南へ
すみません、すっかり、北と南間違えてました。2020.12.31修正しました。
あまりの声量に、一拍遅れてカミルたちも耳を塞ぐ。
「くっ!」
「アリシャ!!」
カミルが叫んだ。耳に手を当てたまま、アリシャの元に駆け寄る。アリシャはカミルに身体を寄せた。
嵐のような叫び声が止むと、カミルはアリシャを支えながらウラノスを見る。ウラノスはどこか面白くなさそうにしながら、空を見上げた。つられるように視線を空に向ける。
「なっ…」
「…聖…龍…?」
そこにあったのは、青天の空を隠すように、白と薄水色の龍たちがひしめき合うように飛んでくる姿。数え切れないその数に、皆が目を丸くする。
「あんなに…」
メイソンが思わずそう漏らした。それほどの光景だった。いくつかの山から湧くように飛んでくるそれは、カミルの予想を遥かに超える数である。
「これなら、確かに」
今度はライモンドが呟いた。空を覆い尽くす聖龍を見て、戦う意志がある者は、どれほどいるのだろうか。最新鋭の大砲を持っていたとしても、この大群に撃つ勇気は自分にはないだろうなとライモンドは思う。
空を隠すほどの聖龍たちは、鳴き声をあげながら、軍隊のように二手に分かれ始めた。方角は、北と南。おそらくウラノスの指示で、国境沿いに向かっていくのであろうその群れの中から、3頭の薄水色の聖龍がこちらに向かって来るのが見えた。
「伏せろ!」
勢いを緩めず、急降下してくる聖龍に、カミルは思わず声を出す。アリシャを支えたまま、しゃがみ込むと、剣を地面に刺し、風圧に耐えた。少し視線を動かせば、ライモンド、ヤード、メイソンの3人も同じように風圧に耐えている。
「ヴー!!」
3頭の聖龍は地上に降りると、恭しくウラノスに頭を垂れた。カミルたちは人間同士のようなその光景を横目で見ながら、立ち上がる。
「ヴル」
ウラノスが声を上げた。その声に反応するように、3頭は、しゃがみ込むようにしながら、こちらに背を向ける。同じようにウラノスも体制を低くし、首を地面に付け、アリシャを見た。
「…ウラノス、もしかして、背中に、乗せてくれるの?」
「ウルッ!」
肯定を示すような声に、アリシャはカミルを見る。
「背中に乗せてくれるみたいです」
大きな白龍とそれより少し小さい薄水色の聖龍。それらがこちらの動きを待つようにじっとしていた。
「そうすると、こちらの3頭は俺たちを乗せてくれる、ということでしょうか?」
「ああ、おそらくな。こちらの3頭に俺とメイソン、ライモンドが乗り、ウラノスという白龍にお二人が乗るのだろう」
「…俺が、ウラノスに?」
ヤードの言葉にカミルはウラノスを見るが、視線は合わない。けれどヤードは続ける。
「そうでなければ、4頭降りてくるはずです」
「…少しは信頼してもらえたということか」
「そうだといいな」
ライモンドの答えに、カミルは頷いた。そうして、ライモンド、ヤード、メイソンの3人の名前を呼ぶ。
「はっ!」
声のトーンが変わったカミルに、3人は機敏な動きで姿勢を正す。
「今や、北も南も逼迫した状態であることに変わりはない。だから二手に分かれようと思う。俺とアリシャは、ウラノスとともに、南へ向かい、ファルム隊長たちと合流する。お前たちは、北へ向かってほしい。すでに戦場に向かってくれたであろう聖龍を敵に見せ、戦意を喪失させる」
「はっ」
「できるだけ血は流したくない。味方の血も、敵の血も。…そして、もし、……この作戦が失策に終わったのなら、そのときは、…戦おう。北での交渉および判断は、ヤード隊長に任せる」
「御意」
ヤードが胸に手を当て、頭を下げた。カミルは頷き、そして今度はアリシャを見る。
「アリシャ、本来なら、君を危険な場所に連れて行きたくはない。けど…」
どこか不安そうなカミルの瞳に自分の姿が映るのがアリシャには見えた。だから自分のできる精一杯の笑みを浮かべる。場違いなそれに、カミルは目を丸くする。
「ええ。一緒に行きましょう。ウラノスは私からきっと離れませんから」
「申し訳ない」
頭を下げるカミルにアリシャは静かに首を横に振った。
「私は何もできませんが…でも、置いてかれる方がいやです。だって……私は、カミル様の、第一王子の婚約者、ですもの」
「アリシャ…」
「だから、連れて行ってください」
「…ああ」
アリシャの言葉にカミルは頷いた。それが合図だった。
ヤードたち3人は聖龍に駆け寄り、その背にまたがるとすぐに空に消えていった。
「アリシャ、俺たちも」
「はい」
ウラノスに近づくと、まずはアリシャをウラノスの背に乗せる。次に、カミルもその背にまたがった。
「ウラノス、お願い」
「ウルッ」
アリシャの言葉に返事をするように鳴くと、ウラノスは空へ舞い上がる。
「ウラノス、南へ行ってくれ。急いでほしい」
「…」
アリシャの時とは違い返事のような声はないものの、ウラノスは、翼を上下に激しく動かし始めた。すぐに、風に乗るように飛び始める。
「きゃっ」
あまりの速さにアリシャが思わず声を上げた。以前、アリシャが乗ったときとは比べもの速さである。カミルはアリシャの背を包むようにしながら、ウラノスの首にしがみついた。そうしながら、なぜ自分がウラノスの背に乗っているのか、わかった気がした。
日頃から鍛えているカミルやライモンドたちは、猛スピードで飛ぶ聖龍の速さに耐えられるだろう。けれど、アリシャ一人では、この風圧に耐えることはできない。だからこそカミルは、今、ウラノスの背に乗っている。アリシャを守るために。決して信頼されたわけではなく、すべてはアリシャのため。そのためになら、アリシャ以外の人間も背に乗せるのだ。アリシャを守るためになら、何でもするという揺るぎない想いをカミルは感じ取った。それがあるからこそ、今こうして、空を埋め尽くさんばかりの聖龍たちが北に、南に向かって飛んでいる。
あの日、アリシャが聖龍に会い、好かれたからこその光景。
「アリシャ、…ありがとう」
小さく告げたそれは、アリシャには聞こえなかった。けれど、カミルにはそれでもよかった。
今年中に、終わらせたい!終わるかな。。。頑張ろうと思っています!
内容は、あとから、直す…かもしれない。どうだろう。質が落ちないように祈っています(笑)