さん!私と壮真はそんな関係じゃないわよ!」
「なら、いいけどね。でも、娘が男とイチャイチャしてるのかと思うとはらわたが煮えくりかえりそうになるんだ。」
「大丈夫です、健斗さん。沙耶とイチャイチャしようなんかしたら、沙耶に投げ飛ばされます。」
「それは実体験かな?」
「いえ、ただ見てただけです。」
「娘が男にイチャイチャされそうになってたのをただ傍観していたということかね?」
(…健斗さん、思ったよりうざいな。いつもはこんなんじゃないのになぁ。)
健斗さんはいつもは優しい人なのに、今日は気が立っているのか娘愛がいつもよりひどい。別にそれはいいんだが、俺に八つ当たりするのはやめてほしい。
「いえ、助けようとした瞬間には投げ飛ばしてました。」
「…そうかい。なら、まぁ仕方ないね。」
俺は健斗さんの怒気がおさまったのを感じ、はぁとため息をつく。すると、彩香さんが小声で話しかけてきた。
「(主人がごめんなさいね。やっぱり犯人にかなり怒ってるみたい。それと、背中の傷は大丈夫?)」
「(犯人達とはもう会うことはないので、安心していいですよ。傷に関しては大丈夫です。もう血も止まってますし。)」
「(会うことはない?)」
(どうして断言できるのかしら?それに背中の傷はそんなに浅くはなかったはずだけど…)
健斗さんは医者、彩香さんは看護師をしている。彩香さんは傷を見慣れている自分が傷の深さを見間違えるだろうかと首を傾げている。
「(脅しておいたので大丈夫なはずです。一応、縛っておいたので警察にすんなり捕まってるはずですよ。)」
「(そう?まぁ、当面は大丈夫そうね。)」
「ついたぞ。」
「沙耶、1人で歩けるか?」
「もう大丈夫よ。それとも、私を抱き上げたかったのかしら?」
「あぁ、残念だな。珍しく沙耶が素直で可愛かったのに。」
「かわっ!?こ、この!壮真のくせに!生意気だわ!」
「壮真くーん?」
「あ、やべ。嫌だなぁ、健斗さん。これはイチャついてるわけじゃないですよ。」
ギギギと鬼のような形相で健斗さんが俺の方に振り向く。俺は両手を挙げ、降参のポーズをとった。
「まぁいい。」
「プクク、災難だったね。」
笑いをこらえながら陸斗さんがすれ違いざまに俺の肩をポンと叩く。
「ほんとですよ。」
「大丈夫、主人も明日には元に戻ってるわ。さっきのも沙耶を気遣っての対応でしょう?」
いつのまにか彩香さんが隣に立っている。
「彩香さんにはバレバレでしたか。」
「ふふ、いいのよ。敬語なんか使わなくても。私はいわば家族のようなものよ。これだけ、長い年月一緒にいればね。」
彩香さんはパチリとウインクをしてくる。年の割に随分と可愛らしいことが似合うなと俺はそれを見て思う。
「そうですね、俺も沙耶は家族みたいなものだと思ってますよ。肉親がもういませんから、幼馴染が家族みたいなものです。まぁ、あいつらにとっては迷惑かもしれませんが。」
「いいえ、きっと大丈夫よ。少なくとも、沙耶は貴方のこと、家族だと思ってるわよ。そうじゃなきゃ、頼ったりはしないわ。」
「そうですかね…この敬語はもう少し慣れたら変えますよ。」
「そう?じゃあ、早く慣らさないとね?そのまま、お婿さんに来てくれるといいんだけどね?」
沙耶さんはふふふと笑いながら俺をからかう。
「勘弁してください…沙耶も嫌がりますよ。」
「今ならいけるんじゃない?」
「弱みにつけ込むのは嫌ですよ、彩香さんもわざと煽らないでくださいよ。沙耶は魅力的ですから、お膳立てされたら俺もどうなるか分かりませんよ?」
「あらあら、口が達者ね。」
「本心です。」
「遅いわよー。何話してるのー!」
沙耶が家の前で手を振っている。表向き、ある程度は回復したみたいだ。もし空元気だとしても、あれだけ元気があるなら大丈夫だろう。俺と彩香さんは顔を合わせて笑った。
「あー、何笑ってるのよ。」
「沙耶の恥ずかしい話を話してただけよ。」
「お母さん!?」
「彩香さんのは嘘だ。沙耶が可愛いって話をしてただけだな。」
「かわっ!?2人してからかわないで!」
「あら、壮真くんが言ってたのは本当よ。沙耶のこと、『魅力的です』って!」
「…彩香さんも声に出して言わないでください。改めて言われるとらしくない発言をしたなと思ってるんですから。」
沙耶は既に脳内がオーバーフローを起こしたのか、硬直している。仕方ないので、お姫様抱っこをして沙耶の家に入った。
その後、翌日に警察が来て、誘拐犯が死んでいたことについて事情聴取された。ほとんどこちらを犯人扱いしてくるし、警察が男だったため、沙耶が怯えているのに、ちょっかいをかけたりしたので健斗さんがブチ切れたりもした。そこで玉藻をもう一度呼び出して、無理矢理解決させた。
沙耶は、翌日には女性、彩香さんとは触れ合えるようになっていたが、男性、健斗さんや陸斗さんと触れ合えるようになるには思った以上に時間がかかった。最終的に身内とは触れ合えるようになったが、沙耶はやはり外は怖いらしく、特にナンパには拒絶反応を示すようになった。
そのまま春休みが過ぎ、高校が始まったが、沙耶の外出がままならないため、そこから1ヶ月弱、学校に行くことはなかった。その間、楓が提出物や授業のノートをとって持ってきてくれたのはかなり助かった。そして、そろそろ学校に行かないとやばくなってきた頃、沙耶が勇気を出して学校に行った。
もちろん、俺も初登校なので、流石に緊張している。結果から言うと、見た目が美少女の沙耶はすぐにクラスに馴染んだ。男子が群がっていたが、沙耶はいつもの気の強さで追い払った。周りの女子が率先して男子を追い払ったのもかなり助けになったのだろう。
ちなみに俺は見た目もそこまで特徴的ではないので、楓や拓実以外にあまり相手にされなかった。数名男子が沙耶との関係を聞きに来たがそれだけだ。これで沙耶誘拐事件は全て解決した。
今までありがとうございました。
これで、『現代霊怪記』は完結とさせていただきます。
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