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赤くなる頬

 何を言えばいいのかわからなかった。ただ背中から伝わる温度にアリシャの動きが止まる。カミルは腕に力を入れ、アリシャをきつく抱きしめた。アリシャの頬が徐々に赤く染まっていく。

「ヴー!!!」

 そんな光景にウラノスが立ち上がった。カミルに対して威嚇する。

「ウ、ウラノス、違うの!大丈夫、私たち、その…仲良しだから!!」

 一歩踏み出そうとしていたウラノスにアリシャは思わず叫ぶ。そんなアリシャの頭にカミルは自分の頬を近づけた。

「そうそう。俺たち仲良しなの!だから、威嚇してくんな。白龍だか何だか知らないけど、アリシャは俺の婚約者なんだよ!」

 カミルの言葉にアリシャの頬はさらに赤くなる。勝手に連れ出したウラノスへの警告のようなものなのだろう。それでも婚約者として大切にされている気になってしまうあたり、単純だなとアリシャは自嘲的な笑みを浮かべた。

 ウラノスはまだ威嚇をしていたが、アリシャを抱きしめているカミルに何ができるわけでもない。しばらくして、渋々、腰を下ろした。けれど鋭い眼光は2人に注がれている。

「カ、カミル王子、その…離れませんか?」

「嫌だ」

「…」

「心配させたアリシャが悪い」

 そう言われてしまえば何も言い返せない。アリシャはどうすればいいのかわからず、助けを求めるように辺りを見回した。

「カミル、いい加減にしておけよ。アリシャ様をこれ以上困らせるな」

 苦笑いを浮かべライモンドが2人に近づく。

「ライモンド様」

 どこか安堵したような声色。それが気に入らなかったようで、カミルはアリシャに回している腕に力を込めた。

「ライ、他の奴らは?」

「全員持ち場についた。問題ない」

「なら、いい」

「カミル。気持ちはわかるけど、もう離してやれよ」

「…」

「いいじゃないか。戻ってきてくださったんだから」

「そういう問題じゃない」

「そういう問題だよ。あんまりしつこくすると嫌われるぞ」

「…」

「嫌われてもいいのか?」

「…わかったよ」

 不満げな表情を浮かべたまま、ゆっくりとカミルが離れていく。冷めていく温度にアリシャは一つ息を吐いた。緊張からかじんわり汗をかいたようで、風がやけに涼しく感じた。 

「でも、本当に心配したんですよ、アリシャ様。まあ、もちろん傍を離れた私たちにも落ち度はありますが」

「い、いえ。そんなことは…」

「アリシャ様、もう勝手に白龍に乗ってこの王宮から抜け出さないでください。私たちにとってあなたは大切な人なんですから」

「……はい。申し訳ありませんでした」

 アリシャは深々と頭を下げた。長い髪が地面につきそうになる。

「わかったならもう、いい」

 カミルはアリシャの肩に触れ、顔を上げさせた。綺麗な瞳の青はまっすぐにアリシャを見ていた。その表情が優しくて、アリシャはもう一度小さく頭を下げる。

「はい。…ありがとうございます」

「うん」

「あの…カミル王子…」

「何?」

「勝手だということはわかっているのですが、…少しだけ、ウラノスのところに行ってきてもいいですか?」

「……もう、どっか行かないって約束するなら」

 少しだけ考えるようなそぶりを見せた後、カミルは不満げにそう言った。どこか小さい子どものような言い方にアリシャは小さく笑い、けれど大きく頷いた。

「はい。もう勝手にどこにも行きません」

「なら、…いいよ」

「ありがとうございます」

「アリシャ様、あの白龍に名前を付けたのですね」

 嬉しそうに笑うアリシャを見てライモンドがそう尋ねる。

「ええ。ウラノスと」

「いい名前ですね」

「ありがとうございます」

「でも、ずっとここで過ごせるわけではないので、寂しいですね」

「…え?」

 予想外の言葉にアリシャはライモンドを注視した。ライモンドはゆっくりと視線をウラノスに移す。アリシャもつられるようにウラノスを見た。どこか退屈そうに眼を閉じているが、時より、思い出したようにこちらに視線を向けた。自分を心配しているのだろうことがアリシャにはわかった。

「野生の聖龍は、山の澄み切った湧き水しか飲まないんだ」

 カミルがアリシャの疑問に応える。

「もちろん、慣れればこの辺りの川の水も飲めるようになるでしょう。実際、国軍で育てている聖龍たちは飲めますからね。しかし、それには時間が必要です」

「そう…なんですね」

「聖龍が住む山は遠く離れている。白龍が本気になって飛べばそこまで時間はかからないのかもしれないけど、…そろそろ帰った方がいいだろうね」

「…」

「でも、あいつはアリシャのことがよほど心配らしい。きっと、アリシャが言わない限り山には帰らないと思うよ」

「…はい」

「アリシャ様、今日のところはウラノスにも山に帰るよう説得されてはどうでしょうか?」

 ライモンドの言葉にアリシャは力なく頷いた。寂しい。本音を言えば、寂しくて仕方がない。この場所にウラノスがいてくれるだけで、安心する心が悲鳴を上げる。けれどウラノスを思えば、ライモンドが言うことが正解だとわかるから、苦しくなる。

「…ま、アリシャのことが大好きみたいだから、何もしなくても勝手に会いに来ると思うけどね」

 カミルの言葉にアリシャは俯いていた顔を上げた。

「カミル王子…」

「だから、カミルでいいってば」

「…」

「あいつ、…ウラノスは君が大好きで、悔しいくらい君もウラノスが好きなんだから、すぐに来るさ。だから、…今は帰るように言えばいい。君が寂しくなったら、今日みたいに勝手に飛んでくると思うからさ」

「はい」

 アリシャは頷くとカミルとライモンドに軽く頭を下げる。そしてウラノスのところに向かった。

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[一言] なるほど 綺麗な水が必要なのか
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