映る
カミル、腕の見せ所だよ、ターンw
うん。ちゃんと、サブタイトルはちゃんとあとから、考えます。無難に、1.2にしておけばよかった笑
今後、ウラノス出てくる気がします。でも、長くなりそう。…どうだろうか?
それはさておき、書いていて楽しいです。
街の中の行き交う声が、急に止んだように、2人の間を静寂が包んだ。アリシャはまっすぐにカミルを見る。目を逸らしてはいけない気がした。
カミルはそっと右手を伸ばす。アリシャの頬に触れた。一瞬アリシャの肩が持ち上がる。それでもカミルは手を離さなかった。小さく口角を上げたカミルが目の前にいる。左手もアリシャの頬に触れた。両の手で包まれ、なぜか泣きそうになる。
「言いたいことは、それで全部言えた?」
それは穏やかな声。アリシャの瞳にカミルが映る。同じようにカミルの瞳にもアリシャが映っていた。
「なんでも、全部聞くから、アリシャの気持ちを俺に教えて」
「…」
「だから、一度、家に帰ろう。ね?」
子どもをあやすようなそんな声色。カミルの手が今度はアリシャの手を包んだ。知らぬ間に右足と左足が動き、馬車に乗る。
気がつけばアリシャに与えられた部屋のソファーに座っていた。目の前のカミルは床に膝を付けている。その光景に二拍遅れてアリシャは反応した。立ち上がり、カミルの肩に触れる。
「お、王子、立ってください。王子が膝をつけるなど…」
「違うよ、アリシャ」
「え?」
「王子じゃない」
カミルはアリシャの腰に触れ、そのままソファーに座らせた。アリシャが少しだけ見下ろすような形になる。
「カミル王子…」
「違うって。ねぇ、アリシャ」
「…」
「俺の名前を呼んで」
「カミル…様」
アリシャの言葉にカミルは満足そうに頷いた。
「せめて、隣に座ってください」
「しょうがないな」
カミルはやっと腰を上げた。少しだけ距離を開け、ソファーに座る。
「あの…先ほどは、…すみませんでした」
頭を下げるアリシャにカミルは首を横に振った。そして、右手と左手を伸ばし、アリシャの手に触れる。その暖かい温度に、心臓が一つ音を立てた。
「アリシャが謝ることなんて、何もないよ」
「でも…」
「ねぇ、アリシャはどうしたい?何がしたくて、何がしたくない?何がほしい?」
「…」
「さっきも言ったけど、俺は、アリシャじゃないから、アリシャの本当の気持ちは、言ってくれないとわからない。…アリシャのことをちゃんと知りたいんだ。アリシャに何をしたら喜んでくれるのか、何をしたらいやなのか。今、何がつらいのか。これからどうしてほしいのか」
「…」
「ねぇ、アリシャ、それを、俺に教えてくれない?」
少しだけ開いている窓から風が入ってきた。アリシャの長い髪が風で揺れる。その心地よさに、ふと息を吐いた。
「ねぇ、アリシャ。ここには君の妹と比べる人なんていないよ。だから、本当の気持ちを教えて」
まっすぐな視線で、まっすぐな言葉でカミルはそう言った。
ルシアのかわいい笑顔がアリシャの脳内に浮かぶ。自分と同じ顔なのに、それでもかわいい自分とは違う優秀な妹。ああ、そうか、アリシャはそう思った。ずっと比べられることが苦しかったんだな、と。それでいいと、当たり前だと思っていた。まったく同じ時に生まれ、同じ見た目をしているのだ。比べるなという方が無理だろう。そして自分は何をどうやっても、ルシアには敵わない。勉強も、運動も、周りの人たちとの関係の築き方も。ずっと、仕方がないことだと思っていた。敵わないものは、敵わない。けれど、ずっと苦しかった。
「……私は…」
いつか自分とルシアを比べない人が現れてくれることをどこか期待していた。けれど、いつだってみんなの視線はルシアに行く。だから、期待することをやめたのだ。期待したら、その分だけつらくなるから。一番つらい選択を選んでおけば、自分で自分を傷つけておけば、傷つけられることはないから。誰かにつけられる傷より、自分でつける傷の方がまだ幾分ましだった。それは、17年間で染みついたアリシャの癖のようなもの。
「……」
「アリシャ、ゆっくりでいい。…アリシャの言葉で気持ちを教えて?」
優しい声だった。空のように綺麗な青い瞳に自分だけが映っている。それがこれほど幸せなことなんて、知らなかった。いつか祖母が言っていた『驚くほど幸せなこと』とはこのことなのかもしれない。
愛されていた。両親にも、妹にも。アリシャが思うよりも、ずっとずっと愛されていた。 森や湖に逃げ込んだ自分を誰も迎えに来てくれなかった、んじゃない。逃げることを許されていたのだ。勝手に落ち込んで、勝手に逃げていた。そんな自分を心配してくれていた。連れ戻すことが最善だとは思わなかったからみんな、見守っていただけだった。そして、きっと待っていた。アリシャが自分から戻ってくることを。妹と比べられても、「大丈夫」といえる強さを持つことを、きっと両親は期待していた。
けれど、アリシャは迎えに来てほしかった。「そのままでいいよ」と言って欲しかった。
「私は…」
いつの間にかアリシャは、何も言えなくなっていた。比べられるのが怖くて。本当の自分ではだめだと言われそうで。もっともっと頑張らなくてはいけないと。ルシアと同じようにできなくてはいけないとずっと思っていた。けれど頑張ったところでルシアには敵わない。だから、逃げた。
けれど、今、この人の目の前にいるのは自分だけで、こんな風に、瞳の中心に映っているのも自分だけ。だから、アリシャはカミルの目を見た。繋がれた両手に力を入れる。
「私は、ここに…カミル様の隣に…いて、いいのでしょうか?」




