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サプライズ

作者: 相里紘香

この世界が漫画の中の物語だったとしたら、友人の塩野柚花は間違いなくヒロインだ。


彼女は明るくて、いつも笑っている。表情豊かで、喜怒哀楽が分かりやすかった。そして、とてつもなく、顔が可愛かった。


身に纏ったものが全ておしゃれなものに見え、特別なものに感じた。彼女の存在は、間違いなく価値があった。


特に面白味のないわたしと仲良くしているということが、正直不思議だった。


彼女の一番ではないということは気づいていたし、当たり前だと思っていた。一番になりたいという気持ちも全く持っていなかった。


それでいて、彼女の方から時偶、連絡をくれる。



高校3年生の時に同じクラスになった。席が近かったわけでもないのに、向こうから話しかけてきたのだ。


隣のクラスの可愛い女の子、彼女に対しての認識はそのくらいだった。しかし柚花は「B組だった坂口里佳ちゃんだよね?」と話しかけてきた。


「知ってるの?」私は軽く苦笑いを浮かべる。「知ってる」と柚花は何か企んでいる様な笑みを向けてきた。


たまに喧嘩をすることもあったが、それは長引かず、数日後には仲直りした。


喧嘩中も、「ちょっと喧嘩してるんだよね」とお互い本人のいる前で、他の友達に話していた。特に仲間外れにするわけでもなく、同じ空間にいた。


大学も同じところに進んだ。示し合わせたわけではなかったが、偶然魅力に感じた学校が同じだった。


学部は違うものの、共通の趣味があったので、サークルでよく顔を合わせていた。


柚花がサークルに顔を出せば、みんな彼女に声をかけ、笑顔になった。


彼女はアイドルだった。


大学の学部の中で彼氏ができた。すぐに柚花に紹介した。


恋愛の悩みは全て柚花に相談した。そもそもいつもわたしが話してばかりで、彼女は聞き役に回ることが多かった。2人で遊ぶことは多かったが、彼女のことはあまり知らなかった。


数ヶ月経ってから、彼女にも彼氏ができていたことを知った。


可愛いから、彼氏がいないことは不思議だった。しかし彼女の方から恋の話題を持ちかけられることはなかった。


わたしは彼女になんでも話してしまうが、彼女はわたしに何も話していないのかもしれない。ある意味どうでもいいことしか、彼女からは聞いたことがなかった。


それでも楽しく会話をしていたし、話は途切れなかった。気に留めることもなかった。


大学内外で何度か彼氏ができ、別れた。柚花の方はずっと同じ人と付き合っていた。


私から聞けば、彼とのことを話してくれたが、やっぱり彼女からは話してくることはなかった。


4年で大学は卒業した。


柚花は下着メーカーに勤めることになった。わたしは小さなデザイン会社の事務職についた。就職してからも1ヶ月に1度は会っていた。


2人きりのこともあれば、サークルの友人や、共通の知り合い、はたまたお互いの職場の人と飲みに行ったりもした。


わたしは職場の3つ年上の先輩と付き合い、交際から1年後、結婚することになった。


彼女に彼氏ができたことは話していなかった。彼女は自分のことをあまり話さない。そのことがなんとなく面白くなくて、そのことがかっこよくみえて、結婚が決まった時に驚かせたくなってしまったのだ。


結婚式をする予定はなかった。写真だけ、結婚式場を借りて撮った。婚姻届も同じ日に役所に提出した。


「わたし、結婚したの」


就職から1年間は月に1度会っていたが、だんだん回数は減り、今では3ヶ月に一度くらいの頻度だった。


入籍の翌日、柚花と二人で会った。


彼女は驚いていた。こんなに驚いた顔を見るのは、7年の付き合いで初めてだった。


「彼氏がいたことも知らなかった」


「タイミングがなくて、言えてなかったんだ」

わたしは本当の理由とは異なる言い訳をした。


「そうなんだ。おめでとう」

彼女の表情は、少し暗かった。


別れる時、彼女は「言って欲しかったな」と寂しそうに笑った。


だって、柚花も自分の話はしないじゃない。


わたしはそう思ったことは口に出さず、「ごめん」と笑顔を取り繕いつつ、返した。



その日から、彼女とは連絡を取っていない。


わたしは趣味の悪いサプライズをしてしまったらしい。


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