チャルキ国とダージャ国
不穏な言葉にすぐに理解ができなかった。口は開くが、言葉は出てこない。
「詳細を」
「今、王宮にいる兵士たちをライモンド様が中心となり集めているところです。まずはそちらへお願いします」
兵士の言葉に、カミルは立ち上がった。慌ててアリシャも立ち上がる。急かされるように部屋を出た。
ドレスの裾を持ち、アリシャは走った。カミルと兵士と徐々に離されていく。開いていく距離が怖くて、アリシャは懸命に右足と左足を動かした。
玄関を出れば、そこは異様な光景だった。武装した男たちが集まり、黒い塊を作っている。怒鳴るような、叫ぶような声が飛び交っていた。
「カミル王子」
1人が声を出した。男たちの視線が一気にカミルに集まる。あれだけ騒がしかった声がピタリと止んだ。
「状況を説明してくれ」
カミルはあたりを見回し、叫ぶようにいった。誰に尋ねればいいのかわからなかったからだ。すぐに反応したのはライモンドだった。すでに甲冑を身に纏う彼の姿は、アリシャの知っている姿ではない。
ライモンドは一度頭を下げると、周りにも聞こえるように大きな声で状況を説明した。
「聖龍に乗った偵察隊が、南のダージャ国の不穏な動きを察知しました。詳細を把握しようと近づいたところ、大砲のようなもので撃たれました。なお、聖龍は翼に傷を負っており、すぐには飛べない状態であり、兵士は全身を強く打ち、病院に運ばれ治療を受けています」
「不穏な動きとは具体的にどういうものだ?」
「武器を持った兵士が、国境を越えようとしております。なお、すぐにチャルキ国にも偵察を出しましたが、同じにように武装しております。状況から考え、両国が手を組み、ナーリ国に攻め入ろうとしているのだと思われます」
ライモンドのカミルへの口調に違和を感じ、アリシャは2人を凝視した。けれど、すぐに思った。目の前にいるのは、「カミル」と「ライモンド」ではなく、ナーリ国の第一王子とその側近なのだと。
「…」
カミルは眉間にしわを寄せながら、ライモンドの言葉を聞いた。チャルキ国、ダージャ国と和平条約が結ばれてから久しい。両国の野心を感じながらも、ナーリ国は聖龍という圧倒的な武力をちらつかせ、バランスを保ってきたはずだった。武器の製造、所持については、一定の規制を設けながらも、属国とすることなく、完全な自治を認めてきた。国王同士の交流も設け、有効な関係を築いてきたはずだった。それなのに、なぜこんな事態になっているのか。定期的な交流に頻繁に同行しているカミルだからこそ、今の状況をすぐには理解できなかった。
「個人的な見解を述べてもよろしいでしょうか?」
考え込むカミルを助けるようにライモンドが言葉を発する。カミルは頷くことで先を促した。
「チャルキ国は北、ダージャ国は南に位置しています。両国が連絡を取り合うためには、必ず、ここナーリ国を通らなければなりません。そして、両国の動向は我が軍が定期的に観察していた。ならば、頻繁に行き来はできなかったはずです」
「そうだな」
「また、我が国の一番の武器、それは、聖龍です。両国もそこを押さえず侵攻するほど愚かではないでしょう。おそらくナーリ国にどのくらいの聖龍がいて、聖龍に対抗するためにはどうすればいいのか、綿密な作戦が練られた上での侵攻だと考えられます。両国は大砲を以前から持っていましたが、機敏な動きをする聖龍に当たることはなかった。しかし、今回はたった一発が見事に聖龍の翼を打ち抜きました。聖龍の動きに対応できる武器を用意し、兵士を集めた。また、この時期は、聖龍の繁殖期であり、雌の聖龍は子を産むため戦いに参加できません。武器や兵士を用意し、聖龍が一番少なくなるタイミングを図った。…おそらく、数年、あるいは十数年の時間を経てた上での行動であると考えます」
「……おそらく、ライモンドの言うとおりだろう。両国への偵察は常に行ってきた。偵察の時間はいつもずらして行っていたが、所詮、人のやること。おそらく、一定の規則性を見つけ、その偵察の穴をぬって、準備を進めてきたのだろうな」
「おそらくは」
「軍の聖龍の数は限られている。そして、この時期。両国はこちらの聖龍の数を確認し、それに対抗できると踏んで、今回の行動に出た。…圧倒的に、こちらが不利というわけか」
「な!そ、それでは、どうするのですか?こ、国王、国王はなんとおっしゃっているのです!?」
白髪交じりの男性が声を荒げた。武装していないところから見ると、軍の関係者ではないようである。
「トリス宰相、落ち着いてください」
「お、落ち着けですと?カミル王子、これが落ち着いていられる状況ですか!」
つばを飛ばし、鼻息を荒くする。そんな彼のおかげで、アリシャは少しだけ落ち着きを取り戻した。北の好戦的なチャルキ国と南の野心的なダージャ国。その両国がナーリ国に攻め入ろうとしている。それも、ナーリ国の状況を数年にわたり調査し、綿密に戦略を練った上で。ナーリ国の戦力は北と南に分断され、頼みの綱である聖龍は高度な大砲で押さえ込まれる。打つ手がない状況であるということはアリシャにもわかった。
兵士たちは冷静にカミルとライモンドの話を聞いている。1人騒ぎ立てる宰相を無視し、紋章を付けた5人の男たちがカミルに近づいてきた。身につけているものから位が高いことがわかる。この状況から判断するに、部隊の隊長たちなのだろう。
矛盾とか、あると思うのですが、言いたい台詞が今後出てくるので、それを出したいのです。
完成したら、一度見直すと思います。
(いつもこんな感じのUPですみません。せっかくラブラブしてきたのに…)