立派ですね
更新遅くてすみません。そしてウラノスが全然出てこなくてすみません。
建物の中は清潔感があり、すべてが洗練されていた。高価な置物があるわけではないのに高級感がある。それでも、ところどころに片づけ忘れたおもちゃが転がっており、生活感がにじみ出ていた。それが微笑ましくてアリシャは口角を上げる。きっと子どもたちはのびのびと過ごしているのだろう。
「ミーナ先生、彼女はここに来るのが初めてなので、施設の説明もしていただけますか?」
きょろきょろと辺りを見回しながら後ろをついていくアリシャの姿を見てカミルがそう言った。その言葉にミーナはアリシャを見る。そしてすぐに笑みを浮かべた。
「はい。かしこまりました」
「申し訳ありません」
すかさず頭を下げるアリシャにカミルは小さく苦笑を浮かべる。
「アリシャ、こういうときはもっと違う言葉の方がいいと思うよ」
「…はい。ミーナ様、ありがとうございます。自己紹介が遅れました。私は、アリシャと申します」
「アリシャ様ですね。私はここで子どもたちの世話をしておりますミーナと申します」
「よろしくお願いいたします」
「アリシャ様は、…カミル様の大切な人なんですね」
「え?」
突然の言葉にアリシャは思わず立ち止まった。それに合わせて4人も足を止める。
「ミーナ先生、どうしてアリシャ様がカミルの大切な人だと?」
どこか面白がるようなライモンド。それに合わせるようにミーナは小さく口角を上げた。
「カミル様の目が優しかったから、でしょうか」
「にじみ出ちゃってました?俺の気持ち」
「うふふ。ええ。にじみ出ていましたよ」
「そ、そんなこと…」
「ほら、アリシャ様。先に進みましょう。ね?」
からかわれているのだろうことはわかる。けれどそれに平然と反応することはまだアリシャにはできなかった。面白いくらいに顔を赤く染めるアリシャの肩をレイラが優しく押す。それに身をゆだねるようにアリシャは足を動かした。その様子にカミルとライモンドは顔を見合わせ小さく笑う。
「あまりに初々しかったので、つい。アリシャ様、申し訳ありません」
どこかはにかみながらミーナは小さく頭を下げる。そのミーナにアリシャは首を左右に振り、気にしていないと伝えた。
「ありがとうございます。それでは、気を取り直して、アリシャ様、ここソレイユがどのような施設かはご存じですか?」
「はい。道中にカミル様からお聞きしました」
「そうですか。もしかしたら重複してしまうかもしれませんが簡単に説明させていただきますね」
「はい、お願いします」
「ここソレイユは親と過ごすことのできない15歳までの子どもを育てる施設です。子どもたちは15歳になるとここを卒業し、社会の中で一人の大人として生活していかなければなりません」
「15歳で、大人にならなければいけないんですね」
「はい。ずいぶん早い成人だと思います。…本当はずっと傍にいてあげたいですけれど、税金で運営している以上、そういうわけにもいきません。だからこそ、私たちは、生活の支援をするのと同じくらい子どもたちが大人として成長する手助けに力を入れています。社会に出たときに、きちんと生きていけるように」
「立派なお仕事ですね」
「いいえ。本当に立派なのは子どもたちです。親が死んでしまったり、親に捨てられたり、そんな過去ときちんと向き合いながら、それでも笑い合えるんです。そして、早く大人になろうと努力している。本当に頭が下がります」
「素敵な子どもたちなんですね」
アリシャの言葉にミーナは嬉しそうに頷いた。その笑みが本当に嬉しそうでアリシャも両頬を持ち上げる。
「子どもたちと接していると私の方が気づかされることが多いです。本当にいい子たちなんです。もちろん、いたずらすることも喧嘩することもありますが、一人一人が自分と向き合い、今の環境を受け入れながら、前を向いている。…育ててもらっているのは私たちなのかもしれません。あの子たちに比べれば私なんてまだまだです」
どこか自嘲的な笑みを浮かべるミーナ。そんな彼女にアリシャは首を横に振って見せた。
「いいえ。もちろん子どもたちと一緒にいて成長することもあるでしょう。けれど、子どもたちが笑えているのはミーナ先生をはじめ、皆さんが愛情を持って子どもたちと接しているからだと思います。きっと本気でぶつかり、泣いて笑って絆を作ってきたのでしょう。だから、つらい思いを抱えながらも子どもたちは自然に笑えるのだと思いますよ。だから、先生たちも立派なんです」
「…」
「あ、すみません。何も知らないのに、知ったようなことを言ってしまって」
口を閉じたミーナにアリシャは慌ててそう付け加えた。けれど、ミーナは静かに首を横に振る。
「…ありがとう…ござい…ます…」
途切れ途切れに感謝の言葉を口に出すミーナは思わず口を押えた。その様子にアリシャは動揺する。そんなアリシャの頭をカミルはぽんぽんと2回撫でた。
「カミル…様…?」
「さすが、俺のアリシャ」
どこか誇らしげなカミルの様子。その後ろでライモンドとレイラも笑みを浮かべていた。
「ミーナ先生。いつも、ありがとうございます。先生方のおかげです」
「もったいないお言葉です」
ミーナは深々と頭を下げた。
ウラノスをうまく使えない自分が悔しいです。いつ出てくるのか未定ですが、孤児院の話が少し続きます。